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愛しい金の鳥は、銀の令嬢に哀願する。

「あら、ディーン様。おとなしくなりましたのねぇ」


「いまは……夜なのか?」


「さぁ、どうでしょう?」


 暗闇は人の感覚を鈍らせる。時間すら暗い中ではわからなくなる。

 とか聞いたことがありますわ。

 暗い目でこちらを見るディーン様、あらもう心が折れましたの? 

 魔法の明かりをともすと虚ろにこちらを見るディーン様。


「いまは朝ですわ」


「もう朝なのか?」


「いえ違います。夜ですわ」


「いつの夜だ?」


「教えてあげませんわ」


 この部屋には窓がなく、外が見えません。そのように設計したのですけどね。

 言葉遊びを楽しんでいると、ディーン様の目に強い光が灯りました。

 お洋服は寝間着に着替えさせてあげてますのよ。それを汚してしまったのであらあら臭いもしますわね。

 鎖があっても脱ぎ着できる特別性ですのよ?


 かなり暴れたようで、手足から血が出ていました。

 うふふふ、あはは、どうしたってその金の鎖からは逃れられませんわ。寝台も綺麗にしないといけませんわね。汚れていますわ。うふふそれすら愛しいです。


「フェリカ、私をここから出してくれ」


「いやです」


「いまはいつなんだ?」


「さあ、いつでしょう?」


「私をどうしてこんなところに閉じ込める!」


「あなたを永久に私のものにするためですわ。ここにはあなたと私、二人きり」


 ディーン様はここから出せとかすれた声で怒鳴ります。あらあら怒鳴りすぎですわよ。声が枯れてますわ。


「声、枯れてますわね。レモン水でもお持ちしましょうか? 喉乾いてますでしょう?」


「フェリカ、頼む。答えてくれ……」


 私をまっすぐに見るディーン様。うーん、哀願に変わりましたか。

 哀願、うーん、それもまた違いますもの、私が求めているものはそれじゃないですわ。

 しかし早いですわね、もう少し持つと思ってましたわ。割と気性が強い方ですのに。

 捨てられた子犬のような目と悲しげな表情で見られましても、心が動きません。


「いやですわ」


「フェリカ!」


「魔法も使えないこのお屋敷で、武器もなく、ただの女に閉じ込められるお気持ちはいかが? 陛下もご存じですのよ」


「父上とレイモンドも……」


「共謀者ですわ。申し上げましたでしょう?」


 ああ、言葉遊びですわね。そうそうレモン水をお持ちしましたわとにっこりと笑うと、いまはいつなんだと頼りない声で聴いてきます。


「さあ?」


「フェリカ、君が正気が残っているのなら聞いてほしい。君の愛を裏切ったのは悪かった。私が悪い、君のことを愛している。だからお願いだ」


「はあ、悪いですけどディーン様。嘘はいけませんわ嘘は、心がこもっていない愛しているは聞き飽きましたの。嘘をつくのは悪い子がすることですわよ? 私、悪い子と不実な方は大嫌いですわ」


「フェリカ……」


 はーい、飲みましょうねとにっこり笑ってコップを差し出すと、ゆっくりと口をつけようとします。


「やっぱりやめましょう」


「フェリカ?」


「はい、お水もなしでどれくらい人は生きられるのでしょう?」


 私はコップを取り上げ、うふふとディーン様の耳元で笑いました。

 もう笑う以外できません。

 だってこの人はまだ私をなんとかできると思っていると、だからこそ私は何度も何度繰り返すのです。


 疲れ切った表情、その青い目には恐れとそして悲しみ。

 ああ、でも……素晴らしいです。ずっと二人きりでお話しできるっていいですわよね。


「ディーン様、よければあなたのお好きなポーラの詩を語りましょう。春の章はいかがです?」


「フェリカ……お願いだ水をくれ、飲み物ならなんでもいい……」


「時は美しき春、空は青く、高くとても澄んでいた」


 私が詩を吟じると、頼むから水をくれ、お願いだからと繰り返すディーン様。

 ああこの詩がお好きだったのに、まるで聞いておられない。


「この詩を最後まで黙って聞いていただけたら差し上げます」


「フェリカ……」


「はい続きですわよ」


 私が詩の続きを暗唱すると、黙り込むディーン様。脅しすぎました? まだ1日しかたってませんわよ。捕まえたのがお昼でしたから、今は翌日のお昼です。と言ってみましたらまだそれだけしかたっていないのか? と言われました。


「嘘ですわ。もう3日経ってますの」


「3日?」


「あら間違えました、2日ですわ」


「今はいつなんだ!」


「さあ?」



 黙って聞いていますが、その青い目にはまだ抵抗しようとする色があります。

 うーん、しかしこれって少し悲しいですわ。

 お食事も飲み物もなしですが死にはしません。


「はい終わりました。いい子で聞いてくれましたわね。えらいですわ」


「フェリカ、飲み物を……」


「はい、差し上げます」


 私はコップからレモン水を口に含み、ディーン様の唇にキスをしました。

 流し込むとごくりと飲み干されます。あらもう噛んだりしませんのね?


「うっ、ごほ」


「あら急激に飲まれるからですわよ。ゆっくりと飲んでくださいね?」


 せき込むディーン様を見て、いけませんわと笑いかけると、普通にくれと言われます。

 いやですと言って、またレモン水を口に含むと、何も言わずにゆっくりと私の口づけを受けてくれました。


「うふふふ、素直でかわいいです。ディーン様、愛しています」


「……フェリカ、お願いだ。私をここから」


「ここから出してくれ、私の鎖を外せという度にお食事やお飲み物を一つずつ抜きましょう。そうですわね。はいこれからそうします。今の言葉は聞かなかったことにします」


 私がそういうと黙り込むディーン様。愛していますわと笑いかけるとゆっくりと私もだとディーン様が言ってくださいました。

 あらそれは少しだけ嘘ではないようです。


「あらあら、嘘はおやめになられましたの?」


「フェリカ……愛している」


「はい、私も愛しています」


「愛している。だから」


「はい、だから?」


「ここから」


「はい、お食事を抜きます? それとも」


「……」


 私はそうですわね、明かりを消しましょうと笑うといやだと首を振ります。

 私は悪い子にはお仕置きです。と笑うと、愛しているといってくださいました。


「はい、私も愛しております。ディーン様」


「フェリカ、君を愛している……」


 私は魔法も使い、綺麗に寝台を清掃します。水を出して、あとはシーツも新しいものに変えましょう。

 お洋服を着替えさせようとしたら、割と素直に従ってくれました。体も魔法で出した水をお湯に変化させて綺麗にしてあげたらありがとうと笑ってくれましたわ。

 意識を失っている時と今では恥ずかしさは違いますわね。

 筋肉質でありでも細身の体、ああ素敵です。ずっとその胸に顔をうずめることを夢見ていました。

 私が見ると、恥ずかしげに顔を赤らめました。うふふ、そういえば数度しか見たことがありませんでしたわね。 

 水浴びをされたり、着替えをされているときに見たことはありますが、ディーン様の意識がある今、直視したのは初めてです。

 ズボンはやめましたの、すっぽりと着られる夜着のほうがいいでしょう。

 しかしねえ、まあこれ以上はあまり語りたくはありません。さすがに恥ずかしいです。


「よくできました。そうですわ。お食事をお持ちしましょう。腕によりをかけて作りましたの!」


「肉か?」


「いえ違いますわよ。あのお肉はもうありません」


「なら食べよう……ありがとう」


 うーん、しかし嘘ではなさそうですが、嘘も交じってます。

 あらあら、素直にうなずきましたが、今度はどんな心境ですの?

 私が簡単に作ったシチューとパン、サラダをトレイで持ってくると、素直においしそうだと笑いかけるディーン様。シチューに肉は入れてませんわよ。肉抜きシチューに安心するなんて。

 そんなにあれが嫌でした?


「食べさせてあげますわね」


「ああ」


 素直に口を開けて、食べ始めるディーン様。

 はいスープです。冷ましてあげましょうとふうふうとすると、ありがとうと私に笑いかけるディーン様。


「おいしいですか?」


「ああうまい」


「うふふ、うれしいです」


 うふふ、私が焼いたパン、私が作ったシチュー、私がすべて作りましたの。

 リンゴはデザートです。

 素直に頷き食べ続けるディーン様。

 お皿がからになったとたん、ありがとうと私に笑いかけました。


「お水をお持ちしましょう」


「ああ」


「デザートはリンゴですわ」


「ありがとう」


 にっこりと私に笑いかけるディーン様。

 多分、いうことを聞いて私の様子を見ていますのね。

 とてもかわいい人です。

 ますます愛しくなりました。


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