愛と懺悔
久し振りの投稿ですが、今回常盤くんのお話なので、お嫌いな方は避けて頂くようにお願いします………。
――ある日の休み時間。
空の席に愛里と光昭が集まり、隣には当然真尋が座っている。 そして、女子二人が同時に――
「「空くん、週末空いてる?」」
重なり合った誘いの後、視線の火花を散らす真尋と愛里。
「土曜は用事があるけど、日曜日なら……」
その返事を聞き、今度は先手を取った愛里が顔を突き出して話し出す。
「じゃあさっ、もうすぐ夏休みだしぃ、新しい水着買いたいから付き合ってよ〜、もちろん空くんに見てもらう為にねっ♡」
「い、いちいちいかがわしいのよ加藤さんはっ……! 良くないよ、空くん。 小悪魔の誘いに乗るなんて」
「買い物のどこがいけないのよっ!」
「下心が直すぎるのっ!」
愛里に大分言いたい事が言えるようになった真尋。 これが成長と言えるかは微妙だが。
「それより行ってみたいお店があってね、おいしい洋食屋さんらしいんだけど……あのね、もっとお料理上手になって、今度空くんにお弁当を――」
「はぁ!? お弁当なんて彼女でもないのにあつかましいっ、大体空くんの方が料理上手なんだからっ!」
「だ、だから勉強しようと……」
熾烈な争奪戦が繰り広げられる中、光昭はその光景を呆れた顔で傍観していた。 その時、
「なぁ灰垣、週末暇か!? 暇だよなっ!?」
割って入って来たのは保健の先生、朋世にご執心のやんちゃな少年。
「こっち来ないでよ木村!」
「なっ、なんでだよっ」
「キム、ハウス」
「キムって言うなっ!」
これ以上邪魔者を増やしたくない二人は、キムこと木村良平の参戦を阻もうと結託する。
「頼むよ灰垣ぃ、ある人がお前と一緒ならデートしてくれるって言ってんだ。 クラスメイトを助けると思ってさぁ」
「行くわけないでしょ! ネタは割れてんのよあのショタコン保健医っ!」
「キムお願い消えて」
「なんか水崎覚醒してねぇか!?」
混沌とした現場は、其々の主張がぶつかり合い収まる気配が無い。 真尋と愛里は恋敵に引こうとせず、良平は空を出しに朋世に近付こうと必死だ。
「何やってんだあいつら……」
遠くから冷えた視線を送る海弥。 騒がしいライバル達の奥、困った顔をしている空を見ると、
( ほんと、父親にそっくりだな…… )
偶然出会った父直人と見比べ、お互い見た目は完全に父親に偏ったな、と思いに耽っていると、その視線が交わり、空が救いを求めるような目を向けてくる。
「し、知るか……! 自分で何とかしろっ……!」
嫉妬混じりに顔を背け、素直になれずに見殺しにしてしまう海弥だった。
一方現場では、収拾のつかない状況に良平が声を上げる。
「これじゃラチがあかねぇ! 公平に日曜の権利を賭けて勝負しようぜ!」
「キムが来たからもっとややこしくなったんでしょ!」
「公平なんて言葉あんたから聞きたくなかったわよ」
勝手に仕切るなと不満をぶつけてくる二人を振り切り、良平は提案を続けた。
「どれだけ灰垣を必要としてるか、その想いが強いヤツが勝つ方法があるっ!」
「そ、そんな……恥ずかしいこと言わないで……」
「水崎さん、急に清純気取らないでくれる?」
突然恥じらう乙女を演じる真尋に白けた目を向けた後、愛里は闘志を秘めた目で良平を睨み、
「いいわ、何であれ受けて立ってやろーじゃない。 大事な彼氏を守る為だしねっ」
「彼氏じゃないでしょっ!」
「よし、じゃあ放課後、付き合ってもらうぜ」
かくして、本人度外視の権利争奪戦が決まった。
そして、内容も聞かずに勝負を受けた二人がやって来たのは―――
「ここは学校帰り俺がよく来るラーメン屋、『イーグルフライフリー』だ」
「……およそラーメン屋とは思えない名前ね」
中華という概念の無い店名に呆れる愛里。
「まさにその名の通り、辛さの象徴である鷹の爪を自由自在に使った激辛ラーメン屋だ。 飛ぶぜ」
看板を見つめ、したり顔で語る良平に真尋が口を開く。
「キム、イーグルは鷲。 鷹はホークだよ」
「………」
「ま、木村らしいけどね」
英語力の低さを露呈した良平は、「い、いくぞっ」と恥を隠しながら店内に入って行った。
「コイツだ……」
運ばれてきたのは、どんぶり一面を赤に染めたラーメンらしき物体。 鼻腔に届く刺激的な匂いが、その辛さを想像させる。
「まだ俺も挑戦したことがない、この店最強の激辛ラーメン『火口』………コイツを先に食いきったヤツが勝者だっ!」
どうやら勝負の内容は早食いらしい。
しかし、このラーメンを食べ切ること自体が困難なのは明白。
果たして、女性である二人に勝機はあるのか。
「………で、―――何で俺がっ!?」
「当たり前でしょ? 私達は女の子なんだから」
「頑張って常盤くんっ!」
何故か連れて来られていた光昭は、こういった事態に捨て駒として使われる為だった事を理解した。
「俺は別にいいけどよ、常盤じゃ楽勝だぜ?」
体格的に有利な良平は異存なしのようだが、分が悪い筈の愛里も何故か余裕の表情を浮かべている。
「負ける訳ないよねぇ、辛いのは得意でしょ?」
「ぐっ……!」
過去の悪行をチラつかせる愛里。
「そうなんだ。 じゃあキムなんかに負けないよねっ」
その被害者の一人である真尋は、何も知らずに光昭を応援している。
( こんなの食べたら痔になってしまう……! でもこれは、少しでも罪を償うチャンスだ…… )
食べる前から汗を滲ませ、『火口』を覗き込む光昭。
「………木村くん、負けないよ」
「おもしれぇ、かかって来いよ常盤」
決心を固めた光昭が箸を取り、良平もそれに続く。
( 先生……いや朋世さん! この勝利を、愛するあなたに捧げます…… )
( 負けられないんだ……―――俺はっ! )
ラーメン屋のテーブル席で、今愛と懺悔の対決が始まろうとしている。
「じゃあいくよ〜………はいっ、始め!」
「「いただきます!」」
愛里の掛け声で、二人の男は火口へと飛び込んだ。
箸で中の具と麺を掴み持ち上げると、滴るスープが溶岩のように感じる。 それを同時に口に運んだ二人は―――
「「――ブッ!!」」
お約束のリアクションを披露してくれる。
「きちゃないわね〜」
「と、常盤くん……!」
それでも挑戦者達は、懸命に『火口』へと挑んで箸を動かす。
( ここまでとは……今まで食ってたのがおしるこに感じるぜ…… )
( 啜ったらダメだ、咳き込む……これはそういう食べ物じゃない……! )
食べ始めてから十分程が経ち、二人の半袖のワイシャツは汗で身体に貼り付いている。
( 常盤の野郎、結構根性あるじゃねぇか……だが、俺の方がリードしてるぜ )
普段からこの店に免疫がある良平がやはり優勢。 光昭も必死に食らいついてはいるが、その差は徐々に開いていく。
その時―――
「だらしないわね〜、空くんは咳き込みもしなかったわよ」
「――っ!!」
愛里の言った言葉に反応する光昭。
「えっ? 空くんこれ食べたことあるの?」
事情を知らない真尋は理解していないが、誰よりもそれを理解出来るのは光昭だ。
( そうだ、灰垣くんはアレを咳き込みもせず完食した……。 俺は、負けられない……―――負ける資格がないっ!! )
猛然と溶岩を食らい出す光昭。 細い目を血走らせ、決死のスパートをかける。
「なっ! こ、こいふ……!」
最早辛味で腫れ上がった唇の良平は焦り、負けじと勢いを増してラーメンを掻き込み出した。
そして、決着の時―――
「ほ、ほちそうさまれした……っ!」
大雨に打たれたような少年は、涙目で勝利の勝ち名乗りを上げる。
その勝者は―――
「すごいっ! やったね常盤くんっ!」
「ひょ、ひょんな……俺のおもひが負けるなんふぇ……」
今回は懺悔が愛を上回り、良平はガックリと肩を落とした。
真尋は汗だくの光昭にハンカチを差し出すが、
「平気ら、俺にひょんな資格ないろ……」
「??」
それを受け取らず、光昭はテーブルに置かれた紙ナプキンに手を伸ばし、過酷な戦いで流れた血の汗を拭った。
「糸目、ちょっとは根性あるじゃない。 でも、まだまだ許さないからね」
「………わはっへるよ……」
日曜日の権利を獲得した光昭が出した提案は、買い物に行って食事をするという、真尋と愛里、両方の願いを叶えるものだった。
だが当日、体調を崩した光昭は参加せず、自宅のトイレで週末を過ごしたらしい―――。
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