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14話・混浴温泉-それぞれの想い


 東堂、唯、風祭の三人と俺と勇は混浴という状況の露天風呂の中にいる。白濁湯はとても熱く、これから話される内容はこの熱さを超える予感がしていた。けど、俺はあくまでラフな感じで聞いた。


「わざわざ俺達グレイを呼び出して何なんだ? 東堂も風祭も唯の誘いに乗らなくても良いんだぞ?」


「今回は東堂さんも、男女も話があるから呼んだのよ。この修学旅行中に解決出来る事はしといた方がいいと思ってね。そうだよね二人共?」


『……』


 コクリと、東堂と風祭は頷いている。


「本当なのか勇?」


「僕に聞かれても困るよ。東堂さん、風祭さん。自分で答えなきゃ」


 言いつつ、後ろに流れて背後の石を背中にした。そうして、東堂と風祭は話し出した。


「私も赤井君に話しがある。というより、みんなにだけどね」


「私は赤井に個人的に話がある。西村にいちいち言われなくても、自分で話せるんだ」


 風祭の言葉にフンと鼻で笑った唯は言う。


「この状況にしてやったんだから話せるよね? わざわざ混浴にしたのも、アンタがハッキリしないからよ男女」


「私は風祭だ。いい加減覚えろ。先に話したいなら自分から話せ」


「あっそ。血祭りさん」


 この混浴のキッカケは唯と風祭のケンカだと勇に小声で言われた。どうやら、昨日ここで唯と俺の裸の話し合いを知った風祭が激怒したようだ。風紀委員としては見過ごせない案件ではあるが、激怒しなくてもいいとは思う。


「男女がチンタラしてるから私から話すわ。もう、総司もだいたい理解してると思うけど、泥棒事件の犯人を倒した事や、ナイトプールでのケンカについてこの二人は疑問に思っている事がある。明らかにケンカ慣れしてる総司にね。そろそろこの二人には誤魔化せなくなって来てるわよ?」


「……」


 唯は泥棒を倒した時などのレッドと化している時の俺について自分で語れと言う。それは、東堂と風祭が気になっているというのもある。誠高校ではクールで平穏を好んでいたグレイの俺が、いきなりケンカ慣れしてる所を知れば困惑もするだろう。


 この件も唯はただ俺の過去を暴いて壊したいだけではないのはわかってる。そうしたければ、自分が話せばいいだけだから。


(わざわざ俺に過去を話す機会を作ったのか。余計な事を……とも思うが、そろそろ二人には少し話す必要があるな。人と深く接しないのをモットーにしていたが、ここまで関わったら話さざるを得ないか)


 そうして、白濁湯を両手ですくい顔を流した。勇は瞳を閉じていて、他の女子三人は俺を注視する。目をパチパチさせて三人の顔を見てから話し出した。


「俺は中学時代はグレイでは無かった。グレイというのは高校に入ってから勇に合わせて作ったキャラだ。本当の俺は、ケンカに明け暮れているような男……レッドと呼ばれていた。ナイトプールで見せたような暴力的な俺こそ……赤井総司の本性だ」


 それを聞いた唯は明後日の方向を向いている。東堂は青い目を輝かせながら口を抑えており、風祭はただ俺を見据えていた。勇は相変わらず瞳を閉じていて何も反応しない。そして、俺は今まで嘘をついて騙していた事を詫びた。


「誠高校での俺は全て嘘の赤井総司だ。騙してすまなかった。俺は自分自身の暴力性と、中学時代のある出来事から人と接する事に恐怖を感じ出し、それから逃げる為にグレイになった。つまり、石田勇を利用したんだ。中学卒業して引っ越す事になり、誠高校の近くで不良に絡まれる勇を助けた。そこで、勇がグレイという事を知って俺もグレイになろうとした。それは……俺を変える為でもあったんだ」


『……』


「その後、一学期は完璧なまでのグレイを演じていた。グレイという事を知らせておけば、女から告白される事はまず無い。告白されるのは好きな男の事だけになった。知っての通り、俺はその女達の恋愛事を掃除するグレイとして過ごしていた。その日々は燃えるような感情は無いが、悪くは無かった。そしてある日……感情を出す怖さが俺を支配していた事に気付いたんだ。これはレッドからグレイになった事で気付けた事だ。俺はグレイを演じた事を後悔していない」


『……』


「まぁ、そんな所だ。少し重い話になったかも知れないが、今の話は他の人間に話したければ話していい。唯が誠高校に転校して来た時点で、俺が元々グレイでも無いのはバレると覚悟してたからな。これで俺を嫌いになってもいいし、後の事は皆で判断してくれ。ただ、この修学旅行が終わるまでは赤井班の一員として頼んだぞ」


 そう、俺は語った。肌にまとわりつく白い湯が、心地よい熱さを心に染み渡らせてくれる。東堂も風祭も声を発しない。勇も夜空を見上げたまま黙っている。今日はここでお開きかな? と思っていると金髪の元カノが話し出した。


「ねぇ、総司。私は今の話を聞いても貴方が必要だと思う。尚更思う」


「そうか。唯の会社に入るかどうかはわからないけどな。一応、必要とされて感謝する」


 酷く儚げな声で、唯はその言葉を言う。


「……感情を出す怖さを知ったなら、それを超えるのが人間よ」


 この話に俺は答えられない。

 少なくとも、今はグレイの赤井総司だ。

 今のグレイの自分を超えて行くのは、まだ少し先の話になるだろう。そして、東堂や風祭もいきなりのカミングアウトのような形になってしまい頭が混乱してるだろうと思う。


 今の話を聞いて二人がどう思っているかは、あえて俺も確認しない。

 その答えは今後、否応無くわかるからだ。


「私は……東堂真白は小説家を目指しています」


 突然、東堂は語る。泥棒事件において盗まれた日記帳はまだ見つかっていないが、それは実は小説を書いている日記帳という事だった。俺の少し暗い話の流れを変えてくれたのは、東堂の青眼の洞察力の力かも知れない。


「青眼の東堂が小説家か。だから洞察力があるのか……それが青眼の正体」


「別に青眼という能力は無いけど、洞察力や観察眼は持つよう努力してるよ」


 ようやく、東堂の青眼の謎が解けた。いつか、東堂の小説を読んでみたいものだ。

 すると、やけにソワソワし出したショートカットの女は急に立ち上がった。


「風祭……いきなり立ち上がるとタオルがズレ落ちるぞ?」


「あ、あぁすまん! だが、何か私も気合いを入れたくてな。そう、気合いをな!」


 やはり、風祭の体型は破壊的だ。同学年でここまで発達している身体は無いだろうという程に美しい巨乳。生で見れないのが残念な程だな。すると、男女の癖に色気づくなと唯が漏らしていた。


 そうして、風祭も自分の話を語り出した。


「……さっき西村に昨日赤井と混浴していて激怒したというのは、風紀委員という事が原因では無い。私は……私は高校に入る前の赤井を知っている。昔、私は都内に行った時に赤井に助けられている」


「俺に助けられたのか? 昔の俺に……」


「そうだ。私は赤井に出会ってから今の私が目覚めた。大人しくて、暗かった私が過去のレッドの赤井に救われたんだ」


 風祭は過去に俺に助けられていて、そこから「男」キャラに目覚めた。


(なら風祭は、初めからグレイでは無い過去の俺の事を……)


 つまり、風祭は昔の俺――レッドだった頃の俺を知ってるという事だ。そうすると、やたら気合いを入れろという言葉をかけららた事や、風祭が男キャラに目覚めたのもわかる。


(風祭は……昔の俺を知っていて黙っていたのか。そして、自分が男キャラを演じるようになっている)


 風祭はどこで助けてもらったかなどを話しているが、俺の耳には入って来ない。俺には色々な話を理解して整理する頭が抜けていた。

 そして、風祭は話の最後にこう言った。


「私は赤井のストーカーだ。今まで黙っていてすまん」


 この話は流石に皆が沈黙していた。俺の話が一番重いかと思いきや、風祭の話が俺にとって一番重いという結果になった。


(そんな目で見るなよ風祭……)


 明らかに風祭は今の話の返事を、答えを、どう思っているか? などを聞きたい目をしていた。それは、東堂や唯、グレイ仲間の勇でさえそうだった。この風祭の告白に、俺は何かの答えを出さないとならない。


(最後は俺の番か……。こんな話をされた後に何を話せばいいんだよ。爆弾が無いのは東堂だけじゃないか。今の俺に何かを話せる余裕は……無い)


 焦る俺は目の前の白い湯を見つめた。

 それはレッドになった時のように真っ赤にも染まらず、ただ白く揺れているだけだ。そして、熱いはずの湯が冷水のように感じ出し、まだ数秒しか経たないのに一時間は経過したような疲労が俺を襲った。そして、目の前の湯が真っ黒になった――。


『――!?』


 どうやら、露天風呂の電気が消えたようだ。入口の方も真っ黒になっていて夜の星々の明かりのみが頼りになった。すると、勇はパンと手を叩いて言う。


「星々を見ての温泉も乙なものだろうけど、残念だったね。もう、お開きの時間のようだよ」


 勇の一言で、もうエソラ旅館の消灯時間という事に気付いた。目の前は真っ黒だからそこまで下半身を隠す必要も無い。俺は無言のまま、温泉から出る。


「……?」


 左右の手を、唯と風祭が握っていた。

 振り返ると二人は裸のままだったが、別に何も思わなかった。思った事は、ただ一つだ。


「離せよ」


『……』


 何も言えない二人の女に振り向かず、俺は歩く。勇はその二人に声をかけていたようだが、内容は聞き取れない。

 東堂の青眼が、闇の温泉に沈むような俺達を青く見つめていた。


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