夢幻ループ
長話を終えて電話ボックスから出ると、知らない街だった。夜の帳が降りている。
そして、季節はいつの間にか冬になっていた。星一つ見えない漆黒の空からは、しんしんと雪が降ってくる。
夏服を着た女子学生は、目の前の光景を理解できず、しばし白銀の世界に呆然と立ち尽くしていた。
だが、それも長くは続かなかった。何故ならば、ミニスカートの裾から、針で刺すような冷気が襲ってくるからだ。
学生は電話ボックスに戻り、寒さに震える手で十円銅貨を投入口に押し込み、ダイヤルを回した。
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長話を終えて電話ボックスから出ると、知らない街だった。景色は茜色に染まっている。
そして、季節はいつの間にか夏になっていた。質屋の張り紙がある電柱では、蜩が切なげに鳴いている。
冬服を着た男子学生は、目の前の光景を理解できず、しばし暮れなずむ夕陽を見るともなしに見ていた。
だが、それも長くは続かなかった。何故ならば、ポリエステルの詰襟が熱を閉じ込め、汗が噴き出しているからだ。
学生は電話ボックスに戻り、暑さで張り付くシャツを不快に思いながら十円銅貨を投入口に押し込み、ダイヤルを回した。
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他愛もない世間話をしてから受話器をフックに置いてボックスを出ると、いつもと変わらぬ街だった。季節も夏に戻っている。
夏服を着た女子学生は、ホッと安堵の息を一つもらし、家路を急いだ。
しかし、安心するのは早かった。なんとなれば、丁字路を曲がった先には、見知らぬ一軒家が建っていたからだ。
学生は直感的に来た道を引き返し、電話ボックスに駆け込んだ。そして、再びダイヤルを回した。
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他愛もない世間話をしてから受話器をフックに置いてボックスを出ると、いつもと変わらぬ街だった。季節も冬に戻っている。
冬服を着た男子学生は、ホッと安堵の息を一つもらし、家路を急いだ。
しかし、安心するのは早かった。なんとなれば、丁字路を曲がった先には、見知らぬアパートが建っていたからだ。
学生は直感的に来た道を引き返し、電話ボックスに駆け込んだ。そして、再びダイヤルを回した。
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それから、二人の学生は何度も電話をかけ直した。
四回目で誰かと入れ替わっていることに気付き、九回目で原因が分かり、十一回目で法則性を見破った。
そして最後の十円銅貨を投入して臨んだ十三回目で、ようやく二人は完全なる元の世界へ戻ることが出来た。
どこまでが現実にあったことなのか、それとも、最初から夢を見ていたのか。そんなことは、わからない。
ただ一つ、翌朝に目を覚めた二人の財布には、十円銅貨が一枚もなかったそうである。




