貴方が落としたのはこの金髪の少女ですか? それとも銀髪の少女ですか?
俺に惚れていた相手に告白できなければ『死』!?
ある日俺は、願いの池の女神の手違いで、真実の愛を見つけられなければ死んでしまう呪いを受けてしまった! しかも、俺が落とせるはずもない高嶺の花、金髪の美少女と銀髪の美少女の内、どちらかに惚れられているらしい!?
でも待ってくれよ女神さん。恋愛経験ゼロ、陰キャ男子のこの俺が、女子から好かれているだって? あり得ない! しかも、好意を見分けられなきゃ死ぬって難易度高すぎじゃありませんか!?
二人とも、向こうが貴方を好いているって言ってるし……。こうなったら、二人を観察し、どちらが俺を好きなのか見極めるしかない! 卒業までに何としてでも告ってやる!
これは、恋愛できない男子高校生と、問題の多すぎる金と銀の美少女がそれぞれのの心と向き合い、恋とは何かを見つける恋愛ギャグコメディー!
高校二年の春の夜、冬が明けたとはいえまだ寒さの残る放課後の校舎裏で、俺は叫んだ。
「どういうことだよ!」
「それはこっちのセリフよ! どうして貴方がここにいるの!」
銀髪ポニーテールの少女であり俺のクラスの委員長、阿路 銀はそう俺に言う。俺が次の言葉を探したその時、突然俺と阿路の間に金色の二本線が割って入った。
「お二人ともー、ここでなーにをしているデスか?」
この金髪ツインテールこと大莉 レナはそう言って、俺と阿路を引きはがした。
「そういう貴方もここにいるじゃない! さてはあの噂を聞いてきたのね? でも願いを叶えるのはこの私、銀ですわ!」
「私も! 私も興味がありマス! 願い叶えたいデス!」
そうこの俺、渡道 薙都はどうしても成し遂げたい夢がある。
それは……リア充になることだ!
「皆既月食の起こる夜に学校の裏庭の池に五円を投げると願いが叶う……俺が最初にここにいた。だから、俺から行かせてもらう!」
有無を言わさず五円を池へ放り投げる。
「あー! 抜け駆けずるいデス!」
「こういうのは早い者勝ちだ!」
その時、それまで月明かりに照らされていた周囲が一瞬にして闇に包まれる。皆既月食が始まったのだ。それと同時に池が揺れ始める。風くらいしか揺らすもののない校舎裏の小さな水たまりは本来波が立つはずもないことは俺にもすぐにわかる。だが、目の前の池は、鳴門海峡もびっくりの渦潮を発生させている。
「時に、現実はファンタジーを超えマス」
「ここは日本じゃなくて異世界だったのか……」
「ちょ、ちょっと! しっかりなさい二人とも! これ現実! 現実ですのよ!」
そんな池の中から美女が現れた!
「私はコイの女神……あなたの願いを叶えましょう」
なんということだ! 噂は本当だったんだ!
「女神様! 俺はこの高校生活を順風満帆に過ごしたい! 俺をリア充にしてくれ!!!!」
場が静まり返る。静寂。俺の叫び声が夜の住宅街にこだまする。
や“め”て“く”れ“っっっ!
頼むから誰か反応してくれ! 恥ずかしさで顔があげられない! 顔が真っ赤に染まっているのが自分でもわかる。
なんで、こんな光景を同級生の女子に見られなきゃならないんだっ!
「貴方の願い聞き届けました」
「へ?」
ゆっくりと声のした方へ、顔を上げる。
女神がやさしく微笑んでいるのがわかる。あ、いや、そんなことないわ、若干笑顔引きつってるわ。酷い。泣きそう。
「本当ですかぁ!? 絶対!? 嘘じゃない!?」
「貴方の…ぷっ、面白さ……いえ、決意に心が動かされました」
「今笑いましたよね?」
「貴方の願いを叶えましょう」
「俺のこと笑いましたよね?」
ちょっと女神のイメージが崩れたが、願いを叶えてくれるのなら些細なことだと思う。
「ただし、これから出す私の質問に正直に答えてください。そうすれば、あなたの願いを叶えましょう。 しかし、嘘をついたなら貴方に死の呪いをかけます」
「なっ!?」
嘘を答えたら死ぬ。そのあまりに気軽な死に、俺は一瞬頭が真っ白になった。
「ダメよ! そんなの絶対ダメ! 危険だわ! 渡道さん、私たち頭がどうかしてしまっているのです。 こんなの低質な夢ですわ! 帰りましょう今すぐ!」
「レナもそう思いマス」
二人が涙目で、詰め寄ってくる。今までほとんど女子としゃべってこなかった俺が今日に限って二人の美少女と話をしているのだから確かに夢かもしれない。
ふと、風が吹いて、金色の髪と銀色の髪がたなびいた。
あ、なんかいい匂いする。これ現実だわ。夢じゃないわ。
「俺、やります!」
「「!?」」
「俺の決意は決まった! そう簡単に俺の春デビュー諦められるか!」
「カッコつけてる場合じゃないデス!」
「言ってることはダサいですわよ?」
「では始めましょうか、女神クーイズ!」
へ? 地面からクイズ台みたいのが生えた!? テレビで見たことある! ピンポン!って鳴って丸の札が上がるやつだ!
そして同時に、事態は一変した。
傍らにいた二人の少女の体が宙に浮かび上がったのだ!
「ちょ、ちょっと下ろしなさい!」
「体が動かないデス! ヘルプミー!」
なんで二人が!? 二人は関係ないだろ! 助けなければ! 思わず身を乗り出し、手を伸ばしたが……手の届く高さじゃない! だが、レナの表情ちょっと嬉しそうなのはなぜだ?
「二人を放せ!」
「問題に答えてからです」
「くっ……」
女神は言う。
「貴方が落としたのはこの金髪の少女ですか? それとも銀髪の少女ですか?」
は? 何を言ってるんだ? 落とす? どういうことだ? 俺が池に落としたのは5円のはず……?
いや違う! そうだ、やつは言っていた自身を“恋の女神”だと! つまり、この場合過去に俺が恋に落とした方を問うているんだ!
だが、不可解だ。なぜなら、俺はボッチだから。自分から男女問わず誰かに話しかけに行くことはほぼないし、接点といえば同じクラスの学級委員である阿路くらいで、大莉とは今日初めてここで知り合った仲だ。ちなみに二人の名前は学校一位二位を争う美少女として男子の間でも有名である。そんな彼女らと俺は話すことすらもおこがましいと言える。
そこで、俺の天才的な頭脳は一つの解をひらめいた。
今のこの状況はかの有名な童話「金の斧、銀の斧」に酷似しているということに。
そこから導き出される答えは”どちらでもない”!!!
つまり! 俺は二人のどちらからも恋心を全く抱かれてないのである!
だよなぁ。学校トップの美少女だもん。むしろ、期待を持つだけ失礼だともいえる。
「どうやら答えは決まったようですね?」
「あぁ、言ってやる! 俺の答えは……」
ピンポン! と軽快な音を立てて丸の札が立つ!
「では、渡道さん。答えをどうぞ!」
「俺は”どちらも落としていない”!!!」
女神は神妙な顔をしていたが、やがて穏やかな表情になる。
「おめでとうございます! 貴方の願いを叶えましょう」
うおおおおおお! やったー! これで俺はモテ期到来確定! 俺、リア充になりまぁす!
そう思った瞬間、空中にとらわれていた二人の少女が解放された。
……空中で!? まずい、落ちるぞ!
「え、やっ、きゃーーー!」
「Noooooooo!」
俺はとっさに落下地点へと駆け出した! しかし、運動部でもない俺に、二人の人間を同時にキャッチするなんて芸当出来るはずがない!
「間に合えぇぇぇええ!」
咄嗟のダイブをかます! 砂の地面に肘と膝がこすれあう! 痛みを感じるその前に俺は確かな衝撃を後頭部と背中に感じていた!
「ぐぉはぁ!!」
…………。
「ね……ねぇ、大丈夫……よね? 返事しなさい!」
「返事がありまセン! しっかりして! 渡道君!」
「う……ぐぅ。痛い……」
「よかった! 生きてましたわ!」
二人が体を支えてくれたおかげで何とか立ち上がると、なぜか女神が狼狽えている。なんだか様子がおかしいぞ?
「あれ? なんで? おかしいわ! そんなはず……まさか!」
「どうした女神! 何があった!」
「貴方を呪ってしまったの!」
「なん……だと……!?」
俺、死ぬのか……?
「なぜだ! クイズは正解しただろう!」
「だって! わかるはずないじゃないですか! まさか、あの二人の内どちらかが貴方に惚れているなんてこと!」
その女神の一言に、場が一瞬凍り付く。俺を支える二人の顔がみるみる赤く染まっていくのが見えた。
「ばばばばっっっかじゃないの! そんなのでたらめですわ!」
「そ……そうデス! 何かの間違いデスよ!」
この状況は、まさか! 両者はこう思うはずだ、“もしかして、あいつが渡道のことを好きなのでは?”、“もしかして、私あいつの事好きなのでは?”と。仮に先ほどまでに好意を持っていたとしても、自身の中の本当の気持ちなど思春期の少女には断定など出来るはずがない! つまり、お互いがお互いを疑い、挙句の果てには自身をも疑いだす負のスパイラルがここに発生したのだ!
「確かに、私のミスでもあります……不幸な事故です」
「そ、そんな!」
「ですから、こうしましょう。女神パワーで貴方の呪いを緩和します。卒業までに”真実の愛”を見つけてください。そうすれば、死の呪いは解けます」
「”真実の愛”!? なんだそれは!」
「それは、彼女達二人の中から本当に貴方が落とした方に告白するということです。もし間違えれば女神パワーの逆流が起こり、貴方はその場で死ぬでしょう」
それはつまり、二人の内、どちらかが俺に惚れていて、それを、俺に見破れと言っているのか。恋愛経験ゼロのこの俺に?!
「女神パワーを受けなかったら?」
「もうすぐ死にます」
選択肢ないじゃん! だが、仕方がねぇ!
「いいだろう! その力、受けてやる! 俺は絶対に諦めねぇ!」
その告白が成功すれば実質的に俺の願いも果たされる! 一石二鳥だ!
「私も、協力しますわ! こんな意味のわからない事で死なれちゃ、寝覚めが悪いですもの」
「そうデス! 私だって、君の死因にはなりたくないデス! 協力シマショー! 協力!」
「それなら、どっちが俺のこと好きか教えてくれ!」
「「あっち!!!」」
二人はお互いのことを指さしあっていた。これは、大変なことになったぞ……あれ? なんだか急に頭がクラクラ……。
「渡道君!」
「渡道さん!」