8話・ナイトプール
誠区の隣の区にある、流行りのナイトプールであるアズーリナイトプールに行く日の夕方に、俺と勇のグレイペア。そして唯と東堂さんは集まっていた。今回の誘いは東堂さんからの誘いだ。だけど、唯が来る以上は東堂さんに何かしないよう見張る必要もある。そして、それは一人じゃ無い方がいいとして勇の奴を呼んだんだが……。
(電車の中からそうだが、勇の奴はさっきからスマホばかり見てるな。もう少し会話に加わってくれないと困るぞ)
などと思っていると、それを察したようにニコニコと話し出す。
「今日はグレイの二人を誘ってくれて感謝するよ東堂さんに、西村さん。まさか、東堂さんの誘いとは思わなかったよ。それに、西村さんと仲良く出来るのは僕も嬉しいよ。しかも総司の昔の友達なら、色々と知りたいよ。ねぇ総司?」
「出会い頭に言った事は二度言わなくていい。ナイトプールは魔の領域だ。警戒してけよ勇」
「あれ? 私と西村さんは警戒しなくていいの?」
「東堂さん達は普通にしてていい。俺達は二人を狙って来る奴等からの警戒が必要だから警戒するだけだ」
「東堂さんと私が狙われてても、別にいいじゃない。ナンパも色恋もあるのがナイトプール。グレイの総司じゃわからないかな?」
「なら唯は誘われても、自分でどうにかしろよ。シツコイ相手でもな。俺は知らんぞ」
『冷たいね総司ぃ』
同じタイミングで勇と唯は言いやがる。二人の指差しポーズもウザい。すると、東堂さんはクスクスと笑いつつ言う。
「総司と勇君揃うと、かなり優越感あるよね」
「確かにね。私達は他の女からかなり嫉妬されちゃうね。だから守ってね。そ・う・じ・く・ん☆」
「あぁ、出来る範囲でな」
東堂さんは特に戸惑ってもおらず、何かあったらよろしくと俺と勇に言う。未成年だし、色々と気を付けないといけない事はあるな。
(唯は変な男が来ても大丈夫だろう。東堂さんは少し見てないとダメだな。平然としてるけど、甘い物で釣られたらアウトだ)
その東堂さんは、冷静に青い瞳を輝かせて言った。
「石田君と西村さんの前だと赤井君はいつもと違うね」
「そうか? それより早く中に入って着替えよう。ここで長話してても仕方ない」
そうして、俺達はアズーリナイトプールの中に入った。中に入ると、それは俺にとっての地獄だった。
※
俺のナイトプールが嫌いな理由はこうだ。
基本的に泳がないのがまず、無理。
インスタなどのSNS映えを求め、出会いを求める男女のナンパ施設だろう。ナイトプールには自分に自信があって、誰かに構って欲しい人間しか来ない。
夜の海の雰囲気の良さに目をつけたのは良いが、ここは穏やかさは無い。皆、落ち着きのない肉食獣だ。
「……だよな勇?」
「どうした総司? 僕は緊急事態になった。僕のお客さん誘ったらみんな来たよ……どうしよう? お店の人に怒られるかも」
「自業自得だ。とりあえずお前は自分の客を相手しろ。俺は……唯と、東堂さんの相手をする」
「自業自得だから?」
軽く拳を腹に叩き込んだ。そしてとっとと水着に着替えろと言い、俺達は男子更衣室から出る。待ち合わせ場所で着替え中の二人を待った。
「総司、やっぱり僕はここで抜けるよ。後でまた合流する。僕の客は酒飲みだから、高校生達とは絡めないよ」
「俺も直前で誘ったから仕方ない。後で少し合流してくれればいいさ。ただし、ここで酒は飲むなよ?」
「わかってるよ総司。じゃ、二人によろしく」
流石に勇の客達と遊ぶと確実に酒を飲む事になるから、抜けられそうな時だけ俺達の方に来ると言われ別れた。そして、本日のお姫様二人が現れた。
(この女達を俺一人で相手するのは厳しそうだな……)
このナイトプールで最強の二人の女を見る。
東堂さんの水着は上下白のビキニタイプ。マコトプールで着てるスクール水着じゃない。このナイトプールの為に着てる水着で、気品と清楚さを感じる。普段とのギャップもあり好印象だ。
唯の水着は赤い花柄のワンピースタイプ。攻撃的ながらも、優しい美しさを感じる水着だった。
(やっぱり唯は赤を着たか。中学時代から水着は赤を好んでいた。俺の赤井の赤を……)
そして、俺達は歩き出す。
『……』
周囲の人間達も見とれているが、声はかけて来ない。格の違いをわかってるんだろう。それか、勇が彼等には手を出さないでと伝えているかだ。それを知ってか知らずか唯は話す。
「石田君は優しいし、気が効くしモテるからね。ここにいるなら、また会えるだろうから今は総司で我慢しようね東堂さん」
「うん。グレイでも石田君はモテるから仕方ないよ。赤井君がいてくれるだけで満足だよ」
「俺は勇のようにチョロチョロしないから安心しろ。俺は勇よりいい女を連れている以上、コッチの方が当たりだ」
すると、キョロキョロとする東堂さんは青い目を輝かせて言う。
「でもナイトプールの雰囲気は良いね。ドロドロしたイメージがあったけど、それは勝手なイメージだった。景色だけ見てると落ち着いているし、ナイトプールは好きかも」
「そもそも夜の海って穏やかだし、その静かでゆったりした空間でちょっと真面目な事を話したり、少しバカな事をした過去を話したりするからいいんだろ。その雰囲気を取り入れてるのは評価出来る。ナンパとかの話ばかりのイメージは消えないがな」
「じゃあ、東堂さんも知らない総司の中学生時代の話する?」
「おい、唯。昔より今の話をしろ。そして、東堂さん青眼禁止」
とりあえず、東堂さんお得意の青眼が輝いてたから手で塞いだ。
「少し水の中に入らないか? 話すなら水の中の方が人が少なくていいだろ」
少し混んで来たから場所を移動した。上手く中学生時代の会話を終わらせる為でもあった。目的地は流れるプールだ。会話しつつ、動いている方が楽しいはず。会話だけだと、話が俺の過去に向かいそうだから丁度いい。すると、唯が一人の女を指差した。
「ねぇ、総司。アレ何?」
「何だアレは……」
何故かビート板を持っている女が凄いスピードで泳いでいた。何てナイトプールでマジ泳ぎ? と周囲から引かれている。ニコッとした東堂さんは青い目を輝かせた。
「調査してみようかな」
水の中に入り東堂さんはスイスイと泳いで、コッチに向かって来るビート板女を待ち構えた。嫌な予感がするので俺も追う羽目になる。
「東堂さん、よくわかない人には関わり合わない方が――」
「じゃあ、総司が倒して来てよ」
「え? うわっ!」
よく聞こえなかったが背後からおそらく唯に押された。そして、東堂さんと進んで来るビート板女の真ん中に躍り出てしまう。そのまま俺は二人と激突した。
(……痛っ。押されたから激突しちまったよ。ったくよ!)
何かにつかまって水の中から顔を出し、東堂さんと目が合った。この水中につかまる場所は無い。今の弾力性から言って俺が触れたモノは……。
(マズい……今の巨乳感は東堂さんだ。東堂さんの乳を揉んでしまった……)
唯の野郎……と振り返ると、何故か唯の顔は強張っていた。それを疑問に思うと、真横にビート板女がいる事に気付いた。その女は赤いパレオタイプの水着を着ている。派手な水着の割に、ゴーグルをしていてビート板だ。それにかなりのスタイルの持ち主だった。
(この女はまだ10代だな……まさか、俺が揉んだ乳は……)
どうやら、俺が揉んだ乳は東堂さんでは無かった。相手の反応からしてビート板で泳いでいた黒髪ショートカットの女だったんだ。その女はゴーグルを外し、大きな胸を抑えながら赤くなっていた。
「き、気合いの入れすぎだ赤井……」
「お前は!? かざ……風祭なのか?」
俺の知る風祭は巨乳では無いはずだ。何故か巨乳になっている風祭が目の前にいた。
『……』
まさかの風祭の登場に、俺達の時が止まる。




