馬車の旅
「予想以上に速いな。」
「そんな?」
御者台に座っている、信幸が地図を見ながらそんなことを言った。
「ああ、この調子なら、もうじき国境だ。
旅の理由は考えているのか。」
「え?」
「おいおい。こんな馬車で移動しているんだぞ。
検問所で突っ込んだ質問をされるだろうが。」
「えっ?えっと~。」
「まじか?」
「あはははは。」
「おい。」
情けない顔で、笑う紅葉を信幸はジト目で見返した。
すると、馬車の屋上で、生徒に紅茶を配っていったアンが
顔を出し、手紙を差し出した。
「上から失礼いたします。六花様から、
『秋姉は何も考えていないようだから、こっちでいろいろな手続きをしておいた。
国境を超えるときはこの手紙と、密使であることを伝えればいいから』
っとお預かりしました。
身分証があるので、それで問題がないとのことです。」
「どれ。うん。封蝋の刻印も王国のものだし。大丈夫そうだな。
さすが、六花だな。根回しがしっかりしている。
姉が脳筋な分、がんばっているな。しかし、すると。」
「はい、六花様はあの後から、本日まで、お休みになられていることでしょう。」
「は~。俺も少し早めに来て、手伝ってやればよかったな。
お前がしっかりしないからだぞ。」
信幸は隣の紅葉をにらみつけつつ、アンへと手紙を返した。
「ところで、国ごとに渡す手紙は違うんだよな。」
「はい。国名と国王名が書かれていますので、間違えることはないかと。」
「なら。よし。」
王国をでて、今日で5日目。
その間に、流治謹製のマルチツールの使い方、夜営の仕方、
魔法と剣術の指南をしながら、ビエツを目指していた。
ところで、流治謹製のマルチツール。今回は以下の3点を用意した、
ミサンガ型
杖型
ハンドナイフ型
ミサンガ型には、ザイル、火付け石、コンパス、カッターが
ハンドナイフ型は、ハサミ、ペンチ、ナイフ、栓抜きなど、
十徳ナイフのような機能がついている。
そして、杖型。これは、流治が異世界でも生き抜けるようにと考えた一品である。
まず、水をろ過するための小石、竹炭、砂が入ったパーツ、と空洞のパーツ、
槍の穂先になるパーツ、鎌の穂先になるパーツ、
1メートルほどの鎖とひもが結べる穴が開いたパーツ、
弦を通す穴がついた1mほどにのびるパーツが2本、
そして、足は分離可能なタングステン製のハンマ―、
柄の部分は10cmほどに伸びるハンドルになっている。
状況に合わせて、組みかえれば、槍、鎖鎌、トンファ、弓、
ハンマーなどの形状に変形できる。
これを見た信幸は、
「なんつーか。こだわる方向が違う気がする。」
と言いつつも、目をキラキラさせながら、様々な組み合わせを試していた。
生徒たちも、パズル感覚であーでもないこーでもないと試していた。
紅葉は、そうそうにあきらめその姿を見ていた。
槍なら、レンが、火なら、自分で、あとは力技でどうにもなる
そんな自信が紅葉にはあった。
いざとなれば、アンかレイを頼ればいい。
だが、流治はこのマルチツールに満足がいっていないらしく、
テントに変形できるリュック、小さくできる食器など、
思いつく限りの物を作っいた。
そんなこんなで、移動している間にも、ゴブリンやら、オークやら、
狼やらを倒しながら、自分の力の使い方を生徒へ教え、
今では広範囲の魔法は使えないものの、付与や形状変化、
並列起動などの、魔法が使えるようになり、当初は大変だった旅も、
楽しむ余裕が生まれるようになっていた。




