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チョコブラウニー

作者: ありさん

 ばあちゃんが遊びに来たとき、風呂敷を抱えてた。私、知ってる。あれには、お菓子が入ってるんだ。前のときは、どら焼きだった。アンコがすっごく甘くてお抹茶と合うんだよね。一人一個って言われてたんだけど、実はもう一個こっそり食べちゃった。美味しかったんだもん。

 「今日のおやつは何?」って聞くと、ばあちゃんはニカッと笑った。


 「今日はぶらうにー、持ってきたよ」


 私はびっくりして、エッと言った。だって、ばあちゃんは未だにガラケーを使ってて、いつも着物を着てるから。


 「それ本当?カステラと間違えてない?」


 ばあちゃんには前科がある。誕生日にダッフィーのぬいぐるみを頼んだら、ミッフィーを買ってきた。

 私はまだ疑っていたけど、食べてみれば分かるよねと思って受け取った。それに、別にカステラでも構わなかった。

 風呂敷をあけた。白い箱。そこには……。


 「ブラウニーだ!」


 確かにそう書いてある。


 「ばあちゃん、ありがとう!」


 疑ってごめんね。ダッフィーとミッフィーくらい、間違っちゃうこともあるよね。慣れないインターネットを使って、頑張って手に入れてくれたんだって、私知ってる。だから、ミッフィーは私の一番のお気に入り。

 ばあちゃんは遠くに住んでるから、あんまり長くはいられない。家にあがって、母さんと話して、私と弟にお小遣いをくれたあと、「みんなで食べなさいね」って言って風呂敷だけ置いていく。「今日くらいはいいでしょ?」ってたずねたら、少し困った顔で私の頭を撫でた。

 母さんは、ブラウニーを棚の一番上にしまった。「お菓子泥棒が出るからね」って。そんなに高いところにあると、盗まれていないか確認だってできやしない。私に預けてくれたなら、しっかり見張っててあげるのに。

 「明日にしなさい」って母さんは言うけど、私は我慢できなかった。こんなにオシャレな名前が付いてるんだから、きっとものすごく美味しいんだろうな。背伸びしたって届かないから、私は棚の傍に、私の背丈と同じくらいの椅子を動かした。もちろん、母さんの目を盗んで。開き戸を片方だけ開けて、準備は万端だ。転ばないように気をつけて、そーっと手を伸ばす。椅子に登った私には見えない位置にあるようで、あの箱の角に手が触れた気がするけど、よく分からない。一度椅子を降りて、少し離れて上を見上げた。確かにまだそこにある。

 これ以上の方法は思いつかなかったから、めいっぱい手を伸ばして頑張ってみた。指先に力を入れて……やったあ!少し手前に箱が動いた。

 手が箱を掴んだ瞬間、エイヤッと引っ張ると、勢いあまって後ろに転びそうになった。椅子の足がしっかり地面を踏みしめて、私を支えてくれていて助かった。

 お茶を淹れたり、席に着いたりする余裕は私にはない。早く食べたくて仕方がなかったし、なにより、母さんに見つかると大変だ。そうしたら、またしばらくお菓子抜きになるかもしれない。箱の中身は茶色くて四角くて、だけどちょっと細長かった。これが、ブラウニーか。実物を見るのは初めてだ。チョコレートの香りがして、食べたい気持ちが強くなった。そっと端を折ると、鼻を抜けるような爽やかな匂いもした。断面に見える緑色、これはミントチョコレートだ。うわあ、美味しそう。大きな口で、ぱくり。


 ──私は飛んだ。


 比喩なんかじゃない。肩より下まで伸びた髪の毛が、前から風を受けたようにブワッと広がった。浮遊感があるけど、この感じ、どうやら落ちているみたい。そう気づくと私は怖くなって、足をバタバタとさせた。でもやっぱり、地面を掴むことはない。いつの間にか固く閉じていた目を開いてみると、もっと意味が分からなくなった。私、家にいたはずなのに。青とか緑とか白とかぐちゃぐちゃした色が、どんどんぐんぐん近くなってきて、海とか山とか建物だって気付いた。ここは空だ。ずんずんぐんぐん落ちてくと、豆粒みたいなものが、人の形をとっていく。不思議。風のせいで目をパチパチさせちゃうけど、それでもはっきりと見えた。そこを行くおじさんが私に目をとめて驚いたりしないかなって期待したけど、それはなかった。うーん、残念。

 私は空の旅をすっかり気に入っていたけど、本当は落ちてるだけだったから、すぐに終わりが来た。あっという間に地面が近づいて、ぶつかるッてところで目をつぶる。……あれ?なんともない。


 「あんた、またお菓子をつまみ食いしたのね」


 私がびっくりして動けないでいると、母さんは「仕方がない子ねえ」と言った。

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