第9羽
ある日のお昼休み、私はいつものように笹本さん、朝霞さんと3人でお昼を食べていた。
「なぁ加藤、今日帰りどっか寄ってこーぜ」
「あ、今日は無理、予定あるから」
「あ、そう……」
これもいつもの光景、クラスで一番可愛いと言われる加藤愛里さんに言い寄る、なにかと目立ちたがる木村くん。 下の名前は知らない。
はっきり言ってどうでもいいんだけど。 これが、どうでもよくない事態になりつつあるの、私にとって……!
「てか予定ってな……おい、加藤?」
話しかける木村くんを置き去りに加藤さんは立ち上がり、向かった先は………。
「あっ、灰垣くん、今日はお弁当唐揚げだっ」
「えっ、うん、昨日の晩に作りすぎちゃって」
女子ナンバーワンの愛里氏、男友達とお弁当を食べる空くんの元へ……。
加藤さん、最近なにかと空くんに近づいて来るんだよね……。 はっきり言って………
―――やだ。 空くんに近づかないでっ!
加藤さんには男子なんていくらでもいるでしょう?! なんでよりによって空くんにちょっかい出すのっ……!
うぅぅ、勝てる要素が無いだけに、気持ちが焦る………。
「どうしたの真尋、全然食べてないけど」
箸の進まない私を気にかけて話しかけてくれる、 “名探偵” こと笹本良子ちゃん。
「ちょっと、食欲が……」
「ああ、ああ、真尋のかわい子ちゃんが、小悪魔に誘惑されてるよ」
「そ、そういう言い方やめよう可奈っ」
追い討ちのように私の心を乱すのは、バレー部の元気少女朝霞可奈氏。
仲良しの私達は、もうお互い名前で呼び合うようになった。 それと比例して、遠慮のない言葉が飛んでくることもあるんだけど……。
「やめようって、真尋のってやつ? 誘惑の方?」
「ど、どっちも!」
実際は誘惑の方だけど……。 大体空くんだってお友達と一緒なのに、なんで加藤さんはあんなズカズカ入っていけるかなぁ? ………自信、ですか。 可愛い自分が来て嫌な訳がないと……。
下品じゃない程度の明るい髪、それを男性受けしそうにふんわりと巻いている。 可愛いし、ああやって明るく話しかけてくるから、男子は勝手に勘違いして好きになっていくのね……。
――お願い、逃げて空くん。
きっと彼女は “小悪魔” だよ、天使と悪魔は相性悪いって!……なんて、よく彼女を知らないで悪く言う私の方が性格悪いか………。
「どうでもいいけど、見てよ木村くんのあの顔」
「えっ?」
良子の視線を追って見てみると、置き去りにされた木村くんは他の男子と合流して、なんか悪意のある目で誰かを見ていた。
「ありゃ完全に灰垣くんに逆恨みしてるね」
「ええっ!?」
今度は呆れた顔で首を横に振る可奈が、また私が心配になる事を言い出す。 そんな私の気も知らず―――
「唐揚げ1個ちょーだいっ」
「え、うん。 いいよ?」
……人が心配してるのにイチャイチャと………この堕天使め……!
――ち、違う! 空くんは優しいから、だから相手してあげてるだけ、それだけだよね、きっと………。
ゴメンね、やきもち焼いて悪く言っちゃうなんて。
だけど……嫌なんだもん。
◆
その日の放課後、焦りを感じていた私は初めて自分から空くんを誘ってみた。
「あの、空くん。 今日一緒に帰らない?」
聞きたい事があります。 というか、探りたい事か。
「ごめん、今日はちょっと予定があるんだ」
「……そう、わかった」
――振られました。
勇気を出して誘ったのに……。 仕方ないか、予定があるんじゃ。
落ち込む私を置いて、「じゃあ、また明日ね」と爽やかな笑顔で帰って行く空くん。
予定がある、か……。
なんかそれ、今日聞いたような………―――はっ! ま、まさか予定って、か、加藤さんとっ!?
……そ、そんな訳ないよね、はは、はははっ………。
心の中で乾いた笑いを響かせていると、空くんを見つめる……ううん、睨みつけている女子が……。
あの子、前に私がぶつかっちゃって睨まれた、小柄だけど怖い、確か……別府海弥さん。
なんで、空くんをあんなに睨むんだろう……。
相変わらず鋭い眼光、そして、加藤さんと違ってあの髪の明るさは……下品、というか……不良?
なんで別府さんが空くんを睨むのかも気になるけど、それよりやっぱり加藤さんが気になる……。
二人で会ってたらどうしよう。
それは辛過ぎる………。
前に空くんは私に “可愛い” って言ってくれたけど、私で可愛いなら、加藤さんなら “超可愛い” ?
――うっ……! む、胸が痛い………。
よく考えたら、空くんて女の子なら誰でも可愛いって言いそう………ああ、誰か、私に希望をください。
はぁぁぁ……今日は、全然良いトコ無しですぅ………。