戦争事前
住民を治療し、説明と解呪に半日、
その後、町まで送るのに半日、
広場にて、領主が、魔物になっていた説明を行い、
翌日、最高スピードで馬車で王都を目指す道中。
信幸は車中にて今後のことを説明し始めた。
本日の御者はレイである。
「さて、相手が土の精霊だとすると
こちらの動きは丸見えなのだろうね。」
「そうね。私でも、相手の位置を調べるわ。」
「それに、風の精霊も味方にいるとすると。
俺らの情報は得ていると考えるべきだろうね。」
「あっ!そうか。」
信幸は一つづつ説明をしながら相手の出方の説明を始める。
「俺らの移動速度を見て、開戦場所を指定してくるだろうね。」
「う、うん。そうだね。あれ、でもこの馬車、隠形は?」
「ついていようと、ついていまいと、違和感からばれるだろうが。」
「あ。そ、そうか。」
紅葉は姿を隠して、取り敢えず突っ込もうと思っていた手前、
挙動不審になりながらも頷く。
その様子を見て、信幸はため息をつきながらも説明を続ける。
「そうすると。相手の有利な時間、場所が戦場となるわけだ。」
「そうだね。」
今度はしっかりと返事を返す。
「ということはだ。相手は万全の戦略をもって戦場に来るわけだ。
だが、俺らはそれができない。では、どうする?」
信幸は紅葉の様子を伺う。
紅葉は脳筋であるが、こと戦についてはそれが当てはまらない。
「そこは、私の得意分野だね。
常に戦闘に備えるか、盤上を覆すだけの力を使うか。」
「まあ、そうなるな。だが、他の手段を使ってくる可能性もある。」
「暗殺、諜報かな。」
「そうだな。」
「そこは心配ないわ。」
「だろうな。俺もいるし。あの腕輪は全員が装備しているしな。」
「毒殺、呪殺、催眠、洗脳。あの子が自分が使う搦め手のすべてを
防止する設定が入っているものね。」
「あいつは正道より邪道だからな。まぁ。それはいい。
この点は相手には知られていないはずだ。
こちらの有利に事が進められるから、結局は大規模戦が主になるはずだ。
で、どうする。」
「結局。どんな状況、どんな場所でも、
圧倒的な戦力で叩くのが楽でいいと思うの。
戦場を私たちの得意なフィールドにするというのもあるけど、
結局土塁、土壁は土属性には無意味だし。
それに、いざとなれば。私の限定解除が使えるようになるわけだから、
圧倒的な戦力の用意と広範囲浄化は問題ないと考えていいわ。」
「ふむ。主戦力はお前。その周囲のうち漏らしやフォローを俺と生徒か。」
「そう。兵の質や兵種を見て、戦い方は変えるかもしれないけど、
大枠はそれでいいと思うの。」
「だな。俺もそれでいい。やはり、戦略ができないだけで、
戦術は見えているんだな。」
「まぁ、ね。」
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そんな話し合いを後ろでベッドに座りながら聞いてた生徒は
こそこそと話をしていた。
「秋ちゃんが珍しくまともだ。」
「いつも、こうよ。とか、ブンッと振り上げてこうよ。とか。
説明が抽象的だもんな。」
「でも、生徒の様子を見て、的確なアドバイスをくれるよ。」
「だから、慕われるんだろうな。」
「授業と部活の時の説明の様子だと、脳筋の馬鹿に見えるもんな。」
「「「うん。うん。」」」
後ろの席で、酷い言われようの紅葉であった。
それをアンが訂正する。
「皆さま。それでは姫様は教師になれないではありませんか。
ああ見えて。体の動かし方を説明するときだけ説明が下手なのですよ。」
「え?でも、信幸さんも脳筋だって。」
「それは、姫様がいつも勘で行動するからです。
あと、何も考えずに突っ込むところもそれを助長していますね。
それらが、脳筋に見える所以ですね。
ただ、そんなことをしても、被害が少なく、
結果をだせるだけの力をお持ちですから。」
とフォローをする。
アン自身も少しは御身を考えて、少しは行動を自重しえほしいとは思うが、
それはそれで、何かが違う気がした。
常に先頭で道を示し、何者にも恐れず、それでいて優しい。
それこそが、アン達従者が憧れ、付き従うべき主、紅葉の姿である。
そう思うからこそ、少しくらいの馬鹿な行為に冷ややかな目で見ることはすれど、
彼女に付いていこうそう思える。




