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Chapter.18

「おっと、そろそろ先生来ちゃうかな」

「あー、そうかもな」

「じゃあ、あますぎさん、またあとで」

「は、はい、あとで」

 ヒラカタさんは愛くるしい笑顔で手を振って、自分の席に座った。由上さんも同じようにして窓際の席へ移動する。

 その間にも二人は行きかう人に挨拶したり話しかけたりして笑顔を絶やさない。

 すごいなぁ、どうやったらああなれるんだろ。

 思わず見つめていたら、その視線に気付いた由上さんと目が合った。瞬間、ふと照れたような笑顔になって、視線が外れる。

 な、なにいまの……カワイイんですけど……!

 頭の中でワーキャー騒いでいたら、担任の先生が入ってきた。去年に引き続き、相良先生だ。

「はーい、席着いて~」

 なんだか今年も楽しい一年になりそうだなぁって予感。

 だから、そんな嬉しさに紛れて気になる単語を言われたことを忘れてしまっていた。


 “蒼和ちゃん”から“話聞いてて”――。


 幼馴染で子供のころからの呼び方そのままだったとしたらちゃん付けなのはまだうなずけるとして、話を聞いてたってなんだろう。由上さんから私の話を聞いてたってこと? なにを話されてたんだろう。っていうか、なんで?

 そんな疑問が頭の中をグルグル回りながら、先生の挨拶を聞く。

 まずは自己紹介。そして色々なイベントごとの役割分担はくじ引きで決めること、今年から将来を見据えて考えていくほうが良いというアドバイスを交えたお話が終わりに近付くにつれ、心音が強くなっていく。

 だって、大体は先生のお話が終わったタイミングで生徒の自己紹介タイムになるから。

 そして大体、名字50音順で呼ばれるから私は最初のほうに自己紹介することになるのだ。それはもう逃れられない運命なのだからいい加減慣れればいいだけなんだけど、年に一度しか訪れないからなかなか練習の場所もない。うん、ただの言い訳なのはわかってる。

 去年だって普通に名前言うくらいしかできなくて、高校デビューできないかなと思ってた私の期待はあえなく……

「というわけで、なにか困ったことがあったらすぐ相談してください!」

 つらつら考えてたら先生の締めの言葉が聞こえてきた。生徒たちから送られた返事と拍手を相良先生は嬉しそうに受け止めて、教卓に置いた名簿を開く。

「ありがとう。じゃあ次は、みんなに自己紹介してもらおうかな」

 うぅ、きた……。

 胃のあたりがチクリと痛む。

 紹介すべきほどの自己などないのだけど……。

 毎年こうなるにわかってるんだからもっと早くから考えておけば良かったと思っているうちに、

「それじゃ、出席番号1番〜…あますぎっ」

「っはいっ」

 名前を呼ばれ、ギクリとドキリが混ざって心臓がギュッとなる。

 先生は私がこういう性格なのを知ってくれているからか、急かすことなく待ってくれてる。とはいえ、待たせているのは先生だけじゃない。

 あわあわしながら立ちあがって、斜め後ろを見る。教室のほぼ全体が見渡せるこの風景には慣れたけど、注目を浴びるのにはいつまで経っても慣れない。

 なにを言おう。いやまずは名前から……立ち上がってから構成を考えるなんて遅いよ~と更に慌てながらふと窓際の席を見ると、由上さんが優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。さっきまでとは違う緊張感。でも少し、安心する。

 少し大きめに息を吸って、口を開く。

天椙(アマスギ)光依那(ミイナ)と言います。趣味は読書です……」

 それ以上のことが浮かばなくて、頭を下げて終わらせようとしたら

「団長~」

 どこかから優しい声が飛んできた。見ると、由上さんが猫の笑顔でこちらを見ている。

「あっ、そうです、一年のとき、体育祭で応援団長をやらせてもらった者です」

 ぺこりと頭を下げたら、「あ~」とか「お~」とかが混じった声が聞こえた。反応があったことに少し安心したら、言葉が出てくるようになった。

「人見知りがちですが、みなさんとお話ししたいと思っています。一年間よろしくお願いします」

 改めておじぎをしたら、みんな拍手してくれた。今年のクラスメイトも優しそうで良かったと胸をなでおろす。

 着席してクラスメイトの自己紹介を聞く。みんな明るくてハキハキしてて、ギャグなんかをまじえる人もいたりして社交性高そう。

 名前と顔を一致させようと一所懸命聞いてたら、ふとした瞬間、由上さんと目が合った。さっき助け舟を出してくれたことに対して会釈をしたら、それに気付いてくれたのか、笑顔でゆっくりうなずいてくれた。

 同じクラスになれるって、こういう何気ない時間を共有できるってことなんだって気付けることすらとても嬉しい。密かにエヘエヘしながらクラスメイトの自己紹介を聞き続ける。

 クラスの人数のちょうど半分あたりにさしかかったところで、さっき顔見知りになった人が指名された。

「次、枚方~」

「はぁい」呼ばれて、ヒラカタさんが立ち上がる。「枚方初音です。大阪にある地名のヒラカタ、初めての音でウブネって読みます。趣味はかわいい服をコーディネートすること。どこかのクラスにいる彼氏ともどもよろしくお願いしまーす」

 ぴょこりと頭を下げて、枚方さんが着席する。その間も前後もずっと浮かんでいる笑顔が印象的。口角があがってるから自然にしてても笑顔に見えるその表情はとっても素敵だ。

 立川くんとお付き合いしてるのも、すごく納得できる。二人でいたら周囲の雰囲気がまろやかになりそうだなぁって思う。

 由上さんと三人でいたら、周囲が輝いてそう。

 勝手な想像をしつつ小さく微笑みながら、そのあとも続くクラスメイトの自己紹介を聞いていく。そして最後に、由上さんが呼ばれた。

 はい、と返事して、由上さんがその場で立ち上がる。

「由上蒼和です」

 言った瞬間、「ソワさま〜」男子の声が飛んだ。クスクス笑う声や好奇の視線が向かうけど、由上さんは特に気に留めずそのまま言葉を続ける。

「そー、“ソワさま”。どこかでそう呼ばれてるらしいけど、様づけで呼ばれるほどの人じゃないんで、みんな仲良くしてね」

 語尾にハートマークが付くような可愛い声と仕草でニコリと笑った。白い歯がキラリと光ったように見えるほどの爽やかさ。

 一部の女子の声にならない悲鳴が聞こえる。私も頭の中できゃぁ~! ってなったからわかる。

 拍手の中、照れたような笑みを浮かべて由上さんが着席した。

「はい、みんなありがとう! 今日から一年、仲良く切磋琢磨していきましょう」

 相良先生の言葉にみんなが拍手で応えて、二年生の一日目が終わった。

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