030、血判で金を貸す褐色エルフ。いいのかな?
この程度の金は、ライカにとっては小遣い程度なのだろう。
俺はもう慣れているが、Kはそうではない。
「でも、あの、こんな大金……」
「冒険者をやるなら武器防具がいる。どっちにしろ、金は要るぞ?」
「は、はあ……」
納得したようなKだが、それでも金には手を出さない。
「ただ受け取るのが嫌なら、証文を書いておくかな?」
ライカは何か薄く笑って、一枚の紙を広げる。
「なんじゃ、こりゃ」
俺は思わず言った。
それには、何か石塔や塔婆みたいな文字がずらりと並んでいる。
エルフの文字なのだろうか? まったく読めん。
「あの、これ……」
「何、おまじないのようなものだ……。これに血判しろ。それで金を貸す」
「…………」
Kはもう完全にドン引きしている。今にも逃げ帰りそうだった。
「でも、あの、ライカさんってやっぱりあっち関係の……」
「金が要るのか、要らないのか」
グズグズしているKに、ライカは冷たく言った。
「ひぃ。い、いりますぅ……!」
Kは腰を抜かしそうになりながら、ブルブルと紙を見つめる。
確かに、これではまるで悪魔との契約だ。
躊躇するのも当然だろう。
「あの、これどういう内容なの? 変なものじゃなかろーね?」
俺が尋ねると、
「なに、ある時払いの催促なし。利息無し。ある時に少しづつ返せというものです」
なるほど。確かに良心的。親切な内容だ。
まあ、多分嘘ではないだろう。
ライカにとって金……日本円はさほど意味を持たないようだし。
「では、サインを。拇印でよい」
「は、はい……。ひ……!」
震えて手を差し出すKが悲鳴を上げた。
手の平にうっすら血がにじんでいる。
「血判だと言ったろう?」
かくして、サインがなされ、
「では、持っていきなさい」
ライカは金をKのポケットにねじ込んだ。
「ちなみにいくら貸したの?」
「ちょうど100万ですね」
「ああー……」
「す、すみません! すみません……!」
Kは何故か俺に土下座するように謝る。
「まあ、とにかく親御さんに顔見せてきなよ?」
「はい……」
いつしか、Kは泣いていた。
それは感謝というより、ライカを怖がっているように思える。
「ところでタケオさん、近々旅に出ませんか?」
「たび。旅行?」
「ええ、西のほうなどいかがでしょう。いわゆる関西ですか」
関西と言えば、Kの実家がある。まあ、関西と言っても広いんだけど……。
俺はライカの発言意図が読めず、首をかしげるばかりだった。




