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38話・グレイ


 事故にあった東堂真白は、一カ月の間目を覚まさなかった。


 恋と性欲と愛の区別において、恋は西村唯。性欲は東堂真白。愛は風祭朱音だ。


 一カ月前の気持ちがただ消えない炎ように燻っている俺は淡々と日々を過ごしている。そして、東堂は一ヶ月の昏睡状態から目覚め、その後リハビリ生活をしていた。三学期は出席日数も殆ど無いので、東堂は留年も決定している。

 事故によって出版が一時停止されていた「グレイ」に関しては、東堂が復帰した一年後に出版される事になった。グレイはその年の新人賞を取り、青眼マシロである東堂は小説家としての夢を叶えた。


 そして、グレイファンディングとしてクラウドファンディングで得た金で会社設立をした唯は、経営が傾きかけていた市営のマコトプールを買収した。マコトプールはグレイの小説に出てくる聖地としての価値を加えて、リニューアルオープンする事になる。その主人公達である本人達もいるとしてその整備費も稼げた。


 そうして、東堂より一年早く俺と唯と風祭は高校卒業をしたんだ。




 高校卒業してからは大学には進学せず、西村唯が経営するスポーツクラブに入社し、会社の同期には風祭がいて、今度四人で……じゃなくて勇も入れて五人で会う予定だ。


 石田勇は本物のグレイとしてファッションブランドを立ち上げて成功していた。どうやら彼氏も出来たようだ。


 小説の世界で動き出した東堂。

 会社の社長として働く西村。

 同じ職場の同期にいる風祭。


 この先、誰と関係を持つのかもわからない。全員にその可能性はある。でも、今はあの事故の時の気持ちの相手に告白をして付き合う事になった。当然、この先気持ちの変化はあるかも知れない。


 未だに「恋と性欲と愛の区別」は判断がついてもよくわからない事もあるが、恋というものは人を闇に落とすだけでないのはわかった。恋も性欲も愛も素晴らしいものだと俺は心の底から言える。


 この先も、もがき苦しみながら俺は俺なりに、三人の女性に対しての答えを出そうと思う。その結末は、東堂の書く次の小説のラストで明らかになるかも知れない。


「もうすぐ時間か。彼氏彼女としての初デート。この気持ちを掃除する事は出来ないな」


 ある公園内のベンチで、東堂が新人賞を受賞した俺が主人公のグレイを読んでいる。すると、一人の女がコッチに向かって来るのが見えた。


 グレイを閉じた俺は立ち上がり、待ち合わせ時間に現れた女に手を上げ、歩き出した。


 俺が今掃除してやりたい色は「グレイ」だと思いながら。

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