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後編

「お前、本当に腹減ってたんだな」

 くねくねが本当に美味しそうに出来立てのラーメンを思いっきり啜っている様子を見て、健太は言った。

「え?うっ……」 

 がっつき過ぎていたせいで、くねくねは咽てしまった。

 苦しそうにケホケホと咳をする様子をみて、健太は心配なった。

「お、おい。大丈夫か?」

 反対側に座っていた健太は席を立って、くねくねのすぐ隣へ駆け寄り、背中を擦ってやった。

「ケホッ……どうも、すみませんでした」

 落ち着いたくねくねは申し訳なさそうに言った。

「まったく、ラーメン一杯にそこまで必死に食いつくもんなのか?」

 そういえば、いつも蛙を捕まえて食べてるとか言ってたな。

「妖怪の食料事情とかってどうなってんの一体?」  

 健太は元の席に座り、気になってくねくねに尋ねた。

「はあ…大抵は私のように自給自足したり、万屋で買い物をしたりして暮らしています」

「万屋?妖怪って買い物するのか?」

 健太の中にまた疑問が生まれた。

 確かに昔話では狸や狐が木の葉を小判とかに化かして使ったとかいう話は聞いた事があったような気もするが。

 それでも健太はやっぱり何か妙だと思った。

「……じゃあ、何で買い物しないんだ?そもそも妖怪の買い物ってどんなの何だ?」

「え?普通にお金と品物を交換してやりますけど?自給自足なのは…お金が無いので…」

「金って……妖怪って収入とかあんのか?」

 聞けば聞くほど健太はよく分からなくなり、持っていた妖怪のイメージが根本的に大きく変貌していった。

「はい。八百万神の方々から伝説税というものを貰ったりして暮らしています」

「伝説税?」

 またおかしな言葉が出て来た。

「ああ、人間の方はご存知無いですよね。伝説税は、この国にどれだけ伝説を創ったか、またどれだけ有名な妖怪になったかを基準に神様達から贈られるものなのです」

「つまり、有名になればなるだけ金が入るって事か?」

「その通りです。ですから、天狗さんや河童さんはずっと遊んで暮らしていける程の収入がありますが、私はまだ世に出て来て、まだ数年程度なのであまり……」

 健太は神様が次から次へとやって来る妖怪達に給料袋を渡している所を想像して、あまりの滑稽さに笑いそうになった。

「へぇ……給料貰ったり、腹が減ったり、なんか人間とあんま変わんない気がするな」

「そうですか?」

 そう言って、くねくねは少し頭を掻いた。

「それにしても、神様ってのも意外とケチ臭いんだな。自給自足しても空腹で倒れちまう様な雀の涙みたいな給料しか払わないなんてさ」

「それも仕方が無いんですよ。最近はどうも不景気で……」

 おいおい、今度は妖怪の景気の話かよ、と健太は少し固めのチャーシューを噛みながら心の中で突っ込んだ。

「それに……ついつい先輩達に渡してしまう、私にも非がありますし……」

「先輩?お前、金無いのに他の奴にやってんのか?貸してるんじゃなくて?」

 健太の問いにくねくねは気まずそうな顔をした。

「はぁ……頼まれると断れないもので……つい……」

 くねくねは小さな声でそう言った。

「普通は金を貸す事はあるけど、ただ渡すって奴はそんなにいねぇぞ。なんか恩があるとかそういうのか?」

 健太の問いにくねくねは答えず、ただ顔を伏せて、黙ってラーメンのスープを丼から直接飲んでいた。

「……お前って絶対、何かと損をするタイプだな」

 少し呆れた感じで健太は言った。

「いいか。お前はその先輩達に金ヅルとして、うまく利用されているだけだ!そういう連中はな、都合の良い時だけ助けを求めといて、他人の事は絶対助けたりしない奴等だ!だから、さっさと縁を切っとけ!」

 健太はしっかりとくねくねに言い聞かせた。

「し、しかし……先輩達は悪い妖怪じゃありませんよ……会ってみれば、きっと……」

 どこまで、こいつは甘いんだ。

 健太はそう思いながら、説教を続けた。

「お前が腹減らしてへろへろになったってのに、その先輩は助けてくれたか?助けてくれなかったから俺とラーメン食ってんだろ?」

 くねくねはうう、と情けなく唸ると縮こまってしまった。

 それを見て、健太は少し気まずくなった。

 なんか、自分がこいつを苛めているみたいだ。

 周囲は健太達の事などまったく興味無い感じの中年が四人と、厨房でテレビの野球中継に夢中になっている店主と皿洗いに夢中の店員だけなので、人目などまったく気にする必要は無い。

 しかし、それとは別に健太は気まずかった。

 くねくねはしょぼんと縮こまったままだ。

 健太がコホン、と咳を一つした。

「そ、そんなマジにへこむなよ。つまり俺が言いたい事は……アレだ。親切もいいが、自分の事をちゃんと考えて、大事にしろって事だ……」

 気まずい空気を何とかする為にその場凌ぎで言った様なものなので、どうも歯切れが悪い。

 説教なんかして、まるで小うるさい親父のようだ。

「……そうですね」

 くねくねは小さめの声でそう言って、顔を上げた。

「これからは気を付けて、心配をかけない様にします」

 くねくねの青白い顔には微笑みが浮かんでいた。

 それを見て健太は、ちょっと言いたい事と違うんだよなぁ、と思いながら黙って頭を少し掻いた。

「迷惑を掛けてしまって本当にすみませんでした。でも、貴方のような優しい方に出会えて本当に良かったです」

「…………よせよ。たかがラーメン位で……」

 健太は照れながらそう言った。

 ラーメン奢って、少し親父臭い感じで説教しただけなのに……。

「本当にいらない事、しない様にしろよ。ここに住んでる訳じゃねぇから、次にぶっ倒れても助けられねぇぞ」 

 そう言って、健太も微笑んだ。

 その後、健太はラーメンの代金を払い、二人揃って店を出た。

 くねくねは深々と頭を下げて、礼を言い、夜闇の中へと消えていった。

 健太は宿へと戻り、不思議な夕食は幕を降ろした。

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