女神と管理権限と、女教師
「あれはやばい。」
朝食の席で、紅葉は家族に昨日起きた精霊との戦闘を話す。
「ああ。それ、一応システムや関係者には通達してあるから。」
それを美幸からお椀を受け取りながら、
聞いていた流治が無言で、六花を見る。
そして、そのまま、隣に座った美幸を見る。
二人は素知らぬ顔で朝食をとる。
「そう、じゃあ。対処はおねがいしていい?」
そう、空気を読まず紅葉が言うと、箸とお椀を置いてジト目で紅葉を見る。
「あのね。私たちが対処したら、管理権限が委譲されたり、
それこそ、世界を再構成しなくちゃならないでしょうよ。」
そういいながら、流治を見る。
見られた流治は気まずそうに、顔を隠すようにご飯をかきこみ始めた。
言われた紅葉も気まずそうに居住まいを正す。
「他の世界軸の管理、ユグラドシアの運営、やることはたくさんあるのよ。
いくら、ドールや管理端末の神、精霊で自動運営をしているっていっても、
処理や重要な判断をするのは私たりだけなのよ。
流治なんて壊して再生した方が楽だなんて、
短絡的な思考をするようになっちゃうし・・・。」
それを言われた流治は罰が悪そうに顔を伏せた。
それを黙って聞いていた幸代と正幸は流治をジト目で見る。
「あんたは本当にお父さんに似てきたわね。」
「おい。悪いことは全部俺かよ。って、お前らまでそんな目で見るなよ。」
「自分の胸に手を置いて、よく考えろ。」
そう自分の父親にいわれ、正幸は無言でお茶をすする。
「まあ、お父さんは置いといて。世界が増えるのは勘弁なのよ。
秋姉みたいに、根性論でどうにかできることはもうないの。
私もすでに限界なのよ。
今でさえ、精霊、分け御霊、式神、英霊を総動員なのよ。
管理世界が増えるのも、世界を救済することも、ぎりぎりでやっているの。
なんでも間でも安請け合いしないで、
よく考えて提案をしつつ対応してほしいのよ。」
紅葉はそれを聞いて、流治と同じように顔を伏せた。
「信兄さんも監視・相談役として、付いて回っているんだから、
ちゃんと指摘をしてよ。」
「言っていることは分かる。
できる限り、彼女たちと生徒、あの世界の人間にやらせている。
だが、あれは想定外だろ。」
「まぁね。」
六花は横目で流治を見る。
見られた流治はなぜ見られたかわからず、眉間にしわををよせて、
怪訝な顔をするが、自分が精霊の分体を六花とともに消したことを思い出して、
自分の所為で生み出されたことに思い至り、やっちまったという顔で横を向く。
「どうにか。あの世界はあの世界で、解決できるようなアイテムや道具は
作成をするけど、技術革新もお願いしたいかな。
風雨系の災害対策の技術を中心に。」
「王国とビエツ、今回の連邦に依頼すれば開発から流通までどうにかなるが、
時間はないだろう。明日にでも、例の国に行くぞ。
恐らく戦闘は3週間後だろう。」
「私やアリエルが手伝って、ね。」
「ああ。そうだな。だが、急ぐメリットは分かるだろう。」
「ふ~。仕様がない、か。とりあえず、施策はこちらから、ビエツに渡して、
王国と連邦に協力を依頼できるようにするわ。でも、道具がな~。」
「六花姉さま。宝玉の開発は大分できました。
秋さんの事故で解決策のめどが立ったので、
術式と容量に耐えられるものを優先して探して、
ついこの間見つかりました。」
「あと、朗報だ。例の武装が出来上がる。」
美幸の言葉に続けて、六花の肩に手を置いて、エンデが言う。
「そう、なら。やりましょう。世界が終わる前に。」
強い意志を込めた目と言葉で、家族にそう六花は宣言した。




