愚かな銀の魔女は愚かな考えに悩む。
「毒、気を失わせるだけのもの。あとは……」
お母様の部屋で私はある薬を見つけました。
いえある薬ではなく、たくさんの薬たちと書付です。
お父様に見たいというと勝手にしろと言われました。
領地にあるものを建てたいといっても、好きにしろというばかりです。
実際領地の経営はされていますが、まるで抜け殻です。
「これは気を失わせるだけのもの、あとは媚薬の類」
お母様は薬の研究をしていたようです。
魔女と言われたひいおばあ様の影響らしいですが。
魔女と言われ、容姿端麗だったひいおばあ様は流浪の民で、いろいろな薬に精通していたそうです。
それを受け継いだのがお母さま。
お母さまのおばあ様は庶民以下といわれていたそうです。流浪の民は一番最下層なのです。
「お母様、いったい何をしたかったのですか?」
棚に並ぶ薬は民間にはないものでした。
私はため息をついて薬の棚を見ます。
私の目当ての薬はありそうでしたが、しかし媚薬の類は使いたくありません。
「気を失わせる。即効性があり」
書付から見つけた薬の小瓶を手に私が笑うと、その姿が鏡に映ります。
一瞬どきっとしました。
「お母様?」
在りし日のお母様にその姿は似ていました。
こんな風に笑っている姿を見たことがあります。
銀の髪が肩先から流れ、緑の目がまっすぐに私を見て、あなたは幸せそうでいいわねと笑ったお母様。
一体何を考えていらしたのでしょうか?
あの時のはかなげで寂しげな微笑みと、今の私の笑い方は少し似ていました。
「しかし毒の類も……」
これを使えばディーン様は私のものになりますかしら? いいえ殺してしまったらいけません。
私を殺してもらうのはいいかもしれませんが。
「アリスさんを殺せば、愛しい人の愛するものを……あははおかしい」
アリスさんを殺せば、戻ってきてくださいますかしら? と思ったとたん、おかしくなってきました。
だって私が愛されていたのに、アリスさんを愛する人です。
アリスさんがいなくなれば他の人を愛するかもしれません。
だから永遠にするためには、籠の鳥のように閉じ込めないといけませんわ。
「あははおかしい、どうしてこう私は優柔不断なんでしょう」
どうしても迷いが出てくるたびにアリスさんを殺そうなんて思ってしまいます。
殺しても私のものにディーン様はなりませんのにね。
少しずつ少しずつ私がゆがんでいく。
私は白く汚れなき鳥とディーン様に言われていました。
誰もねたまず、誰に憎まず、悪口すら言わないと……あははそんな私がアリスさんをいじめているとそれを信じるなんて……。
あの中庭でフェリカ様が私をいじめるとアリスさんが言ったのを口にされたとき、強い憎しみの瞳をされていました。
私が君を守るですって?
あはははは、ふざけないでくださいまし。
ああ、考えれば考えるほど袋小路。
同じ考えに苛まれ、夜も寝ていません。
顔色が悪いといわれ、化粧でごまかしていますが、薬で最近は眠るようにしていました。
黒く塗りつぶされていくようです。
毒薬を手に、私はこれを使えばとまた思い、愚かである自分を情けなく思うのです。
だって毒の薬なんてお母様が何につかったのか思えば思うほどつらくなる。
こんなお気持ちだったのでしょうか?
そういえばおじい様とおばあ様は病死でしたが……。
「目をつぶそうか、顔を焼こうか」
お母さまの生前言っていた口癖をつぶやきながら、私は鏡に映った自分を見て笑い続けました。
やはりそれはお母さまによく似ていました。