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愛しい貴方は籠の鳥、金の鳥は鎖がなくても籠の中。

「時は春、優しく風が辺りを包み込む」


「春の風は緑の葉を撫でるだったな?」


「ええディーン様」


 私は水晶玉を前に詩を吟じています。鎖はつけていません。

 寝台に座り、ディーン様は私の吟じる詩を聞いて、続きはこうだった? と聞いてきます。

 ああ穏やかな日々、こんな風に過ごした事もありました。


「魔法は君の意思によって発動するのか?」


「いいえ、それもありますが、ディーン様が私に危害をもたらす。この部屋から出ようとする。などの複雑な条件設定がありますから、解除しようとしても無駄ですわ。ディーン様の魔法も封じてあります」


「屋敷自体に魔法が?」


「さぁ? 陛下が手配してくださったのでそこまではわかりません。他もあるのかもしれませんわね」


 言葉遊びに近いです。実は他にも仕掛けがあるのですが教えてなんてあげません。

 ディーン様はそんな魔法は聞いたことがなかったなと首を傾げています。


「アリスさんとレイモンド様の姿をもう見なくてもいいのです?」


「今はいい」


 私と結ばれてから数日、ディーン様は映像を見せろとは言わなくなりました。

 この屋敷の魔法属性を尋ねてみたりしています。


「私が眠っていても魔法は発動しますから、無駄ですわよ」


「何がだ?」


「まだここから逃げようとされてますのね」


「していない! それに今はいつだ!」


「さあ?」


 私はお食事にします? ああお肉がいいものが手に入りましたのよとにっこりと笑うと絶対に嫌だと拒否するディーン様。

 しかしそんなにあのお肉が嫌だったとは。


 時間の感覚って意外に適当みたいです。

 白い部屋に人を閉じ込めて、時間をずらして食事を与える。すると人は時間の感覚がわからなくなるという実験をした人がいたそうです。

 ディーン様にもそのようにしてみたところ、時間の感覚があいまいになっているようです。


「今はディーン様がいなくなって三週間ですわ」


「違うだろう!」


「では一ヵ月です」


「本当のことを言え!」


 しかしまだあきらめていないようです。私は魔法が発動しますわよとにっこりと笑うと、ひるんだように黙り込むディーン様。

 

「アリスは……」


「さあ?」


「レイモンドはどうしたんだ!」


「さあ?」


「答えろフェリカ!」


「……ディーン様、私に似ていたら銀髪ですわね。あなたに似ていたら金髪」


「え?」


「うふふふ、私たちの愛しい子はいつこの世界に現れるのでしょう?」


 私がにっこりと笑うと、ディーン様は真っ青な顔で黙り込まれましたわ。

 私はそういえば王太子でなくなったのなら跡取りはいりませんわよね。でも私たちの子供は男の子と女の子一人ずつがいいといわれていましたから、双子だったらいいですわねと笑いかけます。


「私の子が……?」


「そうですわねえ」


「答えろフェリカ!」


「……私に似ていたら銀髪ですけど」


「私と君の……」


 私はクスクスと笑い、ディーン様の青い瞳を見て、優しく唇に口づけをしました。

 ディーン様は小さく私の子と呟き、私はどうしたらと頭を抱え込まれました。


「うーん、名前は何にしようとお話ししましたわよね。女の子なら確かエリシア、男の子なら確か……」


「責任はとる……ここから出してくれ」


「責任、はあ、責任ですか、へえ」


 私は柔らかく優しく笑い、お肉を用意しましょうと再び笑いかけました。

 責任? ばかばかしい。

 まだ多分この方は私の絶望を知らない、私の悲しみを知らない。

 知らないのですわ。


「私と君の?」


「私があなた様以外と?」


「いやそれはない」


「そうですわよね? うふふ、お肉がお嫌、ならリンゴにしましょうね」


 私がにっこりとまた笑うと、ディーン様は青白い顔で私に手を差し伸べます。私がぎゅっと手を握り締めると、本当のことを言ってくれと呟きました。

 私は教えてあげませんと耳元で小さく囁いてみます。


「私に似たら銀髪、ディーン様に似たら金髪、目の色はどうなるのでしょう?」


「フェリカ、頼む。私に本当のことを言ってくれ!」


「本当のこと?」


「今はいつなんだ?」


「さあ?」


 私は適当にはぐらかします。すると時がわからないのは苦痛だと絶叫されました。

 あのお薬効きすぎました? 今がいつかわからないなんて。


「二か月後ですわ」


「……嘘だ」


「では1週間しかたっていません」


「それも違うだろう!」


「……うーん、ならお食事をされた回数を数えておられるようですからそこから導き出してくださいな」


 私はまた微笑み、そういえばパンはもうすぐ焼けますわねと言うと、魔法が封じられているが、一瞬なら君を捕まえることくらいはできるといいます。


「捕まえたら魔法が発動しますわ」


「……君を殺せば」


「悲しいですわ。脅しですか? そうですわね、私に似ていたら銀髪ですわね」


「私の子が?」


「さあ?」


 私を殺せばと言ってみたところ、躊躇しています。

 愛しい人に殺されるのならいいかもしれませんわね。私は首を差し出して、さあ私の首を絞めてくださいと笑いかけました。


「魔法は発動しますけど、私を殺せばここから出られるかもしれませんわ」


「私にはできない、君を殺すなんて」


「ディーン様に似ていたら金髪の青い目の子ですからね」


「フェリカ……」


 私はクスクスと笑い、あなたに殺されるならいつでもいいですわよと耳元で呟きました。

 アリスさんとレイモンド様がどうなったか知りたいですか? と聞いてみると無表情で今はいいとディーン様は答えられました。

 それからずっと黙り込んで、椅子に座り、茫然と私を見ています。


 うーん、脅しすぎました? お食事は? と聞くといらないと首を振られましたわ。


「いりませんの?」


「ああ」


「ディーン様に似ていたらきんぱ……」


「もうやめてくれ」


「わかりました」


 私はお食事はなしにしますわねと笑い、部屋の扉を開けます。すると後ろから私を羽交い絞めにしようとするディーン様。素早く立ち上がり、行動するなんてさすがですわね。


「う、うわああああああ!」


「魔法が発動しますと申し上げましたのに」


 私から手を放して、扉から逃げ出そうとするディーン様。私は足を引っかけました。すると床に崩れ落ちるディーン様。


「悪い子にはお仕置きです。傷は癒してあげませんわ」


 そこでしばらくいてくださいねと笑いかけ、私は部屋から出て行ってカギをかけました。

 しかしまだ諦めていないとは意外です。

 もっともっとお仕置きをしないといけませんわね。私はクスクスと笑い、廊下を一人歩いていきました。





 

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