帰るもの残るもの
「じゃあ、俺はこれをビエツまで運んで、内情を確認してから、
転移でテンクル王国へと向かう。」
そうデッキで信幸が宣言すると、紅葉は少し悩んでから口を開いた。
「それなら、生徒と私をテンクル王国でおろしてくれない。
この船の説明も必要だろうし。」
「それは・・・。そうだな。わかったその航路をとろう。
じゃあ、」
「私と流はちょっとここにいるわ。」
信幸が船を出そうとすると、六花がそう言ってさえぎった。
「どうしてだ?」
「一緒に帰ろうと思ったんだけど。向こう仕事も溜まっているだろうし。
でも、思い返したら、龍脈の上にいた神の一柱がいなくなったこの土地は
荒れるだろうし、監視もしないとだから。」
「あ、でしたら、私も残ります。」
「そうね。お願いできるセレス。」
六花は残ると言ったセレスにそう返し、踵を返して、タラップを降り始める。
「ああ、そうだ信兄。」
流治がタラップの手前で止まり、振り返り声をかける。
「何だ?」
「できるだけ、この島の土地は不可侵の通達をお願いしつつ、
早めに、秋姉を連れて戻ってくれよ。」
「ああ、そうだな。それは確かに必要かもな。」
「六花は言っていなかったが、
元いた神を土地から離しすぎるとまずいかもしれんからな。」
「わかった。各国への通達と根回しはやっておこう。」
「じゃあ、たのんま。」
そう言うと、流治は手を振って、タラップを降りた。
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信幸は操舵管を握り、右旋回をしながら、社後を一周するように飛行船を飛ばす。
デッキには紅葉と生徒が地上の六花たちに手を振っていた。
それを、六花とセレスは手を振り返し、見送った。
流治は瓦礫に腰かけて、同じよう飛び去るのを見送った。
見送ると六花は流治を振り返り、宣言した。
「さて、頑張ろうか。まずは、隔離と結界の構築かな。」
「だな。やれる範囲でやろうや。頑張りすぎないようにな。」
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「さて、オートクルーズで、テンクル王国に向かっている。
恐らく到着は明日になる。それまでは、ゆっくりしてくれ。」
「寄ってくる魔物はどうします。」
「一応、威嚇射撃を自動でする符を展開しているが、どうしてもというときは、
呼び出すので、集合してくれ。ま、大丈夫だろうけどな。」
大野の懸念に信幸は外を見ながら、答えた。
そこには細かい鳥の魔物が打ち出された金の針のようなものに
ビビッて、離れていくのが見えた。
「そいういえば、来るときに比べて魔物が少ないですね。」
日野が窓に近づいてそうつぶやく。
「恐らくだけど、強力な魔素が魔物を産みだしつつ誘引していたんでしょ。
浄化されたことで、理性が戻って、かつエサを求めて、
周囲に散ったんだと思うわ。」
「とすると、近隣の国が大変では?」
富士が、紅葉の回答に疑問を呈する。
それを、キッチンに向いながら、信幸が答える。
「それは分からん。強いものが弱いものを喰らうことで、
周囲に流れないかもしれないし。海を渡れず、残っているかもしれない。
はたまたどこかに隠れているかもしれない。」
「ああ、なるほど。自ら考えるということですか。」
「まあな。今までは、集団催眠に近いかな。
魔素によって、精霊の思う通りに動き、かつ、魔素が空腹を満たしていた。
まさに、一種の仮想的な家族のような関係を
精霊が魔素を使って作っていたわけだ。
その元凶がいなくなり、かつ濃い魔素もなくなった。
それで、自我のようなものが戻り、各生態に合わせた動作をし始めたわけだ。」
信幸はそう締めくくって、夕飯の炒飯を炒め始めた。




