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24話・グレイの卒業


 文化祭の最後に「グレイ」を卒業すると発表した。


 その反響は凄まじく、文化祭ランキングで3位だった一年一組のメイド喫茶が、三年の劇の評価を上回る票数を獲得して1位になってしまうレベルだった。

 だが、グレイの仮面は外していても俺は三人の女にしか特別な思いは無い。だから俺は恋愛掃除相談を辞める事にしたんだ。


 勿論、こんな唐突な事をすれば反発がある。それも覚悟の上だ。俺はもう中立のグレイではない。そしてレッドでも無くまっさらなクリアだ。これからどんな色になるかは、まだ俺にはわからない。


 その俺はマコトプールのバイトを久しぶりに一日シフトで勤務していた。最近は修学旅行や文化祭で短時間勤務ばかりだったから、働き甲斐もあるし締めの掃除にも気合いが入る。


「うっし。やはり最期の仕上げは俺がやらないと仕方ないよな。この水がクリアな程、俺の心もクリアになる。その為にはプールサイドも綺麗で無いと……」


「綺麗にして、クリアになって、グレイでなくなったなら私達はまた付き合えるの?」


「唯……今は掃除中だ。いや、何故ここにいる?」


「掃除を楽しんでるから、私という美少女にも気付かないのよ」


「……」


 何故か閉館後のマコトプールに唯がいた。

 おそらく、他のバイトが帰り際に唯を入れたんだろう。マコトプールのバイト達も文化祭に来てたからな。まさか……アイツ等、唯の親衛隊じゃないよな? という不安は置いておいて唯と話した。


「まだ俺はバイト中だ。邪魔するなよ」


「私は会社経営をする為の市場調査よ」


「市場調査?」


「社長になるから会社を知るのが大事。プールも経営の一つになる予定だからね。やっぱりこの市民プールの雰囲気は安っぽ〜いけど、安心感があるわね」


「安っぽ〜い……とは酷いが、まぁそれが市民プールだ。市民が安い料金で何気なく来れる雰囲気が大事だからな。隣のジムも同じ感じだ」


「男女が総司を監視する為に通っているジムね。この通いやすい雰囲気と値段というのは大事な点ね」


「風祭は風紀委員としての身体作りがメインだけどな。マコトプールも他のナイトプールのせいで最近は客足も減ってる。市営でも民間のような事をしないと今後は売却されるかもな。老朽化もあるし」


「なるほど。市営ならではの問題点ね」


「で、何かいいイメージは湧いたのか?」


「楽しく、食べてダイエットをするエンジョイダイエットね」


 どうやら、唯はエンジョイダイエットというのが会社のキーワードらしい。一応その話を聞く事にした。


「エンジョイダイエットの基本は無理に痩せ過ぎない事が大事。基本は好きなものを食べて、運動をする。このルーティンを楽しくこなして行く。コンセプトとしては、ある程度今の体型をキープして筋肉量を上げて代謝を上げる。痩せるよりも、食べる為に楽しんで運動。勿論、その食事メニューもこちらから提案する事も必要。それがエンジョイダイエットよ」


「楽しいだけじゃなく、本当にダイエットしたい人間にはダイエットメニューの提案をするのか。悪くない案だ。ジム経営と食事の栄養学も身に着く会社なら俺も興味あるかも。でも、ダイエットは一時的に流行っては廃れの繰り返しだから、上手く食品会社との連携も必要だな」


「確かにそうだね。結局、いくらダイエットブームになって廃れたとしても、楽しいというのがあれば続くんだよ。楽しいという点を上手く提供出来れば、この市民プールのように永久的な価値がある会社になれる」


「永久的な価値か。唯は自分の人生に勝ったような感じがするぜ」


「自分に勝たなきゃ、人生じゃないでしょ?」


 私の人生は私自身が切り開く! というような、あまりにも堂々としている金髪の少女にときめいてしまう。手入れされた髪、絹のように白い肌、勝気な二重の瞳。唯の全てがとても眩しく感じて、俺はかつて恋をしていた時を思い出した。


「強いな……唯は」


「ん? 何か言った?」


「何でもない」


 そして、今の俺の心を悟られないように掃除を始めた。


「とりあえず、ちゃんと考えておいてよね。私の会社に入る事。運営においても総司の意見を積極的に取り入れるし、細かい性格の総司にも向いてる会社になると思う。既存の会社のルールじゃ、総司には働き辛いだろうしね」


 確かに唯は俺の性格を心得ている。

 バイトの掃除程度でもこだわる俺は、どこかの会社に入れば軋轢を生む可能性がある。それなら、知り合いの女の会社で働いて自分の意見を反映されつつ仕事が出来ればやり甲斐もあると思った。


「会社名はエンジョイ、エターナル、エクセレントを基本としたE3。そして私は金色が好きだからゴールドをいれる。会社名はGE3(ゴールドイースリー)にするつもり。よろしく!」


 そして、唯は更にとんでもない事を言ってきた。


「で、総司は私とクリスマスを過ごすのよね?」


「は?」


「だからクリスマスの予定。石田君はどうせ女の子と遊ぶだろうから、総司はヒマでしょ? グレイ卒業したら他の女も狙うだろうから、私といた方が安全で健全だよ」


「安全で健全は置いておいて、お前だけが抜け駆けはダメだろ。俺も東堂や風祭から何か文句言われる可能性もあるし、ちょっと考えてくれよ」


「んじゃ、あの二人も交えて話し合おうか? 誰が総司とクリスマスを過ごすのかをね」


「別に構わないが、それで納得するか?」


「じゃあ、東堂さんと男女にもLINEしとく」


 すでに唯のスマホでメッセージ済みのようだ。そして、いきなりプールサイドでしゃがんだ。


「寒いけど、足だけ入れようかな。少しならいいでしょ。総司が掃除してる間だけ」


 スルッとと青い靴下を脱ぎ出した。一瞬見えた薄いピンクのパンツにドキッとしつつ、見てないフリをした。


「仕方ねーな。少しだけだぞ? そもそも掃除中なんだから話しかけんなよ。俺がいないと細かい場所まで手が届かないんだから」


「ゴメンね。続けてていいよ。私はそんな細やかな総司が好きだから」


 そして、唯は足をバタつかせながら楽しんでいた。


(返しづらい事を言いやがるぜ。黙ってると、唯もいい女なんだよな……)


 夜のプールで足を水に沈めている唯に恋をしてしまいそうになる。


(こんな心は掃除しないと。プールの掃除ついでに掃除だ!)


 そう、集中し出すと――。


「あ、もう返信あった。二人共早! 二人共いいってさ!」


「……俺の掃除が進まない」


 東堂も風祭もオッケーなのかと思いつつ、少し安堵してる自分もいた。


「返信早いな。しかも、お前からの誘いに乗るとはな。不思議なもんだ」


「何が不思議なのよ。私の人徳は社長になるんだからあるに決まってるでしょ?」


「そうだな」


 と言っておかないと面倒そうだ。今度こそ掃除の続きをする。早く終わらせないと、俺も帰れないからな。


「ねぇ、総司。向こうで物音がしたよ?」


「マジか? もう誰もいないはずなんだがな……ん!?」


 すると、ジャージ姿で汗だくの風祭がプール内に現れた。


「はぁ、はぁ……マッハで走って来たぞ赤井。疲れた……」


 何故、このタイミングで現れる? と流石にイラついた。掃除をさせてくれ、掃除がしたいんだ!


「マッハで来たのはいい。そもそも、今は呼んで無いだろ唯?」


「うん。今は呼んで無い。クリスマスを誰と過ごすかの会には呼んだ。つまり、奴はバカ」


 確かに俺と風祭の住むマンションからマコトプールは十分も無い。かなりのダッシュで来たとしか思えないぜ……。


「とりあえず暑いから脱ぐぞ。私は勝つ為に来たからな」


 いきなり着ていたジャージを脱いで、水着姿になった。はちきれんばかりの巨乳にスクール水着。アンバランスだが、美しいフォルムだ。けど、唯は俺との時間を邪魔された怒りに満ちていた。


「わざわざ水着着て来たの? しかも、スクール水着。その巨乳をクリスマスに揉まれる事は無いわよ。自分で揉んでイッてろ男女」


「挑発するな唯。そもそも今日はクリスマスの話し合いの連絡で勝負とか関係ねーぞ? 風祭も着替えて早く帰れよ」


「赤井、これは女の戦いだ。黙っててもらおう。泳げるのか西村は?」


「いちいちカンに触るわね男女。泳げるわよ。アンタなんて、そのだらしない乳の重さで沈むんじゃないの? ウケる!」


「なら勝負だ。胸の大きさで負け、水泳でも負けるのを見よう」


「はぁ!? マジ殺す! 絶対に勝つわ! 乳だけダイエットして死ね!」


 やはり水と油だ。風祭も唯の挑発の仕方を覚えてやがる。その唯は制服を脱いで薄いピンクの下着姿になっていた。


「おい唯! せめて水着を着ろ! 下着で泳ぐな!」


「うっさい総司! この私の美しい下着姿でイカせてあげるわよ! その前に男女を倒す!」


 何だか知らないが、唯と風祭の競争になった。俺を好きな女は変人だけだなと思いつつ、東堂に二人もネタにしろと言いたくなった。


(唯の奴……上と下が透けてるのをわかってないのか? 風祭も水着脱がされそうになってるし、水泳勝負じゃないな。プール掃除も進まないし、やれやれだぜ……)


 そうして、とうとう俺を囲む三人の女子とのクリスマス会談へ臨む事になった。

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