銀の鳥は嘆き続ける。金の鳥の心は手に入らない。
地下室で過ごしていると時間すらわかりません。
「血の臭い……」
私は優しい人でいたかった。
母が寂しげに笑って手を出して、貴方は幸せにねと言い残して死んだ遺言は私は……。
「私の愛が重かったとあなたは言われましたディーン様、私、どうすればよかったというのですか? 時は巻き戻せませんわ。重かったのなら……」
少しだけ何かもう一人の私が囁くのです。
愛しているのなら、愛しているなら……その人の幸せを望むものだと。
でも真っ黒になった心に塗りつぶされていくのですわ。
「ずっと愛していると言ってくださいましたわ」
銀の髪をいつも手に持って笑顔で愛していると囁いてくれました。
ディーン様に言いよる令嬢もおられましたが、フェリカ以外はいらないと言ってくださいましたわ。
側室も持つつもりはない愛していると。
「私、私……」
私はいつもディーン様がやめてくれというたびに心が痛む自分を感じます。
でもそれ以上に傷つき、泣き続ける自分が勝つのです。
「私、あなたが裏切るなんて思ってもいなかったのですわ。ディーン様」
愛していれば、愛し続けてくれる。
ディーン様が微笑んで側にいてくれて、私も王太子妃としてのつとめも果たして、ディーン様を支えて、生きていければいいと願ってましたの。
悪かったフェリカ、私が君の心を裏切ったから傷ついたんだね?
謝るよ、だからここから出て二人で幸せになろう。
誰も私たちを知らない所に行って二人幸せに暮らすんだ。
愛しているよとそういってくだされば、私私……。
「愛しています。鳥かごに閉じ込めて、ずっとずっと二人きり、でも愛していると本当に心からいって下さったら……」
暗闇の中、泣き続けるしか出来ません。
ああ、私はいつも弱かった。でもディーン様だけは諦めきれないのです。
10年間、ずっとずっと愛し続け、ディーン様と一緒の未来を夢見てきました。
フィリア様とレイモンド様、私とディーン様、みんなで幸せに暮らす未来。
奪い去られた幸せ、でもアリスさん一人に奪い去られるなんて、なんて脆い。
絆と信じてきたものはなんだったのでしょう?
「絶対に……ディーン様だけは離しません。絶対に嫌ですわ」
大切なものはディーン様だけ。
一人寂しい夜、お菓子を食べさせてくれて大好きだよと囁いてくれたディーン様。
一緒のベッドで眠って、寂しくないよと笑いかけてくれた幼い日々。
男女は同じベッドで寝ちゃだめなんだってと10歳になった時からなくなりましたが、幼い時、雷が怖いと泣く私を慰めてくれましたわ。
守ってあげる。ずっとずっと一緒だよ。
優しいフェリカと手を出しておいでよと遊びに誘ってくれたこともありました。
「絶対に貴方を解放なんてしてあげません」
わかってほしいだけです。
私が裏切りに傷つき、絶望し、死のうとしたほど悲しんだことを。
ナイフで手首を切ろうとしてふと私が死んだらアリスさんが喜ぶ、ディーン様とずっとアリスさんが一緒と思って、駄目だと思いとどまり、自分の部屋で泣き続けた絶望を。
「生きていることのほうが辛いのですわ」
あなたの心が欲しい、あなただけしかいりません。
私はあなたを目に映し続ける。
地下室の中で泣き続けていると、水晶玉が光りました。
ああ、今日はもうこんな日にちねと確認します。
真っ暗な中、私は一人座っていました。暗闇の方が安心しますの。
朝も昼も夜もわからない、そんな中、ディーン様と一緒。
ここから出せとわめくディーン様、解放しろと言って……。
私は悪くないと言われたのが一番こたえましたわ。
だって私の絶望をディーン様はまだわかってくださらない。
悪かったよフェリカ、愛していると真実、言ってくださればいつでも解放してさしあげますのに。
嘘ばかりつくディーン様。
私を害そうとするディーン様。
ああ、心が痛みます。
でも私はまっすぐにまた地下室の扉を開けて、愛しい人がいる部屋に向かうのです。
開けた途端、私をここから出せとわめくあの人を見て、嫌ですわと答えて、今日はどんなアリスさんをいせてあげましょうと私は微笑んだのでした。
あなたが愛した、貴方を裏切った女のお話をじっくりと聞かせて差し上げますわ。自分が望む地位を手に入れた女はどうなったのか? 聞いてくださいましな。




