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召喚士ルイは友を喚ぶ

【内気ショタ&美人メイドのおねショタ主従ファンタジー】


 とある貴族の四男として生まれた十歳の少年・ルイには、優秀な兄達とは違い、目立った才能も特技も無かった。

 そんなある日、ルイは『自称魔族』の才色兼備なメイド・フェルとの出会いを果たす。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 彼女の一言で、ルイの中に眠る遠い記憶──千年前の戦死したとされる、精霊王の記憶が呼び起こされる。

 そうしてフェルとの出会いをきっかけに、ルイの色あせた日常は大きく変貌していく。


 これは一人の孤独な少年が、本当の友情を知る物語──

 お金で買える友達は、本当の友達じゃない。


 そんな事は、頭では分かっていた。

 けれどもルイ・フォン・フラーテッドという十歳の少年にとって、()()()()()という事は、自分の身を守る唯一の手段でしかなかったのだ。


「ルイ、今節(こんせつ)のアレ……まだ貰ってなかったよなぁ?」

「ひぃっ……!」


 女の子のようにサラサラとしたルイの銀髪が、ビクリと肩が跳ねた拍子に揺れる。

 磨かれた宝石のように美しい青い瞳は、たっぷりと涙を溜め込んで、今にも溢れ出す寸前。

 その小さな悲鳴と華奢な体格も相まって、ルイを一人前の男扱いしてくれる同年代など、この領地には居ない。

 父である伯爵が統治するフラーテッド領の、人気の少ない街の路地裏。

 そこでルイは、同い年の平民の少年に恐喝されていた。


「こ、今節の分は、もう渡したじゃないか……!」


 けれどもそう返された少年は、意地の悪い笑みを浮かべてルイの髪を引っ張った。


「あれー? そうだったっけか? でもオレ、今節分を貰った覚えは無いけどなぁ〜」

「ひっ、酷いよジェイ! こんな風に一節に何度もお金をせびられたら、父様にバレちゃ──」

「誰が……誰に金をせびってるって? あぁん⁉︎」

「痛ぁっ!」


 ジェイと呼ばれた少年は、髪を掴んでいない方の手でルイの頬を思い切り殴る。

 その拍子に、殴られた勢いのまま背後の壁に頭を打ち付けてしまい、意識が朦朧としてきた。

 ジェイはいつもこうやって、本来ならば一節に一度の支払いを何度も要求してくるのだ。


 ルイは貴族の家の子だ。だから叩けば金が出る、とジェイは理解していた。

 おまけにルイは、フラーテッド伯爵家の子息の四男坊だった。将来彼がこの領地を継ぐ可能性は、ほぼ皆無。

 平民の子に虐められている、だから助けてほしい──そんな甘えた事を、ルイが言えないのを知っている。そしてルイが領主になれないのも、知っていた。

 それならば、子供の内から絞れるだけ搾り取ってしまおう。

 ジェイ自身がそう考えたのか、それとも両親による入れ知恵なのかは、分からない。が、現状としてルイとジェイの金による交友関係は半年以上も続いていた。

 その要求は時が経つ毎にエスカレートしており、前の節からは暴力による恐喝にまで発展してしまっている。


 王に仕える貴族の息子でありながら、ルイは半ば育児放棄のような状態に晒されていた。

 頭が良く優秀な三人の兄達とは違い、家督を継ぐ可能性がほぼゼロに等しいルイの教育は、ほとんど手付かずの状態だ。

 屋敷に居ても居なくても、自分の存在を気にしてくれる者は居ない。だからルイは、その寂しさを埋める為に街へ遊びに出掛けたのだ。

 けれども、そんな彼を相手にしてくれる者も街にはおらず……。

 そんなみすぼらしい自分が嫌で、ルイは手っ取り早い解決手段を思い付いた。


 お小遣いを使って、自分の友達になってくれる人を探す事。


 そうしてルイの『オトモダチ』になったのが、このジェイという少年だったのだ。

 ジェイが居れば、ルイと遊んでくれるオトモダチの都合をつけてもらえる。

 哀れなルイを嘲笑う者も、ジェイがその自慢の腕っぷしで懲らしめてくれる。

 年に十二回。毎節ごとに、ジェイに素直に金を払っていれば……の話だが。


「もっと殴ってやったら払いたくなるのか? まだ足りねえなら、いくらでも殴ってやるぞ」

「や、やめて……! も、もう……分かった、から……」


 息も絶え絶えに、ルイは懐に忍ばせていた銀貨の入った袋に手を伸ばし……ジェイがそれを奪い取ろうとした、その時だった。

 ルイとジェイの間を、顔面スレスレで何かが横切る。

 それは空を斬り裂いて、二人の耳に風切り音を届かせた。

 彼らの間を通り抜けた物は、奥の木板にザックリと突き刺さる鋭利なナイフ。それに気付いた二人は顔を青くして、ナイフが飛んで来た方向に恐るおそる振り向いた。


 そこに立っていたのは、女だった。

 それも単なる女ではなく、とびきりの美人である。

 眉にかかる程度に切り揃えられた前髪に、長く滑らかそうな黒髪を後頭部で束ねた、腰まで届くきっちりとしたポニーテール。

 強い意志を宿した瞳は燃えるように赤く、思わず魅入られてしまいそうな程に美しく、けれども鋭い眼差しだ。

 そして何より目を惹くのが、うっとりしてしまうような白くきめ細かな肌を引き立てるような、黒を基調とした装束である。

 すっぽりと長い脚を覆うロングスカートに、その上から付けられた白いエプロン。

 頭にはホワイトブリムが鎮座するその姿は、どこからどう見てもメイドの姿そのものだった。


「そこで何をしているのです、小僧」

「こ、小僧……⁉︎」


 ビクリと肩を跳ねさせるルイ。

 しかし、メイドらしき女は、すぐさま首を横に振る。


「違います。貴方ではありませんよ、銀髪の。そちらの小太りの、醜い小僧の方です」

「な、何だってぇ⁉︎」


 怒鳴るジェイに不快感を示し、顔を歪める謎のメイド。

 まさかあの美しい女性が、あれだけのスピードと二人に当たらないギリギリを攻めた正確さで、ナイフを投げた本人だとでも言うのだろうか。

 しかし、この場に居る中で可能性があるのは彼女しか居ない。

 やはり、このメイドがやった事なのか。けれども、何の為に……?

 そんな疑問をゆっくり解き明かす暇も無く、黒髪メイドは行動に出た。


「チッ、面倒ですね……。余分な脂肪は排除します」

「ヒィッ⁉︎」


 ジェイが息を呑んだ。

 目の前から、メイドの姿が消えたのだ。

 ……否、そうではない。ジェイ自身の視界が、細い路地裏の風景から曇天の空へと切り替わっていたのである。

 まるでベッドに放り投げられた枕のように、大きな弧を描いてジェイの身体が吹き飛ばされた。

 けれども大きく吹き飛ばされたにしては、身体に何の痛みも感じられなかった。

 何が起きたのか理解出来ぬまま、無抵抗に空中に投げ出されたジェイは吸い込まれるように落下していき──路地を抜けた先にあった淀んだ池の中へ、ボチャンと派手な水音を立てて真っ逆さまにダイブする。

 それらの出来事は、ほんの一瞬に終わってしまった。突如としてルイの目の前に現れた、謎の美人メイドの手によって。


「あ……あなたは、ジェイに何をしたんですか……?」


 池に向かって片腕を伸ばしていた彼女に、ルイは恐るおそる訊ねた。

 この一瞬で、あのメイドはその場から一歩も動かずにしてジェイを軽々と吹き飛ばしてしまった。

 何らかの魔法によるものだとは想像が付くものの、何がどうなっていたのか、まったく理解出来ない。

 仮に彼女が名のある魔術士だと言うのなら、魔力のコントロールを補助するローブや杖を身に付けていないのが気になった。どこからどう見ても仕事の出来そうなメイドという印象しか受けない彼女に、何故あのような芸当が可能なのだろう。

 すると黒髪の美女は、キリッとした紅い目をルイに向けた。


「ジェイ……? ああ、あの醜い子豚の個体名ですか。私はただ、ご主人様の命令に従い、あの子豚を退けたまでの事。単なる風魔法の応用に過ぎません」

「あ、だからあんなに遠くまで吹き飛んで……い、いや、それよりも!」


 ルイはハッキリとした恐怖の色を顔に滲ませ、手脚をガクガクと震わせながらメイドに問い掛けた。


「あ、あなたがジェイから僕を助けてくれたのは……父上の命令だから、ですよね……?」


 彼女は先程、ジェイを退けたのはご主人様の命令だと口にしていた。

 この領内で……それもこの街でメイドが仕えるような家といえば、フラーテッド伯爵家ぐらいのものだろう。

 彼女が最近父に雇われた新人メイドなのだとすれば、ルイの外見を知らされていてもおかしくない。

 何かのきっかけでルイとジェイの金銭的関係を知った父が、息子を叱り付ける為にこのメイドに自分を捜させていたとしたら……と、そんな事を思ってしまったのだ。

 しかし謎の美女は、お前は何を言ってるんだとばかりに眉をひそめている。


「……いえ、私の主はその方ではありません」

「えっ……? そ、それじゃあ、どうして……」


 すると彼女は、スカートの裾を軽く持ち上げ、丁寧におじぎをしながらこう告げた。


「私の名はフェル。千年の時を経て、この地上に再臨せし我が主……あらゆる精霊達の王──ルイカディーア様にお仕えする、史上最強かつ最上級のメイド。つまりは、ルイカディーア様の生まれ変わりである貴方様に仕えるべき、この世界にただ一人の、才色兼備な敏腕メイドにございます」


 そうしてフェルと名乗った美人メイドは、静かに顔を上げた。

 フェルはこれまでの鋭い氷のような表情から一変し、とろけるような甘い笑みを浮かべて、ルイだけを視界に収めている。


「貴方様と再会出来るこの日を、私は……フェルは、千年間待ち望んでおりました」



『お帰りなさいませ、ご主人様』

「お帰りなさいませ、ご主人様」



 ルイの記憶の奥底から、どこか懐かしい声が響く。

 その優しい声音が、ルイの記憶の彼方と、鼓膜とを震わせて、一つに重なった。

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