愛していたのならどうして言葉にしなかったのでしょうね。
「陛下、フェリーシカも?」
「レイモンド、お前がいつもしている楽しい遊びとやらをしないか?」
私は陛下の隣でただ立っていました。
レイモンド様は少し意外そうにしていましたが、いつも通りの黒い衣服を着て、へぇと言ってクスクスと笑います。
いつものそれは笑い方でした。
「陛下、私はどのようにすれば?」
「……ディーンを惑わせるアリスとかいう女を誘惑せよ」
「ストレートにきましたね」
柔らかく優しく笑うレイモンド様、私を見て小さくため息をつかれましたわ。
「二人が組んでいるなんてねぇ、ディーン、かわいそ……」
「フィリア様もかわいそうでしたわよね」
「フェリーシカ……」
「言われたくない事だってあるでしょうレイモンド様?」
陛下が楽しげに笑うと恐れるようにレイモンド様が身をひきましたわ。
そういえば母の部屋から見つけた本に毒薬の作り方などがありましたが……。
私と母も似ていたのかもしれませんわね。
「はいはい、ではそのアリスっていうのを誘惑とやらすればいいんですよね陛下?」
「レイモンド、お前はフィリア以外の女なら誰でもいいのだろう?」
「陛下もそういわれますか、ええそうです。本当に欲しかったのはフィリアだけですよ。だからそれ以外はどれも同じなんです。僕にとってはね」
フィリアさんは花を手に、歌を歌い……湖に沈んで行かれましたわ。
でもその前に優しいお言葉の一つでもかけてさしあげればよかったのに。
フィリアさんが疑心暗鬼にとらわれ、嫉妬に狂い、おかしくなる前に。
「……フィリアの心はお前にあった。ならそれは幸せな事だ」
「死んでしまったものはもう会えませんよ陛下」
「ベアトリーチェの心は私になかったから、お前は幸せ者だ」
陛下は初恋の女性を失ってから、何もかもどうでもよくなったと聞きました。
それが我が母。
ただ一人を愛し、愛を否定され、狂おしさに狂う。
私と陛下は似た者同士ですわね。
「しかし、ディーンも馬鹿ですね。陛下と自分の婚約者の恐ろしさに気が付いていない」
「そこがディーン様の良いところかもしれませんわね」
私がクスクスと手を唇にあてて笑うと、そこがいいという女もいるんだとレイモンド様が両手を上にあげて、呆れたとように笑われましたわ。
『フェリカ様、私はレイモンド様のお心を思うともう狂いそうですの』
ある時、フィリア様が泣きはらした目で私のところに訪ねてきました。
私が対応すると、どうしてもあの人は私を愛してくれないと寂しげにフィリア様は笑ったのです。
『レイモンド様に直接お心をお伺いしてみては?』
『フェリカ様、あなたが羨ましい、ディーン様はあなただけを愛してくださっているのね』
泣き笑いの顔で、フィリア様が仰った時、レイモンド様もフィリア様を愛してくださってますなどと答えた私は愚かでした。
確かに愛してはいたとはいえ……レイモンド様は自分勝手でしたわ。
だって手に入るものなら別にやさしくしなくていいなんて、ずっとフィリア様は悩んでましたもの。
朝帰りをレイモンド様がされるたびに泣いて泣いて泣いて……最後は花々を抱えて湖に入り、笑いながら死んでいったなんて……。
レイモンド様が私は好きではありません。
だってフィリア様を殺したのはレイモンド様ですもの。
ああでも愛する人に殺されたい、それ以外には殺されたくない。
レイモンド様が指先に力を入れようとしたとき本気のようでした。
私はディーン様以外の人はいやです。
ああ、でも殺されてしまえば、あの人はアリスさんと幸せになる。
それだけは嫌でしたわ。
だからこそそれ以外の方法を考えたのです。
裏切り者には鉄槌を。
そう誓ったのです。