賢者の政①
精霊だったものが砂に変わり、レイが紅葉を抱き上げた時まで遡る。
「おや?」
「どうしたレイ?」
訝し気に紅葉の人形を見るレイに信幸が声をかける。
「紅葉様の魂がこの人形から消えています。それにこれは・・・。」
レイの発言に不穏な気配を感じ、臨戦態勢の状態で、
人形ごとレイを囲む。
すると人形が姿を変え始める。
その姿は黄金色の髪の紅葉を幼くした少女へと変わる。
「どういうことだ?」
「よくわかりませんが、精霊の力がこの人形に満ちています。
おそらくですが、空っぽになったところに急激に精霊の力が満ちたために、
紅葉様ははじき出され、純粋な精霊の力だけが残ったのではないかと。」
「それはまずいんじゃ。」
レイの発言に神戸が指摘する。
「いえ。紅葉様の力の残照から、この人形の様子を見ましたが、
生まれたての子供と同じです。何も知らない、純真無垢な子供です。」
「レイが言うならそうなのだろう。」
信幸はレイが魔素下であるならば、物体や生物の『鑑定』ができることから、
その情報の真偽を疑わない。
それよりも、信幸は、六花へと連絡し、今後について話し合う必要が多いことに
頭を悩ませていた。
そんな信幸はふと足元に転がる、鈍色の球体に気付いた。
「これは。コアだったものか?いやそれにしては呪具にも見える。
どういうことだ?」
「信さん。それは?」
横から富士が、その物体をのぞき込む。
「ああ。精霊が消えたとき出てきた球体なんだが・・・。
よくわからん物体でな。」
「気持ち悪いものですね。」
「やはり、そう感じるよな。まぁ。後で調べてみるか。
さて、あそこにいる鍛冶師も
自分の王が得体の知らないもので、
それが倒される様を見ていたわけだが・・・。」
そういって、台車の方をみる。捕縛されている鍛冶師たちが唖然としていた。
「はぁ~。嫌な予感しかしない。頼むから面倒ごとにならないでくれ。」
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「はー。建物は無事。とはい言えないが、まともな方か。」
城下にたどり着くと、ところどころ崩れているが、どうにか形は保っていた。
「死人はいなさそうですね。」
崩れている部分が壁の一部や飾りの一部、調度品の一部であることから、
名取はそう口にした。
「だが、これじゃ幽霊屋敷もいいとこだ。早急にエネルギーの供給手段を
どうにかしないと。火山のエネルギーを使っているって。
紅葉は言っていたな。」
「ええ。戦う前の事前調査の時に。」
宮城が信幸のつぶやきにこたえる。
「なら。どうにかなるか。熱のエネルギーを使えばいいからな。修復も
鍛冶師たちを集めてどうにかすればいいし。だが、問題は・・・。
確認してからでいいか。嫌だな~。確認すんの。」
居住エリアと思われる場所を通り過ぎ、
行政区画と思われる場所の近くまでたどり着く。
「ここからが、貴族や王が働くエリアか?」
信幸は捕まえた鍛冶師に聞く。すると、一番偉いのであろう者が口を開く。
「お、おう。そうだ。」
「なら、お前たちはここで開放する。王が倒れたことと、
お前らの使っていた武器の秘密を触れて回れ。
後、治せる範囲で壁や、調度品、柱や飾りを人を集めて直しておけ。」
「あ、ああ。」
そういうと。信幸は手を振る。すると、拘束が簡単に外れる。
呆然とする鍛冶師たちに再度声をかける。
「何を呆然としている。さっさと行け!」
ビクッとした後、鍛冶師たちは慌てて駆けだした。
「あれでよかったんですか?」
大野が信幸に質問をする。
「後で見せしめは必要かもしれんが、今は時と人が必要だからな。」
「ああ。なるほど。」
馬車をしまい、生徒共に行政区画に足を踏み入れる。
廊下のいたるところに、土が山なりに置かれているのを見て、
信幸は天を見上げながら、ため息をついた。
「すでに、俺はいやな予感をビシバシと感じているよ。
頼むから、その予感は外れてくれ。」




