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Chapter.84

 後夜祭は大盛り上がりで終わって、実行委員会の人たちからものすごい感謝された。喜んでくれる人がいたならよかったかなぁ、って、急にこみあげた恥ずかしさを消すように無理矢理納得することにした。

 帰る前に荷物を取るために二人で教室に戻ったら、先に戻っていたクラスメイトがドッと押し寄せてきた。

「ねぇいつから?!」

「なんであますぎさん?!」

「ってか元々付き合ってたんじゃないの?!」

 聖徳太子じゃないと処理しきれないほどの質問責めに、由上さんと私は驚いて、でもおかしくて二人で笑ってしまう。

「いつからとかその辺はまだ、本人にも伝えてないから、みんなには内緒」

「ってかどーすんの? とりまきとかさ」

「取り巻かれた覚えはないんだけど……気持ちはありがたいけど……」

 由上さんは私を気にしながら言葉を選んでいる。

 私にはなにも言う権利はないから、黙ってそれを聞くしかできない。というか、みんなすごい、興味津々だなぁ。

 引く気がないみんなに囲まれながら、どうしようかって由上さんと顔を見合わせていたら

「お疲れお疲れー! すごい人だかりじゃん! ミイナちゃんも由上くんも人気者だねぇ」

 入り口付近で固まっていた人だかりを避けながら、初音ちゃんが教室に入ってきた。

「先生がそろそろ帰れって言ってたよ~。私らが帰んないと、先生も帰れないって」

「お、そりゃ大変」

「じゃあ今日のところは解散するかぁ」

「明後日、もっとたくさん質問攻めにあうと思うよ」

 みんなが口々に言うそれらをうなずきながら聞いて、私たちは教室をあとにした。

 初音(うぶね)ちゃんにありがとうって言ったら、私も聞きたいことたくさんあるから、今度ランチね! って念を押された。うん、私も聞いてほしいこと、たくさんあるよ。ほんとに色々あったんだ。

 でも、いまは幸せだから、もう大丈夫。ちゃんと全部、伝えることができる。

 想像していたより楽しい未来が待っていたことに少し戸惑ってるけど、これが“普通”になるようにこれからも頑張ろうって気力が湧いてくる。

 隣には由上さんがいてくれて、もう、思っていた以上に幸せだ。

 飾りつけが取り外されていつもと同じ見た目になった教室を眺めながら廊下を歩いていると

「あ」

 由上さんが小さく言って立ち止まった。

「?」

 不思議に思って前を見たら、由上さんの視線の先に、津嶋くんがいた。津嶋くんはこちらに気づいて、一緒にいたお友達に声をかけてこちらに歩いてくる。

 由上さんは津嶋くんに対峙して、まっすぐに津嶋くんを見つめた。

「泣かせたら許さないから」

「うん。わかってる」

「ほんとかなぁ」

「ほんと。マジで。もう誰にもなにもさせない」

「……それっておれも入ってる?」

「あー、まぁ、そうね。入ってるかな」

「……ま、そりゃそうか」

 ふっと津嶋くんが笑った。突然、緊張の糸が緩んだみたいに思えて、少し不思議で、少し離れた場所から二人を見つめる。

 女子(わたし)にはわからないなにかが、男子(ふたり)にはあるのかもしれない。

 津嶋くんはうつむかせていた顔を上げて、由上さん越しに私を見ていう。

「困ったらいつでもおいで」

「え、と……」

「いま困ってんじゃん」

「ほんとだ」

 津嶋くんが笑う。その笑みはもう、“無理をしてる”感じじゃなくて……。

「じゃあまぁ……なんか用事があったら話しかけるだろうけど、それは勘弁な」

「おう」

 由上さんの返答を聞いて元の場所に戻ろうとする津嶋くんの背中に、

「津嶋くん!」

 呼びかけた。

「ん?」

「あの……ありがとう!」

 私の言葉に津嶋くんは一瞬驚いて、キョトンとして、そしてすぐに笑顔になって。

「うん」

 右手を挙げて踵を返した。少し離れた場所で待っていたお友達に向かって小走りに去っていく。

 見送った私たちは、津嶋くんとは逆の方向に進む。

「……オレの知らないところで、いろいろあった感じ?」

「う……まぁ、そう、です、ね……」

 落ち込んでるとき助けてもらっただけだけど、なにもなかったわけじゃない。けど、エピソードとして伝えられるほどの話術もなくて言いよどんでしまう。

「そっか。じゃあ津嶋には感謝だけど……今度から、オレに頼ってね」

「はい。ご迷惑をおかけしない程度に」

「迷惑じゃないから。だってもう……“カノジョ”、でしょ?」

「……は、はい、そう、です、ね」

 言葉にされるとさらに恥ずかしい。これ、いつか慣れたりするのかな? って疑問に思ってしまう。だってお付き合いするって、いままでみたいに一緒にいるってだけじゃないだろうし……。

 学校の敷地を出ると、さっきまで少し残っていたお祭りの雰囲気がまったくなくなった。ただの、夜の街の静寂がそこにある。

 なんとなく冷静……というか、落ち着きを取り戻して急に恥ずかしくなった。

 頬や耳が熱くて、赤くなっているのがバレないといいなぁって思いながら黙って歩いていたら、由上さんの左手が私の右手に少し触れた。自分とは違う体温を、こんなに愛しいと感じるのは初めてで……。

「……いい?」

「……」

 なんて答えていいかわからなくて、戸惑って、小さくうなずく。隣で優しく微笑む気配を感じるけど、それを見ることすらできない。

 触れていただけの指がそっと私の手の中に入り込んで、そして、絡んだ。お互いの指を組む独特な繋ぎかた。初めてのその感触が、嬉しくて、くすぐったい。

 繋ぐその手の温度を初めて知ったのは――って思い起こして、夏祭りのときのことを思い出す。あのときも緊張したけど、いまもまだ少し緊張している。進歩しているようでしていない自分に思わず笑ったら

「なに?」

 由上さんが不思議そうにこちらを見た。

「ちょっと、思い出しました」

「なにを?」

「……夏祭りのときのこと、です」

「あー、そういえばあのときだね、初めて手ぇつないだの」

「はい」

「あのときは周りに知り合いいなかったからできたけど、これからは周りに誰かいても気にしないで良くなるな」

 知り合い、実はいたんですよ、って言ったら驚くかな。なんて思いつつ、言わないことにした。いまは、誰の名前も出さずに二人だけの世界の中にいたい。

「改めて、これからもよろしくね」

「こ、こちらこそ……」

 そう言われてやっと実感が湧いてきて、頬が熱くなった。

「な、なんだか、照れますね」

「ね。オレもこういうの初めてで、照れくさい」

「えっ、そうなんですか」

「うん。中学の頃は部活で忙しかったし、高校入ってからはもうずっと……いや、これはまだいいや」

「なんですか? 気になります」

「んー……。まだ周りに人がいるから、二人きりになれたらね」

「……はい」

 そう言われたらもう追及できなくて、ほかの事を喋りながら駅に向かう。

 改札を通ってホームに着いて気づく。なにも言わなくても送ってくれるんだって。

 いつもより遅い時間に乗る電車は、乗客の雰囲気も違う。帰宅ラッシュは過ぎているけど、社会人の人の割合が多い。並んで座れる席が空いていなかったから、私たちはそのまま電車のドア付近に陣取った。

 文化祭の楽しかったこと、大変だったこと、去年はなにをしていたか……。 さっきまで“いま”だったことがもう“思い出”に変わっているのが不思議で、目の前の由上さんがいまは私のカレシだってことも不思議。人生って、本当に不思議なことばかりだなって思う。

 私の家の最寄り駅に電車が停まってホームに降りた。改札を出て家までの道を歩く。けど、由上さんが速度を緩めた。

「なんか……まだしゃべってたいな」

「私も、です」

「でもあんまり遅くなると心配かけるよね?」

「一応、今日は後夜祭に参加するから遅くなる、とは言ってます」

「ほんと? じゃあどっか、寄り道しよう」

「はい」

 じゃあ、と私が提案したのは、近くのマンションの下にある公園だった。照明は少なくて薄暗いけど、すぐ近くに大きな道路があって人通りもそこそこの場所だから夜でも治安は守られていて安心。

 植木付近のベンチに並んで座って、会話を続けた。

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