依代
「さーて!昨日説明をした通り、あなたたちは本日をもって、
元の世界に帰ります。その前に、この形代に分御魂を行ってもらいます。
魂を分けるといっても、思いや考え方をコピーするだけだから、
そんなに難しく考えないように、さてやり方だけど、
こうやって人形の両手を握って、おでことおでこをこうやって当てるだけ。
簡単でしょ。さぁやってみよう。」
紅葉に言われ、生徒たちは恐る恐ると真似をしてみる。
全員がやったのを確認して、エンデが
「さて、実際に動くかテストしようか。」
と提案をする。
「じゃあみんなこの円の中に入って~。富士君ちゃんと入って後で、
ちゃんと実験をさせてあげるからね~。」
六花が生徒を誘導しながら、魔法陣の中に入れる。
「エンデ。大丈夫だよ。」
「あいよ~。さてっと『隔絶』。」
エンデが魔法陣の中を外の空間とは別の位相へとずらす。
すると、人形が見るまに8人にそっくりになり、立ち上がった。
人形の側の生徒も自分の体の変化に驚きつつも、結界の自分を見て、
興奮したように指をさす。
「さて、こんなもんかな。空間をもとに戻すぞ。」
すると、人形側は眠るように座り込み元の姿へと戻った。
「す、すごいですね!」
富士が興奮したように声を上げる。
「まあな。所謂アバターってやつだな。今は魔法ありきでしか実現できないが、
この程度ならもうすぐ元の世界でも実現できるだろうよ。
どうよ、世界は面白いだろう。」
「はい!」
富士は憑き物が落ちたようにいきいきと返事をした。
「さて。この人形は体力は無尽蔵だけど、痛みは切っていないの。
切られれば痛いし、毒を食べれば苦しくもなる。
なぜだかわかる?」
生徒たちはそろって首を傾げた。
なんでそんな設定なのかという感じと
質問の意図が分からないという顔をしている。
「わからないって。顔ね。理由は簡単。
生きることの大切さと危険を避ける術を学んでほしいからよ。
人は切られれば痛い、当たり前だけどね。
それがわからない人間は簡単に命のやり取りをする。
自殺をしたり、殺人を起こしたり、ね。
そうはなってほしくないから、 人形の痛覚は切ってません。
でも、実際にあなた方の体は傷つかないし、
こんな痛みだったという思いだけがフィードバックされます。
もしかしたら、心臓がきゅっとなるかもしれないけどね。」
納得半分、迷惑な~という顔半分で、全員の表情が一致した。
「では、帰りましょう。六花。こっちの私をよろしく。」
「せいぜい。暴走しないことを祈るよ。」
「ふふふ。エンデ。」
「あいよ。俺も向こうに用事があるから送ってくは。
さて、行くぜ。ほい終わり。」
瞬間、風間家の道場へと到着した。
「では、解散。明日は学校で試合前の最終調整を行います。」
そういって、紅葉は各個人を送り出した。
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(何だかな~。)
六花は動きだした8人を見ながら思案をしていた。
どう考えても、力を使いこなせば一国ぐらい落とせる気がするのだ。
紅葉は言うに及ばず。
名取は光と雷系の魔法すべて、
神戸は風と雷系の強化系の魔法、
宮城は4属の付与魔法
大野は土と火の強化魔法、
大月は風と火の強化魔法
富士は風の強化と付与魔法
日野は風と水の付与と強化魔法
といった具合に能力が定着し始めたからである。
(これは、あの時あの場所に潜在的な勇者と剣聖クラスが集まって
ゲートが開いた感があるな~。
さてっ、とするならば、少し魔法の訓練が必要かな。)
六花は思案し、今後の方針を固める。
まず、自分が紅葉が教えることができなかった魔法の部分を教える。
その後、便利な人形の使い方を教えて、
狩りや国からの依頼を受けてもらう。
物資は向こうを頼りつつ元でとなる資材の確保と商人とのつなぎ。
・・・etc
六花は考えて頭が痛くなり始めた。
一人では厳しい。実体を伴った文字通りのサポータが必要だ。
だが、だれを・・・。
そんなことを頭を抱えて悩んでいると肩をたたかれた。
振り返ると、エルとフレイア、アリエル、マリーが立っていた。
「エンデが帰ってきちゃうし、大変だろうと思って。」
「本当に、自分勝手ですよね。自分ですけど。」
「私はあなたに近いから。向こうにいても暇だし。」
「師匠。いつも一人で抱え込みすぎですよ。
私は姫の従者ですが、師匠の弟子でもあるんです。」
そんな4人の姿を見て、六花は心底安堵の表情を浮かべた。




