賢者の政②
土くれが山のように積まれた廊下を進んでいく。
ダンジョン化していたことから、
モンスターが出てくるかと構えていたが、
反応がない。
信幸は問題がないと思い、急ぎ足で、中央、謁見の間と思われる場所まで向かう。
それに、遅れまいと生徒たちも剣を手に駆け足でついていく。
そして、誰に止められることがないまま、目的地へとついてしまった。
信幸は入り口に着くと、ため息を一つついてゆっくりと玉座の前まで歩いて進む。
「信さん。これは・・・。」
名取がこれまでの様子から、最悪の考えがよぎり、信幸に問いかける。
「あー。そうだと思うぜ。これは・・・。最悪だ。
紅葉がいれば詳細がわかるかもしれんが、
生き残りが貴族、王族、臣下においてはいないかもしれん。
はー。どうすんだよ。」
がっくりと首を垂れて、壇上に腰掛ける形で座る。
<主、我が調べましょう。>
そういって初老の男が信幸の腕輪から出てくる。
「天空?そうか属性は土!頼めるか。」
「御意に。」
そう答えると、天空は鞘ごと腰の刀を取り出し、地面に立て、
柄に両手を置いた状態で目をつぶる。
しばらくその様子を見ていると、不意に目を開く。
「生存といえるかはわかりかねますが、地下の方に生命反応がございます。
ただ、付近の術式から文字通り人柱にされていそうです。」
「はあ~。マジか~。」
「何が問題なんです?生きている可能性があるなら、助けましょうよ。」
宮城が、そう提案する。
「人柱っつーのは。恐らくこの場所や、精霊自身の強化に使っていたはずなんだ。
それを壊すっつーことは、この都市そのものが崩壊するかもしれん。」
「どうするんすか?」
大野が問いかける。
信幸はそれには答えず、しばらく、手を鼻を挟むように合わせて、
目を閉じる。
しばらくすると考えがまとまったのか、目を開けて、立ち上がる。
そして、壇上から降りながら、次々に指示を飛ばす。
「青龍!」
「ここに!」
腕輪から、若い男が出てくる。
「至急!六花の元へ!こちらに来るように伝えてくれ。」
「御意に。」
そう返事をすると、体を水の龍のように変え、昇っていく。
「天一。朱雀。」
「ここに。」
「応!」
天女のような女性と、さわやかな顔の男がでてくる。
「ここで、この者たちの護衛を。これをつける。」
<<ワン!!>>
「あら。あら。」
黒い靄が腕輪からでて犬の形をとると、女性にまとわりつく。
「では、天空。案内を頼む。」
「承りました。」
天空は玉座の後ろの扉へと向かう。
その後ろを信幸はついていく。
「あ!信さん。」
富士が呼び止めるが、それを天一と朱雀が遮る。
「まだ、見るには早いものが出てくるかもしれんから、
坊主たちは俺たちと留守番だ。」
「そんな。」
「多感な時期に心が気付いたり、ゆがむ原因になるものを
見る必要はありませんよ。
それよりも、この子たちと遊びましょう。」
そういって、子犬のようなものを抱き上げるとそれがちゃんとした柴犬になる。
「へ?」
「不思議でしょう。この子たちは触れた者に合わせた姿を取る犬なんですよ。」
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信幸の後ろに六合、白虎、騰蛇が控え、騰蛇の火であたりを照らしながら、進む。
―カツンッー
ーカツンッ―
「主、子らを置いてきた真意はなんですか?」
「助からないときは私一人が罪人になればよいからな。」
「お覚悟しかと受け止めました。主が一人で背負わずとも
我らもともにあります。」
「そうだな。」
―カツンッー
ーカツンッ―
「もうすぐです。」
するとそこは広間になっていて、闇が奥まで続き、様子がよくわからなかった。
しかし、何かが呻く声が反響していた。
「騰蛇。もう少し明かりを頼めるか。」
言われた騰蛇が明かりを増やし広間を照らす。
「まじか。」
そうつぶやいた信幸の目の前はまさに地獄の様そうであった。




