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~第二の錦織圭たちに贈る言葉(27)~ 『戦略・戦術が心・技・体を活性化させる』

作者: 目賀見勝利

           〜第二の錦織圭たちに贈る言葉(27)〜

           『戦略・戦術が心・技・体を活性化させる』


1. まえがき;

2019年6月2日全仏オープンの3回戦で大坂なおみ選手はカタリナ・シニアコバ選手に4−6、2−6で惨敗した。心・技・体の力量では世界でトップレベルにある大坂選手は何故に世界ランク42位のシニアコバ選手に敗れたのか。第2セットの最終ゲームでは『底を抜かれた』状態にあり戦闘意欲がなくなり、『どのようなプレーをすれば善いのかが判らない』と云う表情で立っていた。解説者の杉山愛氏は「大坂選手の足が動いていない。」と解説していた。『足を動かす』とは、相手選手が打球するまでの間に『小刻みに両足でステップを踏む』動作を云う。これは、相手選手の打球のリズムに自分のリズムを合わせ込むために必要な動作である。

第一セットのシニアコバ選手は打球を左右に振り分けて大坂選手を走らせていたが、第二セットの後半では大坂選手コートのベースライン中央付近に返球を集中させていた。これは、大坂選手の足が動いていない事を見てとったからと思われる。大坂選手を走らせると足が動き出すのを心配したのであろう。大坂選手はべた足で立って待球し、2、3歩動く程度でリズムに合わない強打のストローク返球して、凡ミスを繰り返していた。シニアコバ選手から帰ってきた打球にリズムが合わないため、大坂選手の強打はネットやバックアウトを繰り返していたのである。この試合での凡ミスの数は38で、シニアコバ選手の13の3倍であった。この試合でも緊張していたと大坂選手は述べていたが、私に言わせれば「それは違う」である。1回戦は世界ナンバ1の重圧による緊張で苦戦したが、2回戦以降はその緊張ではなく、調子が上がらないので不安が横切っていたのである。不安からくる緊張である。

大坂選手は何故にこのような事になったのであろうか?

2019年1月の全豪オープンで優勝した後、それまでのコーチであったサーシャ・バインコーチを大坂選手は「嫌い」と言って解任した。また、「テニスを楽しみたい。」とも付け加えていた。バインコーチの指導ではテニスが楽しめない、と云う事であった。これを聞いた私は、

「これ以後、大坂選手は3回戦か4回戦で敗れるだろう。」と直感した。

私は、何故にこのような直感をしたのかが判らなかったので、今までに仕入れた知識を駆使してこの直感を考え直して判断することにした。


まず、サーシャ・バインコーチの略歴を確認しておく。

1984年10月4日生(天秤座)。ミュンヘン郊外で生まれ育ったセルビア系ドイツ人。本名:アレキサンダー・バイン。ミュンヘンのテニスクラブでプレーしていた。米国フロリダ州のパームビーチ州立大学卒業。1990年代後半はプロテニス選手(シングルスランキングは1165位が最高)兼コーチとして活動。他者からのアドバイスを受け、2007年から2015年の8年間、セリーナ・ウィリアムス選手の打撃コーチであった。2016年からビクトリア・アザレンカ選手、2017年から2018年まではキャロライン・ウォズニアッキ選手のトレーニングパートナー。2018年1月から2019年1月まで大坂なおみ選手のメインコーチ。

ここで注目すべきは、ドイツ人であることと、20歳ころからテニスコーチの経験があることである。

ドイツには『孫子の兵法』と並ぶ『クラウゼウィッツ兵法』があり、戦略・戦術を重視する文化圏である。

(クラウゼウィッツは1700年代の西欧プロイセン国(現在のドイツ北部)の参謀。プロイセンがナポレオンに敗れた理由を分析し、それを兵法書にまとめた。)

バイン氏は大学時代から選手兼コーチをしていたことから戦略戦術に関する勉強をしていたと思われる。『クラウゼウィッツ兵法』・『孫子の兵法』・『五輪書』に精通していたであろうことは容易に推測できる。また、大坂なおみ選手との会話映像やコーチ番組での対話の仕方からインテリジェンスを感じさせる人物である。インテリジェンスとは対象の断片的な情報から対象の全体像を描き出せる能力を謂う。イギリス秘密情報機関の名称(MI6;ミリタリ・インテリジェンスNO.6)にも使われている。対戦相手の情報からその人物の本質をつかみ、対戦前に大坂選手に適正な戦略戦術を踏まえた指示を与えたものと思われる。

現在の新しいコーチの指導法や大坂選手の試合を見ていると、技術・体幹に関するトレーニング指導は出来ているが、戦略戦術が何なのかが良く判らない。

また、『孫子の兵法』によると、勝利するには『戦力ではなく、勢いがあること』が必須である。テニスで戦力に相当する事柄は「心・技・体の力量」である。

戦力をどの場所に(戦略)どのように投入するか(戦術)を正しく決めなければ勝利はない。

贈る言葉(9)で述べたように『勢い』は心→技→体→心→技→体と支え合う心技体が上昇繰返し(上昇スパイラル)にある状態のことである。

この上昇スパイラル状態になるためには適正な戦略と戦術で相手選手を攻撃し、成功する必要がある。そのために「攻撃的忍耐」が出来なければならない。

戦略・戦術が適正でない大坂選手は、1回戦、2回戦と勝ち上がってきて『勢い』が身についているシニアコバ選手の「攻撃的忍耐」に大坂選手の心・技・体が抑え込まれ、下降スパイラルに入り『底を抜かれて』しまった訳である。


2. 贈る言葉;

対戦相手の『勢い』を止めるには「守備的忍耐」が必要である。

「守備的忍耐」とは、とにかく相手コートに返球することである。1球でも自分より多く相手に打たせることを思い描きながら、気力を込めてのストローク返球を繰り返すことが重要である。そして、リズムがこちらの返球に合わなくなってきた相手選手の返球ミスを捉えて攻撃するのである。そのためには試合前に、相手選手の心技体の事前分析が適正に行われ、正しい戦略と戦術を試合前に確認しておかねばならない。

戦略・戦術が相手の『心・技・体の勢い』を奪い、自分の『心・技・体』に『勢い』をもたらしてくれるのである。

因みに、私の直感は、1回戦、2回戦、3回戦を勝ち上がって来たランキングの低い選手がトップ10の選手を打ち負かす場面をたびたび観てきた(ATPツアー大会のTV観戦であるが)ことが頭脳(大脳皮質)の記憶回路にあったことによる、と私は判断した。直感とは、大脳記憶回路ブラックボックスにインプット(問題情報)が入り、論理思考をせずにアウトプット(結論)することである。大脳記憶回路が正しい経験に基づいて構築されていれば、そこには正しいアウトプットが生じる。私の記憶回路が正しく構築されていることを信じて・・・・?


3. あとがき;

 クラウゼウィッツの主張を要約すれば、『汗を流すことをいとう者は、それをいとわぬ者によって、必ず征服される。』(大橋武夫氏の下記参考文献のまえがき)である。


大坂選手は此の様にも述べていた。「(私は)成功よりも幸福を選ぶ。」

小さな成功が幸福に導き、大きな成功が不幸をもたらす場合もある。

大橋氏の言葉を私流に言い換えると『忍耐をいとう者は、忍耐をいとわぬ者に敗れ、飲み込まれる。』

「考え方が変われば結果が変わる。」である。

大坂選手には7月のウィンブルドンで優勝して欲しいものである。

  

  

          『諸君の健闘を祈る』

        目賀見勝利より第二の錦織圭たちへ

           2019年6月5日

         

参考文献;

クラウゼウィッツ兵法  大橋武夫 著  マネジメント社  昭和55年4月発行


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