銀の令嬢は血の滴るレアの肉をいとしい金の鳥に食べさせる。
「はい、あーんしてくださいな」
「フェリカ!」
「……あらこのお肉は特別性ですのよ?」
血がしたたるレアのお肉、フォークに突き刺して食べてくださいましと私は笑顔でディーン様を見ました。
お皿から肉を細切れにして食べさせようとしてあげていると強い目でこちらをにらんでいます。
「私をここから出せ! 鎖をはずせ!」
「このお肉は私が特別に手に入れましたの、それほど火にかけてないのでこんなにほらまだ血が……」
クスクスクスと私が笑うと、手を振り払おうとするディーン様。
「あら、お気に召しません?」
「どうしてこんなところに私を閉じ込める。出せと言っている!」
「……はい、あーんしてくださいな」
「フェリカ、君は狂っているのか?」
「時々、考えてみるの。あなたがいない世界は暗闇だわ。あなただけが私の光、ずっとずっと一緒に過ごしたね。だから、あなたが死んだら私も死ぬの、永遠をあなたと……」
「フェリカ!」
私が笑うながら歌うと、強い目でまた私をにらみつけるディーン様。
芸がない反応ですわ。顔を真っ赤に怒鳴りつけるなんて、レディーに失礼ですわよ。
出せ、鎖を外せ、君は狂っているのか? どうしてこんなことをするんだ以外にお話しできませんの?
「はい、食べてくださったらあなたの質問にお答えしますわ。ディーン様」
「これを食べたら、本当に私の質問に答えるのか?」
「はい」
私はにっこりと笑って、はいあーんしてとまた言うと、しぶしぶといったように口を開くディーン様。
「はい、ゆっくり噛んで味わってくださいな」
「うっ、ごほ、フェ……」
「はい、次ですよ」
「フェリ、これはなんだ、やめろ!」
「飲み込んでくださいな」
ごほごほと咳をして顔をゆがめ肉を出すディーン様。あらあら勿体ないです。
特別に用意したお肉ですのに。
「おい、これはなんだ!」
「なんでしょうか?」
「こんな味、私は!」
「それは秘密ですわ。ほら食べきってくださいましな」
笑顔で私はまた次のお肉をフォークに差し出し食べてくださらないと、どうしてこんなことをしたのかお返事しませんわよと笑いかけます。
耳元で囁くと、これはいったい何の肉だと再び怒鳴りつけるディーン様。
顔があらあら、真っ青になってますわ。
「うふふ、あはははは、あら、秘密です」
「秘密、秘密と、私はこんな味の肉は食べたことはない! 一体」
「うーん、そうですわね。あなたのいとしい者? ですか」
「え?」
「うふふふふ、あはははははは」
「おい、フェリカ……」
「あらあら、あなたの愛しい愛しい白馬さんのお肉ですわよ」
「え?」
「よく私たちを乗せて走ってくれたものでしたが、年でしたから……」
「私は、私は馬、私のミーシェの肉を……」
ミーシェという名前でしたわね、あの白馬さんはそういえば。口に入れた肉を慌ててまた吐き出すディーン様。
あはは、その真っ青な顔は恐怖が浮かんでますわよ。
私が嘘ですと耳元で囁くと、驚いたように身を引くディーン様。
「ミーシェは元気ですわよ。これは特別に魔法の研究所で新しく用意したお肉ですの。肉の代替品になるかと言って試食をしたらしいですが、みなさん体調を悪くされて入院されたらしいですわよ」
「……代替品?」
「材料は何か知りませんけど」
真っ赤になったり真っ青になったり忙しい人ですわね。
ほら早く食べてくださいなとにっこりと笑うと、いやだと頭を振るディーン様。
「ほら食べてくださらないと、質問にお答えできませんわよ?」
「いやだ、食べたくない!」
「あらあら、わかりました。では質問にはお答えしません。あーあ、お洋服が汚れてしまいましたわね。でもまあしばらくこのままでいいですわよね? ではごきげんよう」
「おいフェリカ!」
「そうですわね、よければ明かりは消していきます。お食事のあとのお昼寝などよければどうぞ、デザートのリンゴはそのあとで」
「フェリカ、答えろ。どうしてこんなことを!」
「お休みなさいまし」
お洋服はかなり汚れていますが、それも素敵ですわよ。私は魔法の明かりを消すと、部屋が真っ暗になりました。おい明かりをつけろ、鎖を外せとディーン様は怒鳴ります。
うーん、どうしてこう芸がないというか……。お肉が勿体ないですわ。せっかく焼きましたのに。
やっぱりよく焼いたお肉が一番ですわね。私はミディアムが好きですが。
「うふふ、お肉が何か? それはやはり秘密ですわ」
「フェリカ!」
「ごきげんよう」
私は部屋の扉から出ていくと、ここから出せという怒号が響きます。
うふふ強い憎しみと戸惑い、恐れ、素晴らしいですわ。
しばらく一人にしてさしあげましょう。
人にとっては暗闇も恐怖らしいですから。
お肉の正体は、もう少ししたら教えてあげましょう。ああ心が躍ります。
お食事はしばらくなしにしましょうか、リンゴは私がいただきましょう。