✒ 【 さぁ、宴の時間だ! 】 訓練場 3
モタモタしているライエルに向かってキツい口調で言うと、ライエルは素直に従ってくれた。
従順な子供は好きだ。
婚約者:ライエムント
「 リーチェ… 」
オレの態度が豹変した事にライエルは戸惑っているみたいだ。
まぁ、そりゃあ……普通は驚くよな。
たけどさ、ライエルの序でに殺そうとされてるのに、お嬢様のフリなんてしてられないだろがよ!
オレは未だ10歳になったばっかりなんだぞ!
簡単に殺されて堪るか!
オレはドレスに付いた汚れを払いながら、老執事を見上げて睨み付ける。
ベアリーチェ
「 ナイロートさん、ライエルを殺すなら、別に此処じゃなくても良かったろ?
何時でも殺せたわけだしな。
此処でないと拙い理由でもあるのかな?
例えば──、シュケルハン領を手に入れる為に、ライエルの滞在先でライエルを殺害するとかさ。
予め、シュケルハン家に王子殿下の暗殺疑惑がある事を流しといての犯行だ。
そうすればシュケルハン家をライエムント王子殿下殺害犯として裁けるよな。
邪魔なシュケルハン侯爵から爵位を剥奪して、シュケルハン領を没収して、大貧民にでも落とせば、アンタの御主人様はシュケルハン領を手に入れられる──ってところかな?
オレは子供だから、何でアンタの御主人様がシュケルハン領なんかを手に入れたがってるのかは知らないけど、馬鹿な真似は止めた方がいいよ。
アンタ自身の為もあるし、アンタの御主人様の為でもあるんだ。
ライエルを殺すのも、オレを殺すのも止めた方がいい。
後悔したくないだろ? 」
老執事:ナイロート
「 お喋りなお嬢様ですな。
ワタクシの御主人様がシュケルハン侯爵を邪険にしているのは事実です。
シュケルハン領を手に入れたいと言われているのも事実です。
御主人様が目障りなライエムント王子殿下の殺害を計画されたのも事実です 」
マジかよ…。
適当に言ってみただけなのに当たってたよ…。
ベアリーチェ
「 ──なら、オレをライエルの婚約者に選んだのは、ライエル殺害の罪をシュケルハン家に擦り付ける為か?
目障りなライエルは死ぬし、邪険にしてるシュケルハン侯爵から爵位を剥奪して、シュケルハン領地を没収して、シュケルハン一家を没落させて大貧民に落として、シュケルハン領地を我が手に治める。
なんだよ、一石五鳥じゃないか! 」
婚約者:ライエムント
「 リーチェ…何を…… 」
ベアリーチェ
「 全く、迷惑旋盤な話だよなぁ!
アンタ等の身勝手で自己中でくだらない計画の所為で、オレの家族を不幸のドン底に叩き落とそうなんて、黙って見過ごせるかってぇの!
オレも鬼じゃないからさ、殺害計画を断念して尻尾を巻いて御主人様の所に帰るなら、オレの慈悲で見逃してやってもいいよ?
オレはセフィと違って優しいからさ! 」
老執事:ナイロート
「 セフィ?
あの執事か。
あんな執事に何が出来ると言うのかね? 」
ベアリーチェ
「 お祖父様と互角に──って言うか、押してるだろ。
あの鬼剣神って呼ばれて恐れられていたお祖父様を相手に押してるんだ。
現役時のピークの強さは過ぎちゃってるだろうけど、アンタよりも強いと思うよ。
精霊の加護憑きは伊達じゃないだろうし。
でもさ、オレのセフィは現役時代にバリバリマックスチートだったピーク全盛期のお祖父様よりも強いんだ。
アンタもアンタの仲間も、王国騎士団が束になって掛かって来たって、セフィには敵わないよ。
大人しく裸足でトホホしながら御主人様の所に帰りなよ。
命あっての物種って言うだろ? 」
老執事:ナイロート
「 目の前に極上の獲物が居るのに狩らずに帰れといいますかな。
それは無理ですな 」
ベアリーチェ
「 そうだよ、帰るんだよ。
回れ右して手ぶらで帰るんだ。
そうすればアンタの御主人様だって、五体満足な身体のままで生きていられるよ。
此処でアンタが、オレとライエルに剣を降り下ろしたら、アンタもアンタの御主人様も人生の終わりだよ。
オレは優しいからさ、チャンスを与えてるだよ。
まさか──、オレの慈悲を見す見す無駄にするつもりじゃないよね、ナイロートさん? 」
老執事:ナイロート
「 私は任務を遂行するのみ!!
ライエムント王子殿下とベアリーチェ侯爵令嬢には此処で永久の眠りについていただく!! 」
ベアリーチェ
「 あっそ──。
残念だよ、ナイロートさん。
ライエルがアンタの事を気に入ってるみたいだからさ、出来る事なら助けてあげたかったんだけどなぁ……。
ライエル、ナイロートさんが自分で選んだ選択なんだから、オレを恨むなよ 」
婚約者:ライエムント
「 え…?
リーチェ……どう言うこ──── 」
ライエルがオレに未だ言い掛けている最中なのに、オレの背後で老執事の断末魔が聞こえた。
血飛沫が派手に飛び散る。
ライエルの方を向いていたオレの顔に老執事の血が付く事はなかったけど、外出用のドレスは台無しだ。
それにライエルの驚愕した顔が物凄い。
そうとうショッキングなシーンをガッツリと目撃してしまったんだろう。
両目を見開いたまま立ち尽くしている。
開けっぱなしの口がアワアワと動いているけど、声は出ないみたいだ。
両目には溢れんばかりの涙が溜まっていて、今にも放水が始まりそうだ。
オレの周りにはセフィが生み出した妖精さん達が何十体も浮いている。
オレが自信満々に強気でリアル殺人キラーと話が出来ていたのは、妖精さん達のお蔭だ。
断末魔を上げたリアル殺人キラーは、オレの忠告を無視して、オレに剣を降り下ろしてしまったんだろう。
その結果、リアル殺人キラーは妖精さん達に喰べられてしまったわけだな。
容姿が光の玉の妖精さん達が一体どうやって、リアル殺人キラーを喰べたのか、ライエルを見ていたオレには分からない。
だけど、ライエルは見てしまったんだ。
信頼して好いていた専属執事の死に様を瞬きしないでガッツリと目撃してしまったんだ。