表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/38

銀の鳥は金の鳥を絶望に陥れる。

『君は王太子妃だ。僕は愛する君を王太子妃にとおじ上にお願いした』


『フィンス伯爵が正式に養女にしてくださると、言ってくれました』


『しかしディーンもどこにいったのやら、こんなに心配していた君をおいて』


『あの方のことはもう口にしないでください。忘れました』


 そっとレイモンド様のあら、お顔をレイモンド様の胸にうずめるアリス様、はしたないですわ。

 私がクスクスと笑うと、ディーン様が唇をかみしめられています。あら血が出ていますわよ。


「ディーン様?」


『愛しています。あなただけをレイモンド様』


『ああ、僕も君を愛している』


『フィリア……あ!』


 あーあ、アリスさん、その名前を口にした途端、レイモンド様少しイラつかれたようですわ。

 唇で唇を封じ込め、これが本当の口封じですわね。

 うふふふ、じっとその姿を見て黙り込むディーン様。見ているだけで心が浮き立ちます。


『君を愛している。だから婚約の儀も予定した』


『うれしいです。レイモンド様』


 あらあらレイモンド様の私室でこんなこと、はしたないですわ。

 私がにっこりと笑って、冷めますわよと声をかけても無視ですわディーン様。


「ほら冷めますわ」


 私は映像を消します。すると強い目でディーン様、私を睨まれました。

 唇から血が出てます。血のにおいがしますわ。おいしいシチューが台無しです。


「血が出てますわ」


「もっと見せてくれ、頼む」


「いやです」


「……お願いだ、愛しいフェリカ」


「うふふふ、お食事が終わり次第、違う映像もありますからお見せします」


「わかった」


 青白い顔、いえ無表情でまたスプーンを拾い上げ、ゆっくりとシチューを飲んでいくディーン様。

 冷めてますわよ、でもまあよろしいですわよね。


「うふふ、パンはいかがです?」


「ああおいしい」


「よかったです」


「……」


 黙々と食事をする私とディーン様、無表情というか、完全に表情を無くしています。

 目も虚ろで、いえ、静かな怒りが灯っています? 青い目が一瞬だけ歪みました。


「食べ終わった。見せてくれ」


「はい」


 私がまた呪文を唱えると、今度は学園の中庭で泣くアリスさんとレイモンド様が映し出されました。

 

『ディーンは王太子ではなくなった』


『え?』


『僕の父上が王位を継がれることになった。僕が王太子になる。それを知ったディーンは絶望して失踪した。フェリーシカもついていったらしい』


『フェリカ様も?』


『ああ』


 ぎゅうっとアリスさんを抱きしめ、その耳元で二人で失踪したと何度も繰り返すレイモンド様。

 抱きしめあう二人を見て、もう何の感情すら顔に出さすにじっと黙ってディーン様は見ておられました。


『僕は君を愛している。だから君を王太子妃にしよう』


『え?』


『ディーンをまだ愛している? なら待つよ』


 あーあ、レイモンド様。少し声が震えてますわ。笑ってますの? アリスさんも気が付かないなんて間抜けです。

 レイモンド様がそっとアリスさんにキスをすると抵抗すらせずこたえています。

 うーん、しかしこの前の映像もありますのよ? それを全部見せたらどうなるのでしょうディーン様。

 まあ私は全部見せて差し上げますけど。


 頬を赤らめ答えるアリスさん。

 しかしころっと行きましたわね。そういえばまだ10日程度しか経ってないのですけど。

 これってディーン様がいなくなって7日目のことですわ。


「フェリカ、これはいつの話だ?」


「さあ?」


「答える気がないのだな」


「ディーン様がいなくなって2週間ですか」


「そうか」


「……うふふ、嘘ですわ」


「嘘か、本当のことはもう言ってくれないのか? ああ、そうだな、私を愛しているのはフェリカだけなのだな」


「はいそうですわ。ディーン様、私はあなたを愛しておりますわ」


「私の手元に今あるのはフェリカだけなのだな」


「ここにずっといてもいいですわね。ずっとずっと二人きりですわ」


「ああ」


 ディーン様、あらあら、もう青い瞳にあるのは怒りでも憎悪でもなく、諦めですか? いえ違いますわね。まだ絶望には遠いですわ。


 私はまだまだまりますわとにこやかに笑うと、それよりも君と過ごしたい、そうだなデザートを出してくれと優しくディーン様が私に笑顔を向けられましたの!


 ああ、うれしいですわ。私がアップルパイにします? と聞くとあれはうまかったなとにっこりとディーン様が微笑まれましたの。


 ああ心が浮き立ちます。私がすぐ用意しますわねと立ち上がると愛しているよと私に……。


「愛していますわ」


 ああ、うれしい、これは嘘ではない。真実?

 でも……どこか虚ろに私に愛を語られます。

 嘘ではない? わかりません。


 でも……とてもうれしいです。


 嘘をついた時の癖はありませんが、まだ何処か真実ではありませんわね。

 あなたが真実、私だけを愛してくれるのはいつなのでしょう? 少しは心が動いているのですか?

 真実か、嘘か、わかりませんが、愛していると私だけを瞳に映して微笑んでくれました。

 そっと顎をあげてキスまでしてくださいましたわ。私を抱きしめて、愛していると囁いてくれました。


 それだけで今は満足ですわ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ