テスト飛行
ぐんぐんと景色が後ろに過ぎ去って行く。
「すごい早いですね。」
名取が信幸に聞く。
「思ったよりもスピードが出ているし、
魔素の増幅率、船体強度も上がっている。」
信幸は機器の値を確認して、そう答える。
「風竜で風を制御して、
土龍で強度、
火龍で出力のサポートをしています。」
どこからか、セレスが現れて、説明をする。
「これは素晴らしいですね。以前の方は空というと、
なぜか、プロペラというのを回して、飛ぼうとして、うまくいかず。
しまいには爆発のエネルギーを使って飛ぼうとして、うまくいかず。
結局飛ぶ魔物や風の魔法を使って飛んでいました。」
「そいつは知識不足だな。魔素のある世界でそれをやると、
本体が壊れるか、浮かばないか、本体が回転するか。
まぁ、うまくはいかんわな。」
信幸はそんなことを言って、再び計器をチェックし始めた。
「秋ちゃん何で?」
富士がこそっと、後ろに並んで立っていた紅葉に質問をする。
「ヘリコプターのようなもので飛ぼうとすると、
ロータと呼ばれる、横回転を制御するものが必要となるし、
それをつけずに4方にプロペラをつけて浮かせると
本体の重さと接合部の強度が問題になって、
プロペラだけが飛んで行ったりするわね。
爆発は実際元の世界でも、コントロールが難しいから、
安全性の担保が取れたものにしか使われていないわ。
ジェットエンジンなんて、複雑な構造のものを専門の知識もなしに、
作れるわけないもの。
それに、形状を間違えるとどんな強度のものでも、
スピードを出した瞬間にぼろぼろよ。」
いつもと違いすらすらと答える紅葉の様子に周囲は驚いた表情をするが、
信幸だけは、計器のチェックを続ける。
「何よ。」
紅葉がそう周囲に返すと、
「いいえ。何でも。」
そろったように首を振り、そう言われる。
その様子に笑いを耐え切れなくなり、かみ殺した笑いをあげていると、
紅葉ににらまれる。
「くくく。こいつな。昔、爆発で空を飛ぼうとしたのよ。
その時に失敗をしてな。空を飛ぶ乗り物について散々調べたもんだから、
こんだけ詳しいの。」
信幸にそう言われ、紅葉は照れた顔をそらす。
周囲はその説明に納得をして、再び、外の景色に目を向けた。
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「もうすぐ、俺たちの旅の始まり、テンクル王国が見えてくる。」
「ずいぶん早いですね。」
「正味、1時間ってところだな。通常の馬車の約10分の1の時間で着くわけだ。」
「ほへー。」
信幸は横にいる、名取にそう答える。
そんな二人に後ろから紅葉が近づいて質問をする。
「停泊は?」
「しない。単に目標が欲しかっただけだし、このままUターンして、ビエツに戻る。
細かい敵は襲ってきたが、大物はでなかったし、この航路は安全だな。」
「この船だけかもよ。龍の気で寄ってこないだけかも。
それに、あの娘もいるし。」
「かもな。だが、それは本運用する際に、考えればいいさ。なぁ。親方。」
振られた親方は腕を組んでうむと頷く。
それを見て、あきれながら、紅葉は先ほど見つけた船内のラウンジへと向かった。
「名取もラウンジにいていいんだぜ。」
「いいです。ここの方が、面白いので。」
「そうか。」
そう返すと、信幸は緩やかな弧を描くように船を操舵し始めた。




