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金の鳥が目覚めたとき銀の令嬢は微笑む。

「……ここは?」


 暗い中佇む私を見て、いとしいあの人は目をゆっくりとあけました。

 中々良い光景です。

 計画を練ってきましたが、中々実行にうつせなかったのが残念でしたわ。


「フェリカ?」


「はい、おはようございます。お目覚めですか? ディーン様?」


 私が笑いながらりんごをむいていると、ベッドから起き上がりディーン様は目をぱちぱちさせます。

 相変わらずかわいい反応をされますわね。


「私は……」


「私という婚約者がありながら、お忍びでいとしいアリスさんのところに行かれようとするなんて駄目ですわよ」


 クスクスと笑うと起き上がろうとするディーン様、いけませんわ。まだ薬の効果は切れてませんわよ。


「これは!」


 じゃらりとした鎖で手足をベッドにつながれているのを見て驚くディーン様、その反応が最高ですわね。

 薬で意識を失わせたのは失敗かと思いましたが、これもこれでいいですわ。


「フェリカ、一体!」


「うふふ、ディーン様、これは陛下もご存知のことですのよ。ここは私たちの愛の巣です」


 私はりんごをむきおわり立ち上がりました。そしてはいと差し出すと、ぱしんと私の手をディーン様が払いのけました。ああ、その目を見るとドキドキします。

 昔、私の目を見て優しくキスをしてくださいましたわよね? あの日は遠いです。


「ここは一体どこなんだ! 君は!」


「……あなたは私という婚約者がありながら、浮気をされていました。これがひとつ」


 罪状を読み上げる私を見て、恐れるように身を引くディーン様、あら、青い目に少し恐怖が浮かんでいますが私は怒っておりませんわよ?

 ただ悲しいだけです。


「ここはどこだ!」


「そしてふたつめは、アリスさんが庶民だということ、なのに浮気相手を王太子妃にしようと画策したこと、これがふたつめ」


 私は落とされたりんごを拾い上げ、しゃりっと食べます。あらおいしいですわ。

 クスクスと笑うと、ディーン様は黙り込まれました。


「はいみっつめはアリスさんを私がいじめたといううその罪状を作り上げ、私を断罪しようとされていました。これがみっつ、はい陛下に私が報告しましたらいたくご立腹されて、私のこの案を受け入れてくれましたの」


「案?」


「はい、私たちの愛の巣で二人きりで過ごす計画ですわ」


 りんごを食べ終え、私はナイフを取り出し、また次のりんごをむき始めます。

 あら、ディーン様の目の前でやってみせましたら、その目が恐怖の色で染まってますわ。


「ここはどこだ!」


「はい、ここはうちの領地の片隅で、私たちの愛の巣として作った屋敷ですわ。その一室です。私たちはここで暫く過ごして愛をはぐくみます」


「私はいやだ! ここから出せ!」


「拒否いたしますわ」


 クスっと笑いむきおわったりんごをあーんしてと食べさせてあげようとしましたら、また払いのけられてしまわれましたわ。

 気性が強い人でしたが、この元気を保っていられるなんておしおき方法を考えなければいけませんわね。


「愛していますわディーン様」


「私はもう愛してはいない、愛してるのはアリスだけだ! それにレイモンドも君と!」


「レイモンド様も共謀者ですわ、それにあなたが愛しているのはアリスさんなのは知っていますわ。でも人の心は変わりますわ。つり橋効果ってご存知ですか? ディーン様」


 陛下は仕方ないといって苦笑されましたが、二人きりで人は過ごすと恋に落ちると言ったら了承してくださいましたわ。


「つり橋で男女が出会うと恋に落ちるらしいんですの。部屋で二人きりでいると恋に落ちるように」


「恋? フェリカ、気が狂ったのか!」


「まあ、もう狂っているのかもしれませんわね」


 ずっと愛してきたディーン様をぽっと出てきた女に取られ、あげくのはてにディーン様が私との婚約破棄をするためにあらゆる工作をした。

 それを知ったときに私の心は凍りつきましたの。

 アリスさんは私に申し訳ないなどと言われていましたが、腹の奥なんてわかりません。

 偶然、ディーン様の目の前で転ぶなんて芸当をする方ですから。


「私はフェリーシカ、あなた様の婚約者ですわ殿下、ディーン様。そうですわね、子供を作ってもいいですわ。二人の子なら……私に似たら銀髪ですわね。ディーン様に似たら金髪」


「……君は狂っている」


「あなたを愛するが故に」


 私はそっとディーン様に近づき、冷たい唇にキスをしました。

 がりっとディーン様が私の唇を噛みます。つうっと血が流れると心が高揚するのを感じましたわ。


「さぁ、今日の食事は何にしましょう? ディーン様」


「私をここから出せ!」


「アリスさんのところにおしのびで会いに行かれるのを知っているのは私と陛下のみ、さあ、あなたの不在は陛下がなんとかしてくださいますわ。二人きりで過ごしましょうね。公爵令嬢である私をないがしろにしたと陛下もお怒りでしたわよ? 王太子としての自覚がない」


 私が笑うと、ディーン様の顔が青くなります。とてもかわいらしい表情ですわ。

 陛下を味方につけたというのはディーン様にとっては絶望の第一歩でしたか?

 二人で過ごして、また恋に落ちるのですわ。

 あなたがいなくなればアリスさんも諦めますわね。


 愛していますわディーン様、誰よりもずっとずっと幼いころから私の生命よりも愛しておりますわ。


 私がさぁ、よければ食事の支度をしましょうと笑うと、食事などいらんとあの人はいいます。

 あら、厨房でとても美味しいしたたるレアのお肉を用意しましたのに。

 お顔が青くなられていますわ。後、りんごの花言葉は裏切りといいますのよ。

 あなたに相応しい果物ですわ。

 食わんと言い張られるなら、あらなら食事なしに数日するのもいいかもしれませんわね。

 私の心はアリスさんとディーン様が中庭でキスをするのを見てから、凍ってしまったのかもしれませんわ。レイモンド様がアリスさんを誘惑している様を見ていると心が冷え切っていくのも感じました。

 あの方はディーン様でなくてもよろしいのよ。それがなぜおわかりになりませんの?

 私はまた笑い、ディーン様に手を差し出し、愛していますわと囁いたのでした。

短編版より改稿しています。

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