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高嶺の花とは呼ばせない!!《クール(と勘違いされてる)系女子とのドタバタ奮闘記》

 顔がちょっといかめしい以外は普通の高校生、俺【夏川 弘樹】のクラスには、高嶺の花とその名前に掛けて高嶺さんと呼ばれる孤高の美少女【高江 ほたる】がいるのだが……。


「ど、どうせ私の失態をクラス中……いや、学校中に広めるつもりでしょ!?」


「いや、しねぇよ」


 ひょんなことから高江ほたるの残念過ぎる素顔を知ってしまう。彼女はなんと超ネガティブ思考&コミュ障で、人から話し掛けられると緊張して一言二言の素っ気ない返事しか返せないというのだ。

 いや、紛らわしいなオイ!?


 それでもどうにか楽しい高校生活を送りたいらしい彼女は、秘密を知った俺に協力を頼んできて……まったく、しょうがねぇな!?

 だってそんな泣きそうな顔で頼まれたら断れるわけないだろっ!!

 かくして俺は無器用すぎる高江が上手くクラスに馴染めるように奔走することになってしまったのだった。

 ああ、もうメンドーくせーな!?

「あ、あのちょっといいかな?」


 そんな声につられて俺は顔を上げた。

 しかしその声の主は近くにおらず……というか、まずその声を掛けられたのは自分ではないということに、寝ぼけた頭のせいで少し遅れて気付いた。

 ああクソ、少なくとも朝礼までは寝ていようと思ってたのに目が覚めちまったぜ……。


「なに?」


 そう答えたのは当然、本当に先程の声を掛けられた人物だろう。

 何気なく声がした方をみると、教室の出入り口付近で二人の女子生徒が向かい合って立っていた。

 片方の名前はすぐに出てこなかったが、もう一人の名前については簡単に見当がついた。


「こないだクラス対抗の球技大会があったでしょ? そのお疲れ様会をクラスの皆でやろうって話があるんだけど、高江さんは……」


 そう、今ちょうど話し掛けられている方がクラスの有名人、高江(たかえ) ほたるだった。

 何が有名かというと、まずその容姿だ。長いまつ毛に縁取られた切れ長な眼に、整った目鼻立ち、更に腰まで伸びる黒髪はサラサラでどうしても人目を引く。

 そして何より特徴的なのが……。


「興味ない」


 高江はそんな言葉とともに冷めた目で女子生徒を一瞥(いちべつ)すると、スッと目をそらした。

 そう、この無愛想でとげとげしい態度こそが彼女の代名詞なのである。話し掛けた人物が別段嫌われているというわけでもなくて、いつも誰にでも大体こんな感じだ。

 いや、それにしても毎回ちょっと言い方があるんじゃないかと思うんだがなぁ。


「そ、そうだよねー! 答えてくれてありがとう」


 そんな高江に対して話し掛けた彼女は、引きつったような笑みを浮かべ動揺からか、意味もなくブンブンと手を振っていた。

 あーあー、流石にこれは相手が可哀想だな……。

 そそくさと立ち去る名前も思い出せない女子生徒に、そっと哀れみの目を向けていると後ろから声が掛かった。


「おーい、弘樹くんは何を朝から女子を視姦(しかん)してるんだ、通報されるぞ?」


 ふざけた台詞にイラッとしながら振り返ると、案の定見知った眼鏡の男が立っていて俺は鋭く睨みつけた。


「ん、なことしてねぇよっ!! てか弘樹くんはやめろ……!!」


「そんなに怒るなって夏川、ちょっと言ってみただけだろうが」


 コイツの名前は冬沢(ふゆさわ) 賢人(けんと)、俺に何かとちょっかいを掛けてくる中学からの悪友だ。


「で、本当のところはどうなんだ?」


「本当のところもクソもあるか、たまたま高江さんと他の女子が話をしているところを見掛けたからなんとなく眺めていただけで」


「ふーん、そういうことか……まぁ、なんたって彼女は高嶺(たかね)さんだからな」


「はぁ、高嶺さん?」


「なんだ夏川は知らないのか、同じクラスで2ヶ月以上も過ごしておいて?」


 冬沢の馬鹿にしたような物言いはなんとなく(しゃく)に触るものの、知らないことは事実なので正直に頷いた。


「ああ、しらねぇ」


「結構有名なあだ名だぞ、高嶺の花と苗字の高江にかけて高嶺さん。孤高(ここう)の美少女、高江ほたるにはぴったりのあだ名だろ? まぁ本人には隠れてみんな使ってるやつだけどな」


「……くっだらねー、まず本人に隠れて使ってるって部分がなんか気にくわねぇし」


「夏川は本当にそういう所がノリが悪いというか優等生だよな……顔面は思いっ切り非行に走ってるくせに」


「顔面が非行に走ってるってどういう意味だよ!?」


「そのまんまの意味だが? なんでそんな厳つい悪人面しておいて、授業中に居眠りをしないどころか授業態度は優等生のそれ、提出物の期限もキッチリ守るし、テストの点数も悪くないという……おかしくないか?」


「なるほど、お前が俺に喧嘩を売っているということだけは分かった」


「そうそう、そういう台詞の方が似合うんだよー! お前やればできるじゃないか!!」


「喜んでるんじゃねぇ!! だったらお前はエセ優等生面だろうが、そんな真面目です勉強出来ますみたいな顔で、やたらめったら授業中に居眠りしやがって」


「まぁ夏川の席が近いせいで、昔より先生に見つかる確率が上がったがな……まったく迷惑な話だ」


「いや、まず寝るんじゃねぇよ、そして俺のせいにするな」


「顔と口の悪さだけは間違いなく不良なくせに、妙に真面目なところが腹立つな……」


「今、一番腹が立ってるのは俺の方だと思うんだが?」


「そもそも夏川はいつでも不機嫌というか、怖い顔してるからそこの区別がつかない」


「てめぇ……」


 更に冬沢に食ってかかろうとしたところ教室に先生が入ってきてしまったため、俺は仕方なく身を引いたのだった。

 そうして朝の出来事以外何も代わり映えのしない、冬沢がいつも通り鬱陶(うっとう)しいだけの一日が終わり下校の途についたわけだが……。




「はぁ、やらかしたな……」


 それには自宅に着いて、通学鞄から荷物を取り出したところで気付いた。

 ……学校に課題を忘れてきた。今日はちょうど連休に入る前で、それなりの量の課題が出されていた。それを丸々自分の机の中に置いてきてしまったらしい。

 休みに入ってしまってからだと学校に入るの自体が面倒だし、今日中に取りに行った方がいいだろうな。

 そのような考えに至った俺は、一度通った通学路を逆戻りして再び学校までやって来たのだった。


 まさか一日に二度も学校に来ることになるなんてな……。



 学校に着いたときにはもう日が傾き掛けている時間帯で、教室は窓から差し込んでくる夕日によって鮮やかなオレンジ色に染まっていた。


 さて、忘れ物だけ取ったらとっとと帰ろうっと。

 サクッと自分の机までいって目当ての物を取り出し、用も済んだしもう帰れるなと思ったところで気付いた。


 あっ、黒板の文字が残ってる、それも最後の授業のやつが丸々。

 いや誰だよ、日直は……。


 しかし気付いたからにはそのまま帰るのもアレだし、消すだけ消してから帰るか。


 そう思った俺は黒板の前まで歩いていって黒板消しを持とうとしたところで、ふと背後に人の気配を感じた。


 いや、さっきから教室には俺一人しかいないわけだしおかしいだろう。

 そう思いつつも一応振り向いてみると……いた。というか目が合ってしまった。


 普通に教室をみてて気付かなかったのもそのはず、そいつは教卓の下に潜り込んで身体を丸めて膝を抱え込んでいたのだった。


 あーなるほど、これは確かに気付かないかも知れないなー。

 っていやいや、なんでこんなところに人がいるんだよ!?


 しかもコイツって……。

 俺が困惑してるとそいつは恨みがましい顔で俺のことを睨みつけてきた。


「み~た~な~」


「あ、あーうん」


 悪霊みたいなこと言ってくるそいつに、俺はどう反応していいか分からずつい視線を反らしてしまった。

 いや、本気でこれはどうすればいいんだよ……。


 そこにいたのは他でもない、あの高江ほたるだった。

 まぁ普段とはだいぶ様子が違う気もしないでもないが……。


「つもり……でしょ……」


顔も合わせられないままでいる俺の耳へ、そんな小さい高江の声が届いた。


「は?」


「言いふらすつもりでしょ……!?」


 今度のは、けっして小さいと言えない鋭い声。急にそんな声を出されたことに驚き、俺は高江の方を振り返った。

 彼女は相変わらず俺に恨みがましい目を向けているものの、その顔はなんだか今にも泣き出しそうに見えた。


「ど、どうせ私の失態をクラス中……いや、学校中に広めるつもりでしょ!?」


「いや、しねぇよ」


 高江自身は相当必死そうな感じで言っているが、わざわざそんなことをする意味の分からなさに思わず冷めた口調で返してしまった。

 そもそも失態というほどの失態だろうか……確かに放課後に一人で教卓の下に潜り込んでいたのは相当変だけど、広めるほどのことじゃない気がするし……。

 いや、実際に失態を目にしてたとしても俺は広めないけどな?


「言う、絶対言うつもりよね!? なんならSNSとかでも言いふらすつもりでしょ!!」


「いや、だからしねぇーって」


 くっ、否定したのに被害妄想が悪化してる……!?


「だ、だってそんな怖い顔してるし!! 絶対私のことを脅迫するつもりに決まってる……!!」


「その理論はおかしくないか?」


 酷い……確かに俺の顔はどちらかと言えば怖いが、脅迫しそうと言われるのは心外だ。


「うぁああ、終わったよ!! クラスの不良に脅迫されて私の高校生活は早々に終わったぁぁぁ!!」


「いや、不良じゃないのだがっっ!?」


 確かによく職務質問なんかはされるけど、俺自身はいたって清廉潔白(せいれんけっぱく)に生きてきた自負がある。だから不良扱いされるのはちょっと許せない。


「っ!? うぅ、ど、怒鳴られた……」


 俺の大声にビクッとした高江は顔を覆って小刻みに震えだした。


 あ……これはやってしまったか……。

 俺が大きな声を出したりすると、なんというか迫力がありすぎるようなので普段は控えるように気を付けているんだが…………でも、これって俺は悪くないよな? こいつが人の話を聞かずに騒ぎまくったのが一番悪いよな?


 とは言っても、俺が原因である以上放っておくことも出来ないし、どうにかなだめる方法を考えないと……ああ、もうメンドーくせーな!?

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