5、商店街連盟事務所
魚屋の男の教えに従って、通りを突き進むと、ミソノ商会の看板があった。思ったよりも小さな店構えだ。かなり建てつけの悪そうな一軒家で、隣の建物と一緒になって少し傾いている。
隣の建物も何かの商店だった。一瞥したところ、木製の置時計が並んでいる。時計屋だろうか。
ミソノ商店は、というと、印鑑を扱う店のようだった。よろず証印承りますと書いてある。俺は、ガタガタと軋む扉を開けた。
「いらっしゃい」
低く、上品だがどこか不機嫌そうな声が聞こえた。60代後半ぐらいだろうか。背の低い、痩せた白髪の男が椅子に座っていた。
「何か御入り用ですか?」
眼鏡の奥に潜んだ細い瞳は、口元の笑顔ほど笑ってはいない。俺は一瞬ひるみつつ、口を開いた。
「あの。芝原と申します。旅をしているものでして、初めてこの街に参りました。それで、道などがあまりわからないので、何か地図のようなものをいただけないかと」
「あぁ、なるほど」
男が頷き、
「ここにはないから、商店街連盟の事務所に来るといい」
と言った。立ち上がり、歩き出す男の後をあわてて追う。男は、向かいの通りの角にある小さな家屋の前で止まった。
「シャッターを開けるから、少し待ちなさい」
半分ほど降りていた、シャッターを下から持ち上げる。金属のきしむ音を伴って、錆びたシャッターが上がった。
俺は、へぇ、と思った。この世界にも、シャッターがあるのか。
最初、街の様子を見たときは、土壁が主体であるために、近代的には見えなかったが、よくよく観察すると、金属も機械的なものも存在しているようだ。ただ単に、スラム的な薄汚さを感じるということか。
ディストピア映画で描かれるアジア都市のような雰囲気が、いちばん近いかもしれないな。
そんなことを考えていると、男が、
「入りなさい」
と言った。俺は会釈して、商店街連盟事務所の扉をくぐった。