裁く者
限定解除をした信幸の手には槍と杖に似た棒状のものを握っていた。
「なぁ。なんでこんなことをした?」
「はぁ!?何をしようと貴様には関係がない。
神のごときあの方にいただいたこの体、
この知識でこの地を治めるのが我が指名。
それ以外でもそれ以上でもないわ。」
半狂乱の男はそうのたまい、壁に手をつく。
すると、住民の両側の壁から土の手が生え、
住民を握っていく。
生徒と信幸はかろうじて通路に下がり、難を逃れる。
「ちっ!さぁ、そのまま下がれ、こいつらを握りつぶすぞ。
さっさと傀儡を作って、町を支配しようと思ったが、
お前らをどうにかしないと難しそうだ。さぁ、下がれ。」
そういって、握る手に力を込めたのであろう、
握られた住民が苦悶のうめき声をあげる。
「救えないやつ。『汝は罪を贖うでは事足りぬ、断罪』」
そう、信幸がつぶやくと太い蔦のような雷が、男へと降り注ぐ。
「フフフ、我は土だぞ。雷ごと。がー!!な!ぜ!!」
最初余裕を見せていた男は急に苦しみだし、そして炭のような土塊へと変わった。
信幸の力の根源の一つに裁定が存在する。
その力は魂に直接裁きを与えるものであり、神以外にはどんな存在であれ、
逃れることのできない一撃を与える。
ただし、一撃のみである。
「ばーか。ただの雷を使うかよ。」
<罪人が消失しました。『限定解除』を再度封印します。ご利用は計画的に。>
気絶した人の合間を縫いながら、土塊に向かい、それを回収する。
そして、大きなため息をついた。
「さてっと。どうすっかなこの状況。」
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「お帰り~。随分といたんだね。」
「それな。どうも人の入れ替えを行って、
リソースの定期的な生成を行おうとしていた感がある。」
それを聞いた紅葉は眉をひそめ、不機嫌な顔になり、
髪が白くなる。
「人間牧場的な?」
「だな。怒るのは分かるが落ち着け。
とりあえず、この人達の治療と空腹の解消を進めて、連れて帰ろう。」
信幸はそう言いながら、紅葉の後ろに控えていたアンとレイに顎をしゃくって
指示をだす。
アンとレイは静かに頷いて流動食を用意し始める。
「天一。」
信幸がそういうと腕輪から光が飛び出て天女のような形をとる。
「お呼びですか。主。」
「聞いていたと思うが、彼らを癒してほしい。」
「承りました。」
うやうやしくお辞儀すると2匹の犬を引き連れ、
しずしずと住民の方へと歩いていく。
「信兄。これ。」
そういって、領主の館で手に入れた証拠品を見せる。
「お前の予想は?」
「召喚系の魂ないし真名で縛る系の呪具。」
「だな。」
「解除は?」
「空間隔離による破壊。浄化。無効化。反転。様々はあるが。
今できるのは反転だけ。」
そう言って、信幸はすべての宝玉を木に変える。
「残ったのは俺があとで何かに転用可能か調べよう。」
空っぽの宝玉は木に変わることがなかったので信幸が回収する。
木に変わったものは紅葉が燃やす。
「これで全部か。この写真は六花に渡しておこう。
あと、この国だが、どう対処する。」
「信兄が考えてよ。そういうのは無理。」
「お前な~。う~んどうすっかな。
時間もないし、中央突破かな。」
信幸は強行軍を選択した。
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「まいったな。国境の一つが解放されるとは。
例の勇者擬きか。水や炎が動いたのに取り逃がすとは。」
「や~。土。元気~。」
「風っか。そうだな。何か情報があるのかい?」
「残念な情報だよ。王国からは完全に締め出された。」
「何?!どういうことだ。お前が入れなくなるなんて!」
「王国に何か大きな力のものがいるみたい。」
「女神さえ力を大分失っているのにか?」
「そうなんだよね~。」
「リソースを増やすためとはいえ、呼び込んだ何かが仇なしているのか。」
「かもね~。気を付けてよ~。」




