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Chapter.36

 今日もお昼に美好さんから誘われて、由上さんと三人でお昼ご飯を食べる。

 もしかして、ファンクラブの人たちから守ってくれてるのかな……?

 お昼以外でも話しかけられる機会が増えて、私もちょっと慣れてきた。

 あれ以来、由上さんのファンクラブの人たちになにか言われることもなくなったし、また平穏な日々が訪れると思っていたし、実際なにもなくて平和な日々を過ごしている。

 だけど、由上さんと二人で話す機会が少なく……いや、なくなってしまった。そういうシチュエーションになりそうなときに限って、美好さんが声をかけてくる。

 話しかけてくれるのはありがたいし、仲良くなりたいとも思う。けど……その状況がしばらく続いてしまって、私の心の中のモヤモヤは少しずつ降り積もっていった。

 日記にも不満や不安を綴ることが増えてきたし、チェックリストも埋まらなくなった。

 それが原因なのかはわからないけど、由上さんから話しかけてくれることも減ってきてしまって……そんな状況になった矢先に突然の席替えがあった。

 私の席は教卓の目の前、由上さんの席は校庭側の窓際後方。もう授業中や合間の休み時間に交流することもなくなった。

 由上さんの隣、こないだまで私がいられた場所にはいま、美好さんがいる。

 ……それでいいんだ。

 由上さんと二人で話さなければ、誰かに邪魔されることもない。ハラハラキリキリしたりも、ドキドキワクワクしたりもしなくて、心は平穏。少し前の私みたいに凪いでいる。波立つことがなくなって、私は平和を取り戻した。

 けれど、初音(ウブネ)ちゃんと立川くんに心配をかけてしまった。

「最近、蒼和ちゃんと喋ってる?」

「うーん、そんなに?」

「蒼和ちゃんが話しかけても美好さん来ちゃうじゃない? 仲いい人が増えるのはいいんだけど、なんかちょっと……」

「うーん。でもほら、最近はそういうのもなくなったから」

「だって二人、喋ってないから」

「そりゃなくなるねぇ、そういうの」

 会話を聞いていた立川くんが頬杖をつきながら言う。

「うん……でも、それが普通だったから……大丈夫」

 別になにかされてたわけじゃないし、クラスメイトと仲良くなれるのは嬉しいから、大丈夫。美好さんはなにも悪くない。悪いのは、由上さんを独り占めできなくて寂しがっている私だ。

「蒼和も、最近天椙さん元気ないって心配してたよ」

 しょんぼりとうつむく私に、立川くんが微笑みかけた。

「え、そうなんだ……。それは悪いことしてるなぁ……」

「ミイナちゃんが悪いわけじゃないでしょ~!」

「でも心配かけてるし……」

 私の元気がないのは由上さんと二人でお話できる時間が減っちゃったからだけど、それが原因で由上さんに心配かけてるとか、どれだけ“おんぶにだっこ”状態なんだか……。

「とにかく、今度四人でどっか行こう! もうすぐ夏休みだしさ、期末終わったらさ」

「うん、ありがとう」

 いまは三人で駅近くのファミレスにいる。初音ちゃんが由上さんを誘ってくれてたけど、先に美好さんたちに誘われてたみたいで、ほかのグループと一緒に遊びに行ってるみたい。

「もー、蒼和ちゃんももっとハッキリしたらいいのにさ~」

 初音ちゃんはそう言ってくれるけど、ハッキリした結果が美好さんと遊びに行くことなのかもしれないし、由上さんには由上さんの事情があるんだと思う。

「蒼和には蒼和の考えがあるんじゃない? それに、学校中から注目される存在ってのも大変みたいよ?」

「それはそうだろうけど、蒼和ちゃん私にはそういうの言ってくれないもん」

「そりゃ、女子には言えないことがあるんだよ。そっちだってそうでしょ?」

「そうだけど~」

 なだめる立川くんの言葉に、初音ちゃんは納得してないように机に伏せた。

「だけどさ、私はミイナちゃんと蒼和ちゃんにくっついてほしいんだもん」

「えっ、そんな大それたことを」

 接点を作ってくれてるのはわかってたけど、まさかその先まで考えていたなんて。

「大それてなんかないよ。言ったじゃん、蒼和ちゃんだってフツーの男子高校生なんだって。彼女くらいいて当たり前なんだからさ」

 グラスの中の氷をストローでカラコロ鳴らしながら初音ちゃんは口をとがらせる。駄々っ子みたいで可愛くて、思わずふふっと笑ったら

「も~。ミイナちゃんはなんでそんなにおっとりさんなの~」

 ますます口をとがらせてしまった。

「ごめん。でも私、由上さんとお付き合いしたいとか、そういう風に思ってるわけじゃないんだよ」

「えー」

「好きというか……憧れ? みたいな。ただ一緒にいられたり、おしゃべりできたら嬉しいなって、それだけなんだ」

 言いながら、胃のあたりがチクチク痛む。

 自分が“カノジョ”になりたいと思ってないけど、誰かになられるのもイヤだ。

 他の由上さんのことを気にしている人がどう思ってるかわらかないけど、おんなじように思ってる人、けっこういるんじゃないかな。

「じゃあ、蒼和ちゃんに告られても、断っちゃうってこと?」

「こっ!」想像もしていなかったからビックリして少し声が大きくなる。周りからは気にされてないけど、声のトーンを落として続ける。「告白とか、そういうのは考えたことないけど……!」

 私の回答に、初音ちゃんが不服そうな顔を見せた。

「正直、想像つかないし……その……もしお付き合いできたとしても、緊張して……どうしたらいいか、わからないと思う」

 それは由上さんに対してだけじゃなくて、津嶋くんにもそうで。

 実際そうなったらじきに慣れるものなのかもしれないけど、自分が誰かの“カノジョ”になるとか、やっぱり想像がつかない。

「そっかー。ミイナちゃんピュアだもんねー」

「そういうのでもないけど……なんか、ありがとう」

「ううん? おせっかいでごめん。なにか力になれることあったら言ってね」

「うん。もう充分、なってもらってるよ」

 言って照れ笑いを浮かべたら、初音ちゃんも同じようにえへへと笑う。

 そんな二人を見ていた立川くんも、嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。


* * *


 翌日になっても、初音ちゃんに言われたことを思い出す。

 告白……由上さんがされてるっていう話は何回も聞いたことがある。けど、いまだに由上さんの隣に決まった人はいない。

 もしかして、誰ともそうなる気、ないんじゃないかなって思ったりしてる。安心なような、少し寂しいような……。でもその寂しさがなんなのかがわからない。

 そんなことを考えながら駅舎を出たら、学校へ続く道で由上さんを見かけた。

 ふと桐生くんに言われたことを思い出す。由上さんも私も、見た目に特徴があるから目立つって。

 うーん確かに、由上さんのピンク色の髪は遠目でもすぐにわかる。私もそんな感じかぁ。

 自分の着ている制服を見てしまう。

 いまはまだブレザーだけど、来月には衣替えで半袖になる。

 ただの開襟シャツとスカートになるから、私服の中にいてもいまほど目立たなくなるとは思うけど……。

 目立ってたって私は別に、私自身が誰かから注目されるとかいうこともないんだけど、由上さんは違っていて。

 由上さんを見つけた人は、声をかけて挨拶してる。上級生や下級生にも知られていて、遠目に見つめられたり声をかけられたり。遠目に眺めていると良くわかる。由上さんとすれ違う人は、男女学年関係なく、挨拶をしたり声をかけたり注目したり……

 あ。

 並木道で待っていたらしい女子が誰かに押されたように由上さんの前に出てきた。手には多分、封筒を持っている。

「よっ、由上センパイ!」

 周囲に聞こえる声量に、由上さんが一瞬驚いて、そして小さく笑った。

 気付かれたくなくて、歩く軌道を変えて道の反対側へ移動する。

 手紙を受け取る由上さんの向こう、木立に隠れていたらしい女子二人組が楽しそうにキャッキャと見守っているのが見えた。きっと彼女たちが手紙の差出人を押したんだなとわかる。

 いいなぁ、青春って感じ。

 頭でそう思っていても、心や身体は違う反応を示していた。

 受取人が知らない人なら言葉通りに微笑ましいけど、今回はちょっと胃が痛い。こういう光景、見慣れているとはいえ、最近の落ち込みようと相まって、ちょっとこたえる。

 なにも見ていないふりをして足早に由上さんを追い越し、校舎内に入る。

 由上さんはあのお手紙、どうするんだろう。捨てたりはしないだろうけど、お返事するのかな。どこかに保管するのかな。いままで受け取ってたお手紙はどうしてるんだろう。

 いつか渡したメモ用紙も、同じようにされてるのかな。

 さすがに私みたいに宝物入れで保管したりはしてないだろうな。

 下駄箱で靴を履き替えながら、つい考えてしまう。

 考えても仕方ないんだけどね……。

 お手紙だけじゃなくてバレンタインとかお誕生日とか、なんだかなにかと渡されているところを見てしまう。

 その度に、身体のどこかがチリチリ焼けるような感覚を覚える。

 自分で行動を起こしてもないのに、誰かが勇気を出した行動に嫉妬心(いだ)くとか、わがままだよなぁ……。

 廊下をとぼとぼ歩いていたら、背後で声が聞こえた。その声は由上さんを呼んでいる。この声、多分、美好さんだ。

「蒼和くん、相変わらずモテてるね」

「え? そうかな」

「さっきも下級生のコになにか渡されてたでしょ」

「あぁ、まぁ」

 歯切れの悪い返答に、拒絶の意志を感じる。

 あまり聞かれたくないのかな……。

 二人の会話を盗み聞きしてるような状態の私も良くないなと気付く。

 身体は考えるより先に動いて、ちょっと大股になって先を急いだ。

 いつも同じ制服、同じ髪型だから後ろ姿で私だってバレてるかもしれない。急に足早に立ち去ったら感じ悪いかもしれない。

 それでもいいから、早くこの場を離れたかった。

 数歩歩いて会話が聞こえなくなっても、私の身体は速度を緩めずに教室へ入った。

 着席して、少しあがった息を鎮めるために大きく息を吸って吐く。

 クラスメイトに朝の挨拶を何度かしたら、由上さんが美好さんと一緒に教室に入ってきた。どうやら下駄箱からずっと一緒だったらしい。

 挨拶する隙間もなく会話を続けながら、二人は教室後方の席に座る。

 聞こうとしなくても声を拾ってしまう耳をふさぐわけにもいかないし、教室内ではもう逃げることもできなくて、先生が来るまでの時間、バッグに入れていた小説を黙々と読んでいた。

 その世界の住人になってしまえば、もう周りの音は気にならない。

 何度読んでも面白いその小説の世界に没頭していたら、時間はあっという間に過ぎていった。


* * *


 一時間目の授業が終わってすぐに席を離れ、教室近くのトイレに入った。鏡を見て、顔が疲れてることに気付く。まだ午前中なのになぁ。

 授業はまだまだあるし、とため息交じりに教室へ戻ろうとしたら、「あのー」見覚えのない生徒に呼び止められた。見た感じ年下っぽくて、たぶん一年生の女の子。モジモジする女の子の隣には、もう一人の女の子が寄り添っている。こんな光景、朝にも見たような……。

「はい」

 返事をしながら、これはもしや……と勘繰った。

 女の子は瞳をウルウルさせながら「由上さん、呼んでもらえますか?」予想通りの要件を告げる。

「し、少々、お待ちください」

 動揺して、お店の店員さんみたいな返事をして、教室内の由上さんを探す。

 由上さんは自分の席で、周りの席の男子たちと喋っていた。

 足取りは重いけどそろそろ次の授業が始まるし、モタモタするのは廊下で待ってる女の子に悪いし、と由上さんに近付く。もちろん、胃はシクシク痛んでいる。

「よ、由上さん……」

「んっ。どうしたの?」

 向けられた笑みがまぶしい。

「由上さんに御用がある方が、廊下でお待ちです……」

 今度はどこかの秘書のような口調になってしまった。

 用件を伝えた途端、由上さんの表情がふと(かげ)る。でもそれはほんの一瞬だけ。

「ん、ありがとう」

 すぐに笑顔に戻って、そのまま廊下へ向かった。けどその笑顔はどこか冷ややかで……なんだか悪いことをした気分になった。

 廊下に出た由上さんは、教室内から見えない位置へ移動した。どうやらそこでさっきの女の子の対応をしているらしい。

 クラスメイトも慣れたもので、もういちいち冷やかしたりしない。由上さんと喋っていた男子たちも、それまでの会話を由上さん抜きで続けている。

 私も自分の席に戻って、次の授業の準備を始める。

「きゃー!」

 嬉しそうな声と共に小走りの足音が遠ざかって行った。

 教室内に戻ってきた由上さんの手には一通の封筒。

「今回は手紙?」

 会話を中断させて、井田くんが質問する。

「んー」

 気のない返事は由上さんのもの。封筒を鞄に入れて、自分の席に座るとまた会話に加わった。

 同じクラスになってもう何度目だろう。最初はビックリしたけど、一か月経った頃から慣れて、当たり前のことになってしまった。

 久しぶりの会話がコレかぁ……。

 いままで仲介役をしたことはなかったけど、なんだかヘコむ。

 “決まった人”が由上さんの隣にいない理由……“みんなの蒼和様”だからか、誰か心の決めた人がいるのか……。

 由上さん本人しか知らないであろうその答えを、知れるときがくるかなぁ。もし知ったとき、私はどう思うんだろう。

 まだ見ぬ未来を憂いながら、男子たちと楽しそうに話す由上さんに思いを馳せた。

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