問題の山
信幸は元執務室と思われる部屋で、作業をしていた。
諸侯の連絡方法を目覚めた者たちに聞き、
すぐに来るよう伝えたが、何人かは家宰が来ることになっている。
王都にいた何人かの役人は贄にされた直後であったことが幸いし、
現状首都機能は回復しつつある。
しかしながら、国境付近の状況があまり芳しくなく、
他国からの侵略に対しての懸念が発生していた。
人事資料を見ながら、家宰に位を与えるか、
首都や所領の有名人に位を与えるかで一晩中なやんでいた。
すると中庭でなにか協力な力が発生した。
「何だ!?」
部屋を飛び出ると、目の前に溶岩の柱が立っていた。
「ありゃー。紅葉か?」
力の発生元を何となく察した信幸はその姿が見える場所まで歩く。
「遊んでるな~。」
「本当にね。」
紅葉の後ろから、柱にもたれかけながら声をかけると、
苦笑しながら、紅葉は返す。
「何々。チュートリアル?・・・・
ごり押しって。それに考えるな感じろって。」
「え?違うのか?」
チュートリアルを見ていた紅葉に信幸が近づき、
ぼそっとつぶやいた紅葉の言葉に反射的に突っ込む。
そして、肩に手を置き術式を読み取る。
「すごいな。ほ~。人形だからこそできた技術か。」
術式を確認した信幸が感嘆の声を上げる。
「そんな?」
「あ~。これはいわゆる科学と魔法の複合だ。すごいぞ。
前から流治達や六花が取り組んでいたとはいえ、ここまで仕上がっていたとは。
概念を映像で保管し、どういったものかを明確にしつつ、
魔法のイメージの補完にも映像を使って、
それを魔法陣や術式に紐づかせている。
確かにこれなら、俺らのフルパワーにも耐えつつ、制限を埋め込める。」
「よくわからない。」
「だろうな。」
苦笑しながら信幸は肩から手を放す。
「紅葉様。信幸様。お手紙です。」
二人の近くの土が人型をとる。六花の土の精霊のようだ。
「ありがとう。ノーム。」
「いえ。では、わたくしは家に戻ります。」
そう言って、手紙を渡すと人型は崩れて、元の地面に戻る。
「えーと何々。お姉とお兄へ
私達と生徒の改修用人形ができるまで、しばらく私は親孝行のため、
元の世界とユグドラシルでの業務を行います。本音を言うと疲れたのよ。
取り敢えず、土の精霊は初期化されているので、
信兄と秋姉で調整をお願いします。
あと、そこには火龍と鍛冶神、土龍がいるはずですので、
確認と回復をお願いします。
最悪、土の精霊を生贄に復活をお願いします。
一度訪れた場所なら、信兄なら、空間移動可能と思っています。
できないならエンデに相談してください。
カスタマーサポート機能を秋姉の人形に付けました。
それで呼び出しはできるはずです。
それではしばらく連絡しないでください。おやすみなさい。
六花
だそうよ。」
「まぁ。仕方がないか。」
「よね。」
「だぁー!でも、そうか、土着の神の復活があったか。
つっ!」
信幸は髪を掻きながら、ドカッと地面に座る。
「どうしたの?」
「いや。言ってなかったんだが、この国まともに動いてないんだわ。
既得権益に群がっていたやつらも半分が死亡。
まぁ、粛清の手間が省けたんだが、商人系がいないのがな。
あと、領主はほぼ壊滅。こっちも人員の確保ができていない。
かろうじて、首都のインフラ、官庁系が動かせる状況。
学校とギルドがない。孤児院もない。
もう問題の山積みだよ。は~。」
ため息をついて信幸は空を見上げる。
「一つ一つやるしかないんだが、土着の神の復活には同行できない。
そうするとお前の行動が心配なんだわ。」
「ご迷惑をお掛けします。」
「仕方ないっちゃ仕方がないんだが。」
そんなことを話していると生徒たちが、やってきた。
その顔は暗い。
「どうしたの?」
「もうすぐ中間テストじゃないですか。」
名取が暗い顔の理由をいう。
「ああ。そうね。時期ね。で?」
「少し心配で、こっちでも勉強ができないかなって。
所謂睡眠学習みたいな。」
宮城がみんなで話した計画を告白する。
「まぁ。できなくはないけど。道具は?」
「そこはほら秋ちゃん先生の力でどうにか。」
大野がお願いといった体で紅葉を拝む。
信幸と紅葉は顔を見合わせて、
大きなため息をついた。




