039、炭川女史はモンスターが狩りたいという
「あれ?」
「わたしは冒険者ではない」
木片を手に首をかしげる炭川に、ライカはさめた目で言った。
「ところで? モンスターを狩れる場所を探してるとのことだが?」
「ああー、そうそう! 紹介してくれます?」
「言ってもいいが、条件がある」
と、そこでライカは一枚の紙を突き出した。
それは、以前Kに見せた誓約書と同じようなもので……。
「わたしのダンジョンについて決して他言しないという誓約書だ。書けば紹介する」
「書きます、書きます」
見るからに胡散臭い誓約書に対して、炭川は二つ返事でうなずく。
「お前なあ……もうちょっと考えるとこだぞ、ふつー」
「だって先輩の彼女さんでしょ? 大丈夫ですってー」
実に軽い口調で言う炭川だったが、血判のために手を切られると、
「いって……。もうちょっと浅く切ってくれてもいいのに……」
特に悲鳴もあげず、割と平然としていたのだった。
「お前、よく平気だなあ?」
「だってモンスター退治なんて多少の怪我は当たり前ですもん」
「けど、大怪我だってありうるだろ」
「その時のために、ポーションとかを用意してますって。他にも回復アイテムとかあったら、優先的にゲット、保管してまーす」
と、炭川は自慢げに言うのだった。
「それって効くのか?」
「もちろんですよー! つうか、ダンジョン外でもあちこちで買い手がいるらしいですよ」
「そのポーションというのはこれか?」
と、ライカは少し呆れた顔で水色の小瓶を見せてきた。
「あ。それです、それ! やっぱ持ってますねー!」
「これは効果も弱いし、価値も低い。使うのは低レベルな冒険者だけだぞ」
「あたしは、まさにその低レベルの冒険者なんです」
「なるほど、道理だ。じゃ、これはくれてやる。サービスだ」
ライカはポンとポーションを炭川に投げ渡すのだった。
「いいのか?」
「あれを使うのなら、回復魔法を使ったほうが効率的です」
「はー、やっぱ魔法とか使えるんだー。いいなー」
炭川はのんきに感心している。図太い女だ。
「じゃ、誓約書も書いたし教えてくれますよね?」
「ああ、ここに『ある』」
ライカが床を指で叩くと、ゆっくりとダンジョンのゲートがせり出してくる。
相変わらずスペース取るなあ……。
「ええ!?」
これにはさすがの炭川も驚き、絶句し、何度もゲートとライカを見る。
「ひょっとしてダンジョンマスターさん……?」
「そんなことはどうでもいい。教えてやったぞ、満足か?」
「……あの、中でモンスター退治とかしたいんですけど」
「その格好で?」
「あ……! そっか。すぐ出直してきまーす!!」
言うなり、炭川は部屋から飛び出してくる。
その後――
「用意してきましたーーー!!」
バットやら防具やらを持って、再び部屋に上がり込んできたのだった。
実に疲れる……。やれやれ……。




