その後
あの不思議な出会いから、一ヶ月程の時が経った。
健太は、あの事を雑誌には載せなかった。
心霊スポット紹介の欄にはまったく似合わなかったし、第一信じて貰える訳が無い。
怪談と言うよりも、笑い話みたいだったあの事を記事にしたら、編集長に怒鳴られるどころじゃ済まされないだろう。
本当に信じられない出来事だった。
健太はしみじみとそう思った。
あまりにも奇妙で滑稽な事だったから、健太も最近では夢だったのでは、と思う様になっていた。
そんなある日の事、仕事をある程度終え、休暇に入った健太は実家に帰ってきていた。
特に予定も無かったし、恋人もいない健太にとって休暇の時に実家へ帰る事はある種の恒例のようになっていた。
とは言え、墓参り等はもう終えてしまっていたので、これと言ってやる事も無く、健太は両親に近況を簡単に報告して、あとは雑談をしながらダラダラと過ごしていた。
そんな感じで健太は母親の作った夕食を食べ終え、居間の隣の部屋に敷いてある自分の布団の上に寝転んだ。
すると、何かが枕の下敷きになっていた事に気が付いた。
健太は気になり、枕を捲ってみた。
「何だこれ?」
枕の下には紙切れが数枚と小さな巾着が一つあった。
健太は紙切れに、何か文字が書いてある事に気が付いた。
それは手紙だった。
筆で書かれた細い字でこう書いてあった。
“お久しぶりです。今から一月程前、飢えで苦しんでいた私を助けてくださった事を憶えていますか?あの時は本当に有り難うございました。貴方は初対面どころか人間ですらない私に優しく接して、そして心配までしてくれました。私の心は今も貴方への感謝の気持ちで一杯です。せめてものお礼にこの秘薬と製造法を貴方に差し上げます。縁があったら、また何処かで貴方に出会えますように”
健太は手紙を読み終えた。
丁寧に自分の気持ちをそのままぶつけた様な内容の不思議な手紙。
手紙には宛名も差出人の名前も書いてなかったが、健太はすぐに誰が送ったのかが分かった。
「やっぱ大袈裟だなアイツは。そういや名前、教えてなかったな」
健太はそう呟いた。
「そういえば、この薬って一体何の薬なんだ?」
健太は疑問に思い、手紙を読み返したり、手紙に付いてきた製造法が書かれた紙に目を通したりしたが、結局さっぱり分からなかった。
巾着の中の薬を見ても、見た目は黒っぽい丸薬だという事以外は全然分からなかった。
健太は、うーん、と唸りながら少し乱暴に頭を掻いた。
その時、ハッとある事を思い出し、そして思い付いた。
今は引退して隠居生活を送っているが、自分の父親は元は薬剤師だった。
だったらこれを見せれば、何の薬なのか分かるかもしれない。
「馬鹿だなぁ。すぐに思い付けっつの!」
健太は小声で自分に言うと、巾着と製造法の書かれた紙を持って、すぐ隣の居間で座布団を敷いて座っている父親に尋ねに行った。
そして、それからまた数ヵ月後、健太と両親は世界初の飲むだけで癌細胞を通常の細胞に戻す特効薬の開発者として、世界的に有名になり、一生困らない程の財を成したという。
妖怪から秘薬や長寿の秘訣等の素晴らしいものを教わる。
これは昔から日本に伝わる物語によくある話しである。
夢の様な不思議な出来事はどんな時代にもある事なのである。
すっかり裕福になっても健太は、今の仕事を気に入っている、と編集記者を辞めなかった。
それから冬になって、また休暇に入り、世間も自分の身の回りも少し落ち着いた頃、健太は再びあの田舎へ向かった。
そして、くねくねと再会を果たし、あの時の様にラーメンを食べたとか食べなかったとか。
今も新しい妖怪や都市伝説が生まれる様に―。
おとぎ話は今もこれからも続く―。
妖怪のでる小説を書きたいという思いで書いた小説です。
全体的に短い小説なのに、製作日数がかなり掛かってしまい、本当にすみませんでした。
これからも力を付けて頑張っていこうと思っていますので、よろしくお願いします。
読んでくれた方々に、本当に感謝致します。




