6話・絡み合う歯車達
「自家製タマゴサンドだ。気合いの足りない赤井にくれてやる」
昼休みにお気に入りの場所である校庭横の資材倉庫裏で、パンを食べていた俺の前に風紀委員の風祭が現れた。少し東からの風が強いので風祭のショートカットが乱れている。
「そこは風上だから座るならこっちの方がいいぞ?」
「いや、赤井は気合いが足りないから私がここに座る。毒入りじゃないから食えよ」
「サンキュー。風祭のパンはたまにもらうが、案外美味いのが謎だ。あの風祭にこんな能力が……と初めてもらった時は驚いたぞ。同じマンションという事以上に驚いた」
「謎で悪かったな。同じマンションは私も驚いたさ。ちなみに、私のパンは母親直伝だ」
同じマンションだから風祭からは、たまにパンとかを貰っていた。俺も親父の見上げ物などを風祭にあげている。勿論、マンション内での話だ。
(わざわざ俺が誰かのプレゼントなどを受け取らないのをわかっていながら、これを学校で渡した理由は唯の件だな)
やはり、金髪で派手な唯を見逃すのは嫌なんだろう。風に流されて飛んで来た葉っぱの切れ端が風祭の髪に付いた。
「髪にゴミが付いてるぞ?」
「え? うわ!」
「お……」
ゴミを取ろうとして、触れようとしたら弾かれた。あたふたする風祭はショートカットの髪をぐちゃぐちゃにしながら言う。
「すまん赤井! 私は触れられるのはまだ慣れてなくてな。慣れるよう努力する……」
「あぁ、そうか」
風祭は男嫌いな面があるから、俺も余計な事をしたなと思う。風紀委員をしつつ、男と接する事でそれを改善して、認められたい男がいるとマンションで会った時に言っていた。その相手はケンカが強い男のようだ。俺には関係無い。
「わざわざ来たという理由は、西村唯についてだろ? 言いたい事はだいたいわかるが、転校生という事も考えろよ?」
「わかっているさ。あの金髪女とは仲良しのようだな赤井。今日は転校初日でこの誠高校の風紀がわからないようだったが、今後は許さないぞ」
「風紀っても、風紀委員会はあくまで注意の範囲が限界だ。それにこういう事はイタチごっこなんだよな」
「イタチでもスダチでも風紀は風紀だ」
ここらでこの話は辞めておこう。疲れるだけで時間の無駄だ。
そもそも、夏休み明け、冬休み明けとか気分転換や何かの影響とかで髪を染めたり、ピアスをしたりする。高校生なら当たり前の事だ。風紀も大事だが、厳しい風紀だけじゃ他人の反発を招くだけ。
「邪魔したな赤井。私は見回りに行く。気合いいれろよ赤井」
「おう、じゃあな」
やっと、風祭が去った。
自分で買ったパンと、貰ったパンも食べたからもう眠くなって来てるぜ。相変わらず東からの風は強い――はずだったが突如止んだ。
「東堂さん……」
風祭と入れ違いに、東堂さんが現れた。
どうやら、大食いで早食いの東堂さんは弁当を食べた後、散歩をしていると何故か資材倉庫の裏に向かう風祭を発見し、追跡したようだ。
「何か風祭さんを追跡したら、面白いネタがあるんじゃないかと思ってね。そしたら、そのネタがありました」
「それは、西村唯との関係かな東堂さん?」
「大当たりだよ赤井君」
「……ただの中学時代までの知り合いだよ。別に仲良くしたいわけでも無い。好きでも無いしな」
「ただ好きでいられるのは、今だけだよ」
青眼を輝かせ、透明な笑顔の東堂さんは言う。人を見透かすような事をされても困る。俺はあくまでここではグレイなんだからな。
「知っての通り、俺はグレイだ。だから唯とは東堂さんと同じ。友達でしかないよ」
「自分の気持ちに正直でいられるのは今だけだよ」
「どういう事だ?」
「大人になれば、ここまで純粋な気持ちは無くなる。それは、世の中の大人を見ればわかる」
「何か、達観してるけど諦めにも聞こえる言葉だな」
「だって、純粋な気持ちは物語の中にしかないから。だからこそ、人は架空の物語に惹かれてしまうの」
東堂の顔は微笑んでいる。白くもあり黒くもあり、善も悪も全てをひっくるめたような究極の笑みだ。これだから青眼の東堂は恐ろしい。この女の洞察力はすでに俺がグレイで無いと見抜いてるのでは? と思う時がある。
(だから、マコトプールに来たりして俺を探っていたのか? やはり青眼の東堂は気を付けないといけない。唯が来た以上、尚更だ)
そんな事を思いつつ、昼休みは終わりに近づく。
そして、タイミングはズラしたが二人共昼休みにいなかった事を唯は察していたようだった。
何故なら、唯は風祭に俺に荷物を預けたままだからどこにいるか? を聞いていたからだ。そんなウソで唯は俺の居場所を特定していた。それを校舎の窓から見ていたようだ。二人が揃って資材倉庫裏から出て来る瞬間を――。
「うーん、面白くなって来たかな。どうやら総司は男も女も好きなグレイというキャラクターで通しているようだけど、やっぱり特別はいるんだよね。恋愛感情は無くても、特別はある」
そして、それを知らない俺は東堂さんを先に行かせた。その光景を唯はねっとりと見つめる。黒髪の長い青目の女を。
「青眼の東堂真白……あの女は面白い。風祭とかいう男女とは違う。かなり楽しめそうだわ。ご自慢の青眼で私を見抜いて貰おうじゃないの」
蛇がカエルを見つけたような瞳で唯は言っていた。
「壊そう」
そうして、西村唯が誠高校に転校して来てから半月が経った。




