薬神?乃湯
「さ、うん?寒くない。いやむしろかなり暑い!」
山を越えた先は雪が積もり、湯けむりの都市が広がるはずだった。
しかし、予想とはことなり、雪はなく常夏のごとくの暑さの上、
人々に覇気がない。
「まるで、幽鬼ね。」
「暑さの所為もあるだろうが、邪気にもやられかけているな。」
「目が虚ろで、話は聞けそうにないですね。」
「飲食店もダメそうですよ。」
人々の目は虚ろで覇気がないが、それでも、湯守や薬師であろう人が
湧き出るお湯のつまり具合を見たり、薬湯であろうお湯を組んでいる姿があった。
「ありゃだめだ。火の精霊の邪気が、お湯に交じっている。
おそらく、この辺一体のマグマに潜んでいるんだろう。
こりゃ、早めに薬神をどうにかしないとまずいぞ。
取り合えず。よっと。」
信幸は地面に手をつくと何らかの魔法を行使した。
「何をしたんです?」
「取り合えず、あの辺の温泉の流れの元に、ろ過する植物を張り巡らせた。
組んだり、湧き出るお湯に影響を与えない範囲でな。
しばらくすれば、人に生気が戻るだろうよ。」
富士の質問に信幸はそう答えつつ、先ほど感じた、神の気配のする山を見据えた。
「一気に行くぞ。標高がありそうだしな。」
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「この辺は火の力も強いが水の力も強い。
だから、辛うじて、薬神も残っているだろう。
守護は水竜と風竜。いずれも隠匿結界の中っぽいな。
食われてはいないはず。」
「作戦は?」
「俺、名取、神戸、大野と土龍で遊撃、残ったメンツでディフェンス。
ディフェンス側は宮城の支持に従うように。」
「秋ちゃんは?」
「あれは制御しない。勝手にやらせる。」
「とうとう放し飼い。」
「富士~。」
一通り説明を終え、馬車を降りて、山を登っていると、
ーピーピーー
という音が紅葉からなり始めた。
「なんだ?紅葉。お前鳴っているぞ。」
「うん?えーとなになに。あーエンデから通信だ。
はい。もしもーし。」
<お、繋がった。部下から聞いたけど、火の精霊討伐にでたんだって。
信幸らしくない考えだね。どんなに弱っていても万全を期してから
行動をすべきだよ。>
「嫌味か?」
<違う違う。忘れ物に気づいてほしいんだよ。>
「忘れ物。なに、あー。そうか精霊用の器となるもの。」
<そうそう。完全に消されると困るんだよ。世界にとってね。
地の精霊に使われていた呪具の解析はもう少しかかりそう。
そこで、前回の紅葉の器が吸収したという事象を元に、
呪具から精霊を引っ張りだしかつ憑依させることができるドールを
開発した。火属性は、作るの大変だったよ。
陶器のドールの中に火に偏らせたコアと燃焼物、促進物が入っている。
火の精霊の好むものになっているはずだ。
あと、生徒と信幸のドール改良版もできたから、一緒に送るね。
座標は紅葉の足の接地している場所から、半径2mの円だよ。
10秒後に送るから準備してね。>
「ちょ、おま。」
慌てて、斜面から、せり出すように5m四方の板をだす。
紅葉もその中心に立ち、安定するように固め、斜面と接合する。
<5、4、3、2、1。転送っと。>
「はー。間に合った。」
<あれ、場所が悪かった?>
「今、山登っている最中だっつーの。」
<ごめんね。ごめんねー。じゃ、そういうことで。>
「おい!ちっ。切りやがった。さて、俺らのドールは・・・。
ご丁寧に名前を彫ったのか。まあ、これなら間違いようはないか。
各自、乗り移れ。終わり次第、また登るぞ。」
そういいながら、信幸は封印用ドールを急いでしまい、
紅葉が動けるように急いで各自にドールを渡した。
「エンデめ~。」
紅葉の心の叫びが山に響いた。




