飛行船
「できたぞ。」
親方に呼ばれた信幸が工房を訪れると、そういわれる。
信幸は少し驚いた顔をして、飛行船のことかと思い、
聞き返した。
「ずいぶんと早いですね。大きかったと思うのですが・・・。」
「まあ、船と変わらん上に、板を組み合わせるだけだからな。」
「鉄の柱は使わなかったのですか?!」
「応よ。種はこれよ。」
そう言われ、渡されたものを見る。それはハニカム構造の曲がった鉄板だった。
「パーツを細分化しつつ、魔法で構築、部分的な再構成による接合ですか。
は~。なるほど。」
「小舟を鉄板と木で作っている奴がいてな。そいつの入れ知恵よ。」
「考えましたね。俺では思いつきませんでした。」
信幸は渡された鉄板を眺める。
幾つかの小さな板をくっつけて、Rをつけているのだろうが、
つなぎ目もねじやポルトの類もない。
そして断面は六角形のハニカム構造になっており、
内側と外側のRをしっかりと繋いでいる。
信幸は思いっきり真っ直ぐにしようと力を込めるがびくともしない。
「すごいですね。普通つなぎ目とかがウィークポイントになるのものなのに、
この作り方なら、それもできにくい。」
「いい仕事ができたと我ながら満足しているよ。あとこいつらも実用化できた。」
そういわれて、見せられたのはダンパーと少し大きめのベアリングだった。
「こいつらもこの鉄板の応用で作っている。
いやー。いい経験だったぜ。物もそうだが、
方法についてもいろなことに応用ができそうだ。」
「それは良かったです。では、船を見せてもらえませんか?」
「ああ。いいぜ。といっても、内装がまだでな。側だけの設計図はもらったが、
内装についての注文をもらい忘れていたのに、できてから思い出してな。
いま、床を張らせているから、要望があるなら、言ってくれや。」
「内装ですか?ああ、そういえば考えていませんでした。
といっても、私も紅葉もセンスがないので、
その辺は親方たちにお任せしますよ。
あまりに、派手だったり、無骨だったりしたら、
口を挟ませてもらいますけどね。」
「そうかい。なら、場所は内壁の近くだ。あれ、空を飛ばすんだろう?
どうやるかは知らんが、上り下りが地面だと問題があるかもしれんと、
足場を作って内壁から出入りできるようにしてある。」
「そうですか。感謝します。上部の空洞部分はどうなってます?」
「いい皮膜をもらったからな。中身空洞のまま、骨組みにかぶせてある。
そうだ、あそこに何か入れるのかい?」
「ええ。暖かい空気を入れるのですよ。」
「ほー。そうすると空を飛ぶのかい?」
「飛ぶというより、浮くですけどね。準備が整ったら、お知らせしますよ。
魔石やら設備やらを取り付けが終わったらですけどね。」
「そのあたりは秘密なのかい?」
「取り付けられたものを見るのは勝手ですがね。」
「なら楽しみにしているよ。」
「それでは、見に行ってきます。」
そう言って、信幸は一礼すると、工房街を抜けて内壁に向かう。
すると確かに内壁に大きな飛行船が取り付けられていた。
「なるほど。」
一つうなずくと、バルーンの中に骨組みの接合部から入り込む。
バルーンのちょうど中間に熱風発生兼ヘリウムガス変換用の魔石を
鉄線で固定する。
そして、電線をたらし、骨組みに沿って、操舵室へと這わせる。
「これで良しっと。うん。操舵室の眺めはいいな。
っと。リモコンと計器をつけないと。
もう面倒だし、魔石でコントロールしようかな。
計器は電線から情報を映像に変換してっと。うん。うん。いい感じ。」
信幸は満足そうにうなずき、自分の使いやすいように操舵室を改造し始めた。




