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愛しいベアトリーチェを探してさまよう幽霊は、令嬢の父だった。

「お前何を企んでいる?」


「あらお父様何もたくらんでなんかないです」」

 

 フィリアさんが死んだときは確か百合の花々を抱えて死んでしまったのでしたわね。

 私も今腕いっぱいに百合を持って笑っています。

 マドンナリリー、汚れなき花は私には似合いませんわ。


「お前、王太子殿下とは?」


「あら今頃お尋ねになりますのお父様? はい、うまくいっておりますわよ」


 いつも通りですといつものほほえみで、お父様に返し、百合の花を一輪差し出しました。

 私知っておりますの、子供を産んだ後、お母様の愛が子供に向くのが嫌だとすごく子供っぽいことを言ってお母様を困らせていましたわよね?

 金の髪に青い目は、愛しいあの方と一緒ですが、お父様もどこかおかしいですわ。


「あはは、うふふ、世はこともなし何もありませんわよ」


 屋敷で百合の花を摘む私を庭で見て、珍しく声をかけてきたお父様。

 美しきベアトリーチェ以外いらないと言い切ったお父様、素敵ですわよ。


「あれは、お前より怖い女だったが……お前はあれには似ていないと思っていたがこうしてみると」


「私はディーン様のものですわ。永遠に……」


「ああそうだな、私にとってのファムファタール、運命の女がベアトリーチェだったように」


 歌うように言うさまはまるで陛下のようでした。


「あれはひまわりと百合を愛していたな」


「ええそうですわね」


 お母様が愛したのはひまわりと百合、汚れなき花と太陽に向かってずっと一途に見つめ続ける花を愛したお母様。


 屋敷に珍しく戻ってきたと思ったら、お庭の百合をすべて切り落とした私を見て、さすがのお父様も異常を感じたようです。


「学園はいっているのか?」


「あら、行っていますわよ」


「そうかそれならいい」


 いつもこのような会話しかしませんの。

 一応一人娘を案じる父親を演じておかないと、使用人の目もありますからね。


 私が一人で泣いているとき、寂しいとき、辛いとき、飼っていたりすが死んで一人泣いていた時、いつもいつもそばにいてくださったのはディーン様だけでしたわ。


 無表情で、何の感情も移さない目で私を見るお父様。

 その目の中にあるのは虚ろでした。

 諦め、諦観といったほうがいいでしょうか?


 お母様が死んだときにお父様の世界は終わってしまったのです。


「お父様、お母様はもう戻られませんわ。再婚でもなされたらどうですの?」


「ベアトリーチェ以外と婚姻など結ぶつもりはない!」


「お父様、そうですわね。あと、私知っていますの。お父様は私を愛そうと努力されたことすらなく、ただお母様のために私を愛しているふりをしてくださっていたということを私、今になってようやく理解しましたの」


 私は百合の花々を庭にまき散らします。

 百合の花の首を取ってみると、お父様は相変わらずの無表情でした。


 私は母がいたときは幸せでした。

 でも母が7歳の時死んでからずっと一人でしたわ。

 

 虐待をされているわけでもありません。

 衣食住だって不自由はしておりません。


 でも愛が与えられなければ、子供はどうなるのでしょう?


 私はただ一人、ディーン様だけを光だと思い生きてきたのです。


「愛していないということなどはない」


「お父様はお母様しか愛していないのですわよね?」


「娘であるお前も愛している」


「あはははは、おかしい、とてもおかしいです。お父様はお母様以外はどうでもいい。私の名前をお母様が死んでからよんでくださったことがあって? 私はお父様なんてどうでもいいのですわ。ディーン様以外いりませんの」


 私がまっすぐにお父様の目を見て言うと、表情が少しだけ動きましたわ。

 楽しげな笑いがその唇に宿りました。


「お前はやはりベアトリーチェの子だ。お前もやはり……」


「私は人は殺しませんの、人殺しだったお母様とは違いますわ」


「お前は!」


「私は殺されたいんですの。ディーン様に殺されたいのですわ」


 もう私の精神は平常ではないようです。

 冷たい自分がもう一人の自分を見つめている。

 私は冷静に冷静にことを進めるつもりでしたが、毎日毎日平気なふりをして学園に行って、アリスさんの顔を見るのがもう……。


 これ以上は無理かもしれませんわね。


 しかもディーン様は私がアリスさんをいじめていると思っているらしいですわ。


 ばかばかしい、何もしていません。


 お父様がこちらを見ていますが、私を見てもやはり何もその目に映していないようです。

 陛下とお父様はやはりよく似ておりました。

 幼いころから、愛しているふりをしているお父様を見ても、私は愛情を求めていたのです。

 父としての愛がほしい、子として愛してほしいなんて本当に愚かでしたわ。


 だって私もお父様なんてどうでもいい、ディーン様だけがほしいのですの。



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