女教師は働きたくない
「だぁ~。」
紅葉は目の前の集団を見ながら、頭を掻きむしった。
片やぴしっと緋色の軽甲冑を身に着けた集団、
片やがっちりとした体躯に兜をかぶっただけのの集団。
その集団の動きを見ていた紅葉は頭を抱えることになる。
それは生徒のテスト期間が終わるまでという期限の信幸の指示によるものだった。
ー王都の技術者は取り敢えず修復に回すから、国軍の訓練を行え。ー
そう言われた紅葉は、以前の訓練や今までの経験から、
問題はないと思い、安易に頷いた。
そして、取り敢えず力を測ろうと演習を行った。
それが今の目の前の惨状である。
緋色の集団は連れてきた軍である。
決して、精鋭と呼べる軍ではない。
それこそ、精鋭は王都の六花の館に送った。
ここにいるのは予備兵に近い集団のはずであった。
指揮官が優秀だったのか、それとも練度の差がありすぎたのか、
倍もある集団を囲み、外側から行動不能にしていく。
「これはこれは。見事な包囲殲滅陣形ね。」
後ろから聞こえた声に振り返る。
「お母さん!あ~そうか。勉強を見に来ていたっけ。」
「随分と力の差があるのね。でも、嬉しくなさそう。
あなたの軍の方が優秀なのに。」
「そりゃそうよ。あれに軍事行動の何たるかを
2週間ほどで教えなきゃならないの!」
包囲されている方を指さしながら、叫ぶ。
「大変ね。でも、やらければね。」
「が~!」
正論をつけつけられ、頭を掻きむしる。
「人に教えるということは」
「人に教わるということである。人生とは一生学びである。」
「わかっているじゃない。」
「森師匠が言っていたことだから。」
顔を下に向け、ぶすっとした顔でつぶやく。
「なら、頑張らなきゃ。私やあの人みたいな酷い失敗は嫌でしょ。」
「そりゃー。そうだけどー。」
「一人で教えるわけでもないのだから。もうちょっと肩の力を抜きなさいな。」
「ぶー。」
そういうと、幸代は不貞腐れる紅葉の頭をぽんぽんと叩いて、戻っていった。
その後ろを見送り、再び演習の様子を頬杖をついて見ながら、
今後の方針と彼らに合った作戦を考え始めた。
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「姫様。完膚なきまでに叩いてご覧にいれました。」
「そうね。」
あの後、時間をおいて、2セットやってみたが、結果は変わらなかった。
そして、指揮官を任せた兵士の報告を受けた紅葉は遠い目をして、返事を返し、
ため息をついた。
「ご苦労様。あとで、レポートの提出を、自軍の動きの反省と改善点、
相手軍の改善点をまとめて提出を。
この国の兵の教育に使うから、教育方針の意見も記載して、提出を。
では、解散。」
「は、了解しました。失礼致します。」
そういって、紅葉は自分の軍を退出させる。
「さて、っと。」
ぐるぐる巻きにされ、精も根も尽きている集団に目を向ける。
「しょうがない。」
それを見た紅葉は剣をドンッと地面に打ち付ける。
ビクッと目を覚まし、紅葉に注目する。
「さて、あなた方は始まる前、意気揚々を出ていき、
見事、3試合とも、まったく同じ方法で打ち取られたわけですが、
何か弁明はありますか?というか、学習はしないの!」
集団は目を伏せただただ黙る。
「ふ~。本日は力量を測るだけですので、これで終わりにしますが、
明日からは地獄を見ると思いなさい。では、解散!」
そういって、翻して紅葉は城へと戻っていく。
それを見て、集団は縄をほどいてくれないのかと慌てるが、
立ち上がるとするっと、縄が落ちる。
その縄には焦げ跡がついていた。




