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22話・誠高校文化祭開幕


 とうとう、文化祭が開幕した。

 才造高校の襲撃事件はあったものの、文化祭を開く為に被害者達はそれを大事にしなかった。それと同時に、俺がグレイでないという話は広がっていなかったんだ。

 そう、誰も土曜日の才造高校襲撃事件を周囲に話そうとはしなかったようだ。そこに居合わせた生徒達も、事件と文化祭は関係無いとして文化祭に集中していた。


「俺のクラスのメイド喫茶の方は何の問題も無さそうだな。才造高校の連中にチラシ配りをさせているが、ちゃんとやってくれてる。体育館の方への集客も問題無いだろ。とりあえずオープニングとしては上々だ」


 誠高校内をグレイとして見回る俺はそう感じていた。

 一年一組のメイド喫茶は、唯と東堂と風祭をメインにしたチラシ効果で男子と女子の長蛇の列が出来る程の人気だ。最強の三人の女達は噛み合っているのかいないのかはわからないが、三者三様の接客で客の心を掴んでいた。


 それに一役買っているのが、一昨日この誠高校を襲撃しに来た才造高校の連中だ。俺は返り討ちにしたブルーの乃定歳青から罪滅ぼしとして、何かさせてくれと言われていた。なら、誠高校の文化祭を手伝えと言うと、乃定は喜んでやる! と返事をしたから手伝わせた。何か問題を起こしたら、一昨日の件は周囲に広める事になるという話も伝えてだ。


「乃定よ。それと同じぐらい大事な事がある。俺はグレイを演じているが、男は恋愛対象じゃ無い。それも理解しろよ。いいな?」


「あぁ、俺はレッドの赤井を愛しているからな。それは問題無いぜ!」


 本当にわかってるのか? と思いつつも、乃定に文化祭を手伝わせる事にした。


 才造高校の連中は男子校だ。女に飢えている面が有り、ファッションや顔はイケてるから才造の連中は文化祭の集客でかなり使えた。男子校だから普段は会えない女といられるのも良いようだ。これは、俺の組の集客だけではなく誠高校文化祭全体に効果があったんだ。


「……列整理も才造の連中がいるし、メイド喫茶内は三人のアイドルがいで激混みだから別にやる事も無いしな。男は裏方で雑用するぐらいしかない。しかも、今のペースだと材料が足りなくて午後には終わる……校内の見回りを続けるのが吉か」


 隣のクラスのグレイ仲間の勇は、コスプレカフェが終われば当たり前のように女達と遊びまくるだろう。その為に、コスプレカフェに来る男達にも愛想を振りまいて仲良くしていた。いつも女といるから、たまには男と遊んでもいいと思うが中々そうもいかないようだ。


 グレイの仮面が剥がれてから、そんな勇の苦悩すら見えるような余裕というか、視野の広さが生まれていた。そして、体育館裏の空間で一人で昼メシを食べている俺は、焼きそばを食してから屋台のホットドッグに手を伸ばす。マスタードは嫌いだからケチャップだけをねっとりとホットドッグに塗りつけた。


(勇は上手くやるだろうが、俺は午後はどうするべきか? 文化祭で見回りとは言えフラフラしてたら女達に言い寄られてしまうのは確実。ならあの三人の誰かと――)


 すると、いきなり俺のホットドッグに噛み付いて来た金髪の女がいた。


「このホットドッグマジうま。てか、何こんな所でまったりしてんのよ。メイド喫茶大変だったんだからね。客だけじゃなくて、才造の男達もウザいし!」


「唯……俺はグレイとしての校内見回りもあるから仕方ないだろ。勇が誠高校の平和な文化祭の為に変な仕事を作ったから、俺も被害者みたいなもんだ。そして、俺はホットドッグを食われた被害者だ」


「だって仕方ないでしょ? 屋台に並ぼうとしたら、色々な男達が追いかけてくるし、いつの間にか東堂さんも男女も消えてるし!」


「ん? もしかしてもう、今日分のメイド喫茶の材料とか終わったのか?」


「終わったわよ。明日も午前中で終わるでしょうね。ハッキリ言って、私と東堂さんと男女が最強過ぎたわよ。最強過ぎて今日は終わり。私も疲れた。だから休ませて……」


「……」


 そのまま唯は俺の膝枕で寝た。一年一組のメイド喫茶は唯が盛り上げた英雄だからそのままにしておいた。明日も頑張ってもらわないと困るしな。そして、その金髪の女はじっ……と俺の目を見つめたまま言う。


「ねぇ、総司。メイド喫茶が早く終わったら文化祭を楽しもうよ。あの男女から逃げないと、またストーキングしてくるよ」


「何か言ったか西村?」


『風祭……』


 唯と俺は同時にそう呟いた。体育館裏に現れたメイド服姿の風祭は確かに美少女だ。胸元がキツそうだが健康的な肉体から放たれる色気が男を刺激するものがある。その風祭は俺の膝枕から起き上がる唯に話す。


「西村も赤井の気持ちを考えろ。赤井は今は色々と混乱している時期だ。もう赤井の過去を知る人間がいて、そのうち赤井がグレイではない事がバレる。今はそっとしておくのがいいんじゃないのか?」


「それは何の解決にもなってないわよ。グレイでないのがバレてもバレなくても、総司は総司。私の接し方は変わらない。


「なら西村は赤井の気持ちより自分の気持ちを優先するのか?」


「そう、総司の気持ちより私の気持ちが大事だから」


 清々しいほどの迷い無い答えだ。

 やはりこれが西村唯の良さだな。

 だからこそ、俺も付き合ったんだ。

 それでも、風祭は唯への言葉を止めない。


「その理由は……その自分の気持ちが大事という言葉の先にあるのは何だ? その理由は?」


「もういい風祭。お前が心配してくれるのは有り難いが、俺も今は大丈夫だ。才造の連中とも上手く行ったし、もう大丈夫なんだよ」


「赤井は黙っていてくれ。私は西村に聞いているんだ」


 フッと鼻で笑う唯は腰に手を当て、顎を少し上に上げつつ堂々たる態度で答えた。


「理由? 総司は結局、私を好きだから」


『……』


「アンタのように人の気持ちを優先して、時間は無駄に出来ないわ。私は私の思う道を行くから」


 それを聞いた風祭は納得したようだ。すると、俺達用に風祭のファンから貰った昼メシを差し出された。風祭親衛隊と呼ばれる連中がいきなり体育館裏に現れて、焼きそば、ホットドッグ、たこ焼き、お好み焼き……色々なメニューが俺と唯の前に差し出された。そして、風祭の合図で消えて行った。


「風祭……今のはお前の親衛隊なのか?」


「あ、あぁそうだ。この……恥ずかしいメイド服効果で生まれた親衛隊だ。因みに、西村にもいるぞ! 西村は逃げたから西村親衛隊も必死に探している所だろう。東堂さんは小説のネタにする為にどこかで親衛隊との交流をしてると思う。あの人は意外に人の扱い方が上手いと思う」


「そうだな。にしても、みんなに親衛隊が生まれたか。ま、それだけカワイイなら当然だ。誠高校一年一組のメイド喫茶は、大成功だな! これは文化祭ランキングで一位狙えるんじゃね?」


『……』


 今更ながら自分のメイド服をマジマジと俺に見られた事で二人は照れていた。特にわたわたしてる風祭は話題を変えるように一枚の紙を差し出して来た。


「あ、赤井は恋愛マッチゲームの番号は何番だった?」


『恋愛マッチゲーム?』


 たこ焼きを食べる俺と唯はその言葉を謎に思った。


 恋愛マッチゲームとは、誠高校伝統の文化祭カップル製造ゲームのようだ。昔の誠高校は大人しい人間が多く、男女の交流が少なくて文化祭が盛り上がらなかったそうだ。その時、ある生徒会長が同じ学年の男女に番号を与えて、その番号が同じ者達は後夜祭で一緒にダンスを踊るという事をしなくてはいけないようだ。


「……恋愛マッチゲームか。企画としては面白いが、俺はまだ番号見てないな。上履きの上に無かったから、おそらく紙がサイドにくっつくよう横向きになって下駄箱で眠ってるな。確認してくるか?」


『お願い!』


「あ……なら……つか、唯もだろ。食べてないで行くぞ」


 俺と唯が下駄箱に確認している間に、風祭な東堂を探して東堂の番号を教えてもらうようだ。この結果で、俺の心がこの三人の誰に動くのか? 運命の赤い糸は誰に繋がっているのか――が気になるようだ。


(でも俺の番号があの三人と同じとは限らない……でも嫌な予感がするな。下駄箱にある紙の番号は何番なんだ……?)


 何か嫌な予感を感じながらも、俺は下駄箱へ急いでいた。俺と三人の女達は、運命の番号で繋がっているのかという微かなトキメキを感じながら。


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