038、『ビギナー』を脱出したい女
「手を貸してほしいんですわ」
関西の旅行から帰って早々――
俺は後輩の女子からおかしな助成を乞われたのだった。
彼女の名は、炭川。やはり売れない漫画家だ。
正直絵は俺より下手だが、ネームは良いと評判である。
そんな彼女が俺に何を頼みに来たのかというと……。
「いやあ、最近あたし冒険者始めたんですけどね?」
ということだった。
「近頃はライバルつうか同業者も増えて、ダンジョンが混むようになってきたンすよ」
「ふーむ。確かにダンジョンの話がどこでも聞くけどな」
「ええ、特にビギナーばっかり増えてて。まあ、あたしもまだビギナーなんだけど。早いとこ正式ジョブになりたいんだけど、最近はスライム狩るのにも競争で……」
「正式ジョブ? 何、それ」
「え。知らないンすか? まいったなー、もう」
と、炭川は明らかに馬鹿にした顔つきになる。
「つーか、先輩の彼女絶対ダンジョン関係者っしょ。見た目、それ系だもん、もろ」
「ノーコメントだ」
俺は回答を拒否して、ライカの出したお茶を飲む。うまい。
「で、正式ジョブって?」
「最初冒険者はみんな『ビギナー』っていう固定の初期ジョブから始めるんですわ。でね? レベル10に達すると、資質に合わせて正式ジョブになれるんです」
「ふーん。まさにRPGだなあ。で、お前はまだ?」
「ええ、残念ながらビギナーです。今レベル9」
「で、その正式になると何があるわけ?」
「基本、『ファイター』、『レンジャー』、『ヒーラー』、『メイジ』のどれかに」
「ふむ。ファイターは前衛職だな」
「ええ、で。レンジャーは弓とかが得意で器用。ヒーラーは回復。メイジは攻撃魔法」
「わかりやすい」
「あたしはさしずめ、レンジャーかメイジっすね。きっと」
「つうか、スライムが狩れないならもっと上のモンスターを狩ればいいじゃない」
「あんたは、マリー・アントワネットか」
と、炭川は俺に軽くチョップ。
「つうか、そのことで頼みに来たんですよー。先輩の彼女さんに、どっかすいてダンジョンがあったら紹介してほしくって」
「お前なー……」
「じゃなかったら、一緒にモンスター狩りしてくださいよ。彼女絶対強いっしょ」
俺じゃなくって、ライカ頼みかよ。
ま、賢い判断ではあるのだけど、あんまり気持ちはせんな……。
俺が返事をしないでいると、炭川はスマホのようなものを出してきた。
いや、スマホではない。どうも木製の板らしいが。
「あ」
ライカはそれを見て、小さく声を上げる。
そして炭川が木片を俺に向けて何かすると、
「レベル9。ビギナー……って、やっぱ先輩もやってんじゃないすか!」
と、炭川は鼻の穴を膨らませて言うのだった。
「はあ?」
見ると、俺の頭上に四角い画面の映像が浮かんでいる。
「それ、スターテス見る道具とかか?」
「まさにそうです。冒険者以外は効果ないですけどー」
と、炭川は次にライカへ木片を向けた。
しかし、効果はないようだ。




