狂った民
<エリス様。大変申し上げにくいのですが・・・。>
「この森に住む民のことですね?」
首をたれながら、発言をした狼の言葉にかぶせるようにエリスが言う。
その言葉に狼は無言で頷く。
<気づいたときには手遅れでした。
私の力も、世界樹を守ることで精一杯で。
九尾が狂ったことにより、認知が遅れて。
水に少しづつ影響が出る程度に混ぜられて。
世界樹も彼らも。
世界樹はどうにかしましたが、彼らは。>
狼は涙を流しながら、言葉を詰まらせ詰まらせ話す。
信幸は目を瞑り、握った杖を力強く握り、
エリスは両腕をきつく抱きながら、憤る。
生徒たちは呆然とし、紅葉はゴゴゴという音が
背後から聞こえそうな雰囲気を醸し出していた。
そんな中エンデだけは、理性的に、無機質に、どうすれば解決をするのか、
保有戦力の中からいくつかの作戦を考えていた。
(一つ目はウンディーネ。アリエル。美幸を使った浄化。
二つ目は紅葉の聖火による解呪。
三つ目は六花と流治の再誕。
だが、それよりも・・・。)
そこまで考えて、まずいことを一つ思い出す。
この迷いの森の結界は内外の存在を外に出さないようにすること。
そう、あの歪んだ結界はこの地の封印と隔離を意図しないとはいえ、行っていた。
そこまで、考えたエンデは慌てる。
「信幸!紅葉!外に出ようとしているぞ。」
その怒号に二人は反射的に自分のなすべきことを悟り、
各々が動き出す。
紅葉は外縁へと動く集団を察知し、現場へ縮地で向かい、
信幸は杖を地面に突き立て、外界との結界を敷く。
「エンデ、ぎりぎり間に合ったぞ。」
「数人出たけど。内側に投げ入れたわ。」
そう言って紅葉が何でもないように現れるが、
全員が結界をどうやって越えたのか疑問に思ったが口に出さなかった。
この人ならなんとなくで、結界を突破するか、
結界が結実する前に中にどうにか入る気がするからである。
「すまんな。気が付くのが少し遅れた。」
<申し訳ございません。私も失念しました。
結界の展開ありがとうございます。
厚かましいお願いですが、浄化の方も・・・。>
「ああ、考えている。準備と人員の補充が必要になるから、
しばらく滞在をしたいが良いか?」
<ええ、構いません。よろしくお願いいたします。>
エンデが滞在の許可を求めると、狼は頭を下げた。
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「で、どうするの?エンデ。」
「紅葉の力は使えないし、セレスでは力が大きすぎて、
不都合が出る可能性もある。そこで、六花とウンディーネ、アリエルによる、
水質改善で対応する。が、六花があと少しは来れないので、
それ待ちかな。それまでは、信幸と俺で、隔離と収集、若干の浄化を行うとする。」
「了解だ。木を癒しつつ、吸い上げさせればいいんだな。」
「トレント化したら、生徒の糧になってもらおう。」
「なるほど。なるほど。」
うんうんと、頷く信幸の後ろで、生徒たちは青い顔をして立ち尽くしていた。




