愛しい女を失った男は、裏切り者の女を求めないと銀の令嬢は囁く。
「私は一体どうしたらいいんだ。どうしたら許してもらえる?」
「許す。許さないではありません。愛がほしいのですわ」
「愛しているフェリカだから!」
「……しかし嘘をつかれるのは辛いですわね」
私は寝台にディーン様を寝かせて、お水を飲ませてあげました。
あれからしばらくにらめっこをしておりましたが、疲れて根負けしてしまいましたのよ。
だってこちらをじっと見て泣きそうな顔をするのですの。愛しいディーン様がそんな顔をされるなんて辛いです。
「私を愛してなんかいないのですわ。まだ……」
「私は……」
「ああ、まだまだありますのよ、レイモンド様とアリスさんのお話、幸せそうですわよ。ああそれからのお話もあります。レイモンド様はやはりフィリア様を愛していましたのね」
「え?」
「フィリア様以外を本気であの方が愛すると思われますの?」
唇をゆがませ私が笑うと、レイモンドは確かにと小さく呟くディーン様。
私の言葉に動揺するディーン様を見るのはとても楽しいです。
「アリスさんがどうなったか気になります?」
「……」
「うーん、どうなったのか」
「……」
「あら、聞きたくありませんの?」
「何が言いたいんだ」
ディーン様は私を強い目でにらみつけます。あら、やはり素直になっていたのは私を懐柔してここから出る作戦でしたのね。意外にしぶといですわ。
そこがまた好きなのですが。
「そのあとは、そうですわね。秘密です」
「レイモンドは王太子に?」
「まだのようですわよ。王弟殿下がまだ気にされているようで、そうディーン様の存在をですわね。だから自分の息子を王太子にというのは渋られてるようですわ。陛下がお疲れなので、自分が中継ぎのようになることは了承されたようですが、中継ぎ、つまりディーン様が成人してしっかりされるまでの間を……」
「おじ上はそんな人だからな、まじめだから……」
「ええ、それで話はまだ進んでいないようですが、次の王は王弟殿下です。なので、レイモンド様が王太子といっても確実でしょう」
クスクスと笑うと、あいつはそれが狙いだったのか? と小さく呟くディーン様、とても悔しそうです。
「いえ、レイモンド様は王太子なんて面倒くさそうだと言っておられました」
「ならどうしてだ!」
「うーん、アリスさんが地位がある男性がお好きだからでしょう。気を引くためにはそれがいいかななんて言われていたことがありましたから」
「それだけのためにか?」
「ええ」
どうも私の言葉が理解できないというか、嘘だと思われているようです。
これは本当ですわ。
でも目を丸くして、そんなことだけに? と尋ねてきました。うーん、ディーン様ってかわいいですわよね。
「嘘ですわ」
「どれが本当なんだ!」
「次の王が王弟殿下というのは本当ですわ」
私はにっこりと笑って、痛みます? と傷跡を触ると、辛そうに顔をゆがめるディーン様。
傷跡に舌を這わせるとやめろと強い目でにらんできます。
「お願いだ、ここから出してくれ、気が狂いそうだ」
「いやですわ」
「……私はもう正気ではないかもしれない」
「大丈夫ですわ、貴方が狂ったとしても愛していますわ」
私の言葉に目を大きくまた開き、黙り込むディーン様。
どうも最近反応がこんな感じですわね。
愛していると囁いてもくれませんわ。
「アリスさんの姿を見られます?」
「もういい……」
「映しますわよ」
「もういいやめろ!」
「本当にわけのわからない方」
私がにっこりと笑い、傷跡を指で押すと、やめてくれ痛いと顔をゆがませるディーン様。
かわいい、本当にかわいいですわ。
「お食事はなしでよろしいですわね?」
「……食べたくない」
「はいなら明かりを消しますわ」
「勝手にしろ」
もうやけになっているようです。なら好きにさせておきましょう。私は明かりを消して、少しお眠りになられたらいいですわと声をかけるともう何も返事が返ってきませんでした。
私はこれからもあなたのいとしいアリスさんの裏切りを見せ続けますわ。
あなたがいやといっても、私はうふふと笑い地下の向かったのでした。




