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Chapter.20

 立川くんの先導で無事到着したファミレスには、音ノ羽の生徒がチラホラいた。

 店員さんに案内され席にたどりつくまでに、由上さんはみんなに気付かれて、指をさされたりコソコソ話されたり注目を浴びていた。

「いやぁ、ピンク髪の威力を思い知るねぇ」

 席について上着を脱ぎながら枚方さんが笑う。

「そうなんだよ。まさか今年も継続するとは」

 同じ動作で立川くんも言った。

「いいじゃん別に、禁止されてるわけでもないんだしさぁ」

「そうだけど、一緒にいるとめっちゃ見られるんだよね。別に俺が見られてるわけじゃないからいいんだけどさ」

 割と同じ時間を過ごしているだろう立川くんでも思うのだから、たまにしかいない私が、そう思うのは当たり前なんだなって少し安心した。

「もーみんな見た目に騙されすぎだよ。こんな高校デビューの人をあがめちゃってさぁ」

 口をとがらせながら枚方さんがメニューを広げる。

「あがめられてはないって」

 苦笑しながら由上さんもメニューを広げ、隣に座る私にも見えるよう、二人の間に置いてくれた。

「ありがとうございます」

「うん」

 メニューをのぞきこんで選び始める。でも緊張して、喉を通らないかもしれないなぁ、とも考える。

「ソワ様とか呼ばれてるじゃん。そんなんされたら、こっちも呼び方考えないとだしさ」一方で話は続いていた。

「いや、ちゃん付け直してねぇじゃん」

「だってラクだし。人前ではやってないし」

「いや」

 由上さんは短く否定して、私のほうを見た。

「あますぎさんはそういう、なんていうの? 熱狂的? な人じゃない感じ。とかって違ったらごめんなさいだけど」

「ね、熱狂的……ではない、かと……?」

 枚方さんの言う“熱狂的”がどの程度かわからなくて、つい言葉を濁す。だって自宅の机の上には、由上さんに蓋を開けてもらった“思い出”の缶ボトルが(うやうや)しく飾られている。手帳にはチェックリストまで作っちゃったりして……それを知ったらどう捉えられるか、私にはわからない。

「ほらぁ。私だって人を選んで呼び方変えてるんだから、そっちを評価してほしいなぁ」

「天椙さんが優しそうだから甘えてるだけじゃないの?」

 立川くんが頬杖をついて枚方さんを見やった。

「それは、それもあるかもだけど~。でも実際優しいんでしょ?」

 枚方さんが問いを投げかけたのは、質問者の立川くんでも私でもなく、由上さんだった。

「うん、優しいよ」その問いに由上さんはこともなげに即答する。

「だよねぇ。じゃあいいじゃん」

 枚方さんは嬉しそうに何度かうなずいて、そのままメニューに視線を落とした。そのまま立川くんとオーダーの相談をする。

 同じように目線を落とした由上さんがポツリと続けた言葉が、私の右耳に届いてしまった。「優しすぎてたまに心配になるけど」

 どっ、どっ、どういう意味?

 慌てる気持ちと比例して、頬が、耳が、身体の内側が熱くなっていく。

 絶対カオ赤い! き、気付かれたらどうしよう! っていうか、やっぱり心配かけてた!

 上気したり血の気が引いたり忙しくしながら、やっとの思いでメニューを決めた。もう、ちょっと、由上さんのほうを見ることができないくらい心臓がバクバク鳴ってる。い、いやいや、単純に、お人よしだから心配になっちゃうって意味だよ、うん。私が期待しすぎなんだって!

「決まった? じゃあ押すね」

 枚方さんが机の端に置かれた呼び出しボタンを押した。ドキドキしすぎて喋れなくなった私は、三人の会話を聞きながら、店員さんが来るまでしばらく待つことにした。

 さっきの由上さんのつぶやきは向かいの二人には届いていなかったみたいで、特に言及されることもなかった。もしかしたら私の聞き違いかもしれないしあまり黙ってるのもどうかと思うから、会話に加わる糸口をつかめないか探りながら話を聞き続ける。

「子供のころは普通の少年だったのになぁ」

 オーダーを終え、メニューを片付けながら枚方さんがあーあ、と息を吐く。

「え、まだその話するの?」

 斜め前に座る枚方さんを見て、由上さんは驚いたような呆れたような声を出した。

「もう良くない? オレだって色々頑張ってんだけど」

「それはそうだろうし、努力が実を結ぶのはいいことだと思うけどさ、気軽に話しかけたりしづらいんだもん。昔みたいに遊ぼうよとは言わないけど、やっぱたまにはこういう時間も欲しいじゃん」

「昔みたいには無理だな」

「俺でも無理だわ」

「だからそうは言わないけどって言ってんじゃん。ホントきみたちそういうとこ子供のままだよね」

「お互いさまだと思うけど」

 言い合う由上さんと枚方さんが仲よさそうに見えて、私にはいないけど、幼馴染ってこういう感じなんだぁってニコニコしてしまう。そんな私の視線に気付いた枚方さんが、慌てたように両手を出した。

「あっ、別に仲悪いわけじゃないからねっ」

「うん、わかるから大丈夫」

 そのフォローに、案外すんなり笑顔で答えることができた。立川くんと同じように、枚方さんには緊張するような雰囲気がなくて話しやすい。

「そっか、良かった」

 えへーと笑った枚方さんにつられて、えへーと同じような笑顔になってしまう。

「いいねぇ、女子が仲良くニコニコしてるの。ね」

「ん? うん。そうね」

 頬杖をついた由上さんが、立川くんに同意する。

 思わず右を見たら、由上さんと目が合った。同じようにえへーと笑うその笑顔に、また心臓が跳ねる。

 なんだろう。地繋ぎの椅子で隣同士に座るのは初めてで、空間で仕切られていたような距離感があまりないように感じるからか、いつもより肉体的にも精神的にも距離が近い気がする。

 少し身体をずらすだけで、肩だけじゃないどこかも触れてしまいそう。

 短時間で何度も改めて緊張して、ほぐれて、緊張を緩和させる練習をしているみたい。でもそれが心地よくて楽しくて、由上さんにはまだまだ敬語でしかお話できないけど、それでもいままでよりは近い存在になれた気がした。


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