馬車?
ードドッンー
そんな効果音がでてきそうな大きな箱状のものが屋敷前のロータリに表れていた。
「これは・・・。なかなかね。」
「すごいだろう。」
口を開けて呆然とその馬車を眺める生徒の横で、
半分あきらめた感じで六花が口を開き、
そのまた横で、腕を組みうんうんと満足そうな顔をした信幸がいた。
馬車の御者席側では、マリーと紅葉が曳くための軍馬を呼び出すために
魔法陣を描いていた。
「これでいいと思います。」
「よし。よーし。じゃあド肝を抜くような馬を呼び出すぞ~!」
「えっ?あ!待ってあ」
不穏なセリフに気付いた六花が止めようとするが、
気合を入れた紅葉が召喚を実行する。
ーパー。カッ!ー
「お、遅かったか。うん?あれ?白い馬?」
その召喚で現れたのは美しい毛並みの2頭のつがいの馬だった。
生徒たちも良く見る白い馬にどこがド肝を抜かれるのか不思議そうな顔をする。
ただ、信幸だけは、喜色の顔から一変、呆然とした顔になった。
「お、お前な。なんて馬を見つけて、育ててんだ。」
「信兄?」
六花は訳がわからず、信幸に聞く。
「あ、やっぱり信兄は気づいたか。でも、知らない子たちには意味がないか。
姿を変えた状態で呼べばよかったかな~。真珠、白金、変化。」
そう紅葉がいうと、白い東邦風の5mほどの龍が姿を現した。
「「「「「「「はっ、へっ。」」」」」」」
生徒はその姿を見て、馬車よりも驚いた顔をする。
「あ~。玉龍。西遊記にでてきた、龍が変化しているという馬か。
って、そんなん呼ばないでよ!」
六花は正体に気づき、紅葉に詰め寄る。
「やったね。どっきり成功!」
「がー!!」
六花の怒りも何のそので紅葉は喜びをあらわにする。
「もういいよ。2頭とも。」
そう、紅葉がいうと、2頭とも馬へと姿を変える。
「さて、驚いたには驚いたが準備をするぞ。」
信幸は気を取り直して、ハーネスを玉龍へとつなぐ。
生徒たちはあきらめ顔で馬車の内部に入り込み、思い思いの場所に座ったり、
寝る場所を話し合ったりし始めた、
ードドドッー
「うん?何かしら?」
王城から、屋敷への道を何かが走ってくる。
次第にそれが、近衛兵の様相をしていることに気づいた。
六花と紅葉は顔を見合わせ、さっきのを誰かが王城へと通報したことに気づいた。
「も、紅葉殿!ご無事ですか?」
集団の先頭にいた軍務卿が慌てた声で紅葉と六花に詰め寄ってくる。
「落ち着いてよマークスさん。何があったの?」
「何とは。龍がこの屋敷に現れたと、現れ、あれ?」
「龍?いないじゃない。どこにも。」
「確かにいませんな。あれ。通報者の見間違いですかな。
5mほどの蛇のような龍を見たという通報があったのですが・・・。」
「見間違いよきっと。それに、この屋敷にそんなのが現れても。
大丈夫よ。私や妹、昨日来た兄もいるもの。」
「そういわれるとそうですな。
ははは。この私もいささか浅慮であったようです。」
「そうそう。もう出発しなければならないから、行くね。」
「おお。これはこれは申し訳ございません。本日ご出発でしたか。
では、ついでですので門まで、先導をさせてください。」
「ありがとう。お言葉に甘えるわ。」
「では、部下は城へと報告に行かせねばなりませんので、
少々お待ちください。」
そういって、隊のとりまとめであろう青年と話、自分の馬を引いて戻ってくる。
「これは、これは。大きな馬車ですな。」
「兄の特注なの、よ。」
話ながら、御者席へと上がり、信幸とならんで座る。
「それに馬も素晴らしいですな。」
「そう?私のお気に入りなのよ。この2頭。」
「それはそれは。」
「出すわよ。」
「はい、先導いたします。」
「秋姉、信兄。気を付けてね。ちゃんと連絡をだしてよ~。」
「わかってる~!」
「「「「「「「いってきまーす!!」」」」」」」
馬車の2屋上から、生徒が手をふる。
それに、答えるように六花たちは手を振って、見送った。
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「ここが、正門です。」
そういって、馬を降りて門兵のところまで、歩いていく。
そして、しばらくして、いつ来たのか、宰相を伴って、再び現れた。
「紅葉様が来られたら、私が待っている旨を伝えるように
兵に言っておいたのですが、マークスと一緒に来られるとは
思っていませんでしたぞ。」
「ちょっと、ごたごたがあってね。それよりも、宰相さんもお見送り?」
「それもあるのですが、ついでですな。本命はこれです。
昨日六花さまより緊急で連絡を貰いまして、
お兄さまと生徒さんの分の身分証を発行してほしいと。
こちらです。」
そういって、名刺のサイズの国名と氏名が書かれたプレートを渡される。
「こちらですが、まだ、未完成でして、各々方に魔力を通してほしいのです。
できますかな。」
「問題ない。生徒にも指導は済んでいる。」
そういって、自分の分を抜き、2階から伸びてきた手に渡す。
「それを門兵に渡していただければ、身分確認が完了です。
都市内ではこのカードの魔力反応で、持ち主を特定することがありますので、
しっかりと携帯してください。
あと、門を通らず、都市に侵入すると、侵入者として、捕縛されますので、
ご注意ください。
それと、紅葉さまにもこれを。お渡ししていませんでしたよね。」
「そう?だったわね。顔で通してもらってたわ。」
そういって、紅葉は自分の分を受け取り、魔力を流した。
「では、一旦お預かりして、確認をさせていただいます。」
そういわれ、再度カードを渡す。
すると、衛兵がカードを受け取り、急ぎ足で、
検査用の台であろう魔道具にのせ、何やら操作をする。
しばらくして、処理が完了したのか、カードをもって戻ってきた。
「完了です。通っていただいて大丈夫です。」
「ありがとう。では、行ってきます。」
そういって紅葉は見送られながら、次の国へと向かった。




